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  モンスター・ドライヴイン モンスター・ドライヴイン
  【創元SF文庫】
  ジョー・R・ランズデール
  定価 630円(税込)
  2003/2
  ISBN-4488717012
 

 
  池田 智恵
  評価:C
   「スラップスティックSFホラー」という帯の文字から、スリリングで凶悪なモノを期待していたがそうではなかった。B級ホラー映画の世界に閉じこめられてしまった少年の話で、怪物になってしまう友人や人肉食の描写など、一見ハチャメチャではある。しかし、受ける印象はむしろ異空間に迷い込んでしまった少年の冒険小説だ。夜の駐車場の情景描写なんていかにもロマンチックで、異世界へ憧憬を感じさせる。
 ただし、本作の主人公は児童文学の主人公よりシニカルで、そのせいか状況に対して受け身である。その為読者は物語を傍観者の視線に沿って見ることになる。視線の捉え方は基本的にクール。だから見える風景も淡々描写される。それが物足りない。異世界を淡々と魅力的に描写する力は感じ取れるがちょっと密度が低い印象が残った。あえて例えるならマルクス兄弟を観に行ったつもりが、チャップリンだった、という感じ?

 
  延命 ゆり子
  評価:C
   タイトルから痛快なSFコメディを想像していたが、悪いほうに裏切られた。B級映画を夜通し放映するドライヴインシアターが突然異次元に放り出されるというストーリー。「漂流教室」と「フロムダスクティルドーン」を足して、「はだしのげん」のやるせなさをスパイスとして振りかけたようなかんじ・・・といって伝わるだろうか。荒唐無稽である。勢いはある。しかし、暗い。軽く読み飛ばせないイヤーな感じが残る。というのは、極限状態にある人間の汚い部分を執拗に描いているからだ。人間の尊厳とは何か、人間が人間たる所以はなんであるのか、なんてことを考えさせられてしまう。最後にもうひとつのオチが用意されているのだが、私にはそれが救いに思えました。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   はじめに白状しておくが、わたしは、軽妙で、下品で、シニカルな言葉が機関銃のように次々と繰り出される、テンポのよい文章に滅法弱い。もうこれだけで充分に合格点。「ものまね王座決定戦」の審査員席で腹をよじっている井筒和幸の気分だ。まるで、ハンバーガー・ショップで、昨日起きた愉快な出来事とケチャップを口から撒き散らしながら話すおしゃべりな友人のような語り口に、身を乗り出して聞き入ってしまう。
 突如、閉鎖空間と化してしまったテキサス最大のドライヴイン・シアター。事態がのみ込めないままの観客たちはまるで鯨に飲み込まれたピノキオだ。B級ホラー映画を観ていたはずが、いつの間にか、B級ホラー映画の登場人物になってしまったような感じだ。そこで繰り広げられる壮絶な出来事は果たして現実なのか、それとも映画の中の虚構の話なのか、読んでいる方も訳がわからなくなる。小説のなかの彼らと同様に、頭が変になりそうだ。
 クライマックスが近づくにつれて、ナンセンスと不条理に隠されたテーマである「人間の本質」が見えてくる。これに気づかなければ、きっとエルヴィスの幽霊による仕打ちを受けるだろう。

 
  鈴木 崇子
  評価:C
   何と表現してよいのやら、戸惑う怪作。こうなったら強引に感想を述べさせて頂くことにする。設定もストーリーもむちゃくちゃ。と言ってしえばお終いだが、むちゃくちゃなレベルの中でまとまっているのかな、とも思える。主人公たちが突然閉じ込められてしまったとんでもない世界は、戦争、災害、天変地異で日常が崩れ去った世界だとも読み解けるし、極限状況の中、理性を失った人々は、武田泰淳の「ひかりごけ」を思い出させる。(やはり強引・・・?)
 主人公の少年は、特異な登場人物と異常な状況の中にあって、ひとり普通の人である。やや内向的な性格なのか、世の不条理や我が身の気弱さを嘆いて、いつの日か逆転勝利を願っていたふしもある。そんなところ共感できる部分もあるのだが、待っていたってそんな日は永遠に来ないのだとばかりに、作者は支配者としての怪物や胡散臭い宗教家を登場させる。ドライでナンセンスな結末に、回りつづける運命の歯車と諸行無常の響きを感じた!?

 
  中原 紀生
  評価:D
   手のうちようのない苦手なジャンルというものがあって、私にとってのそれはナンセンスSFとかドタバタ・ホラーの類。とはいえ、筒井康隆さんとかルーディ・ラッカーの書いたものなら結構どころか、かなり好きな方なのだけれど、「異才ランズデールの名を馳せしめた、伝説の奇想天外スラプスティック青春ホラーSF」と扉に紹介されたこの作品の場合は、まったく駄目。生理的に受けつけないというか、存在意義すらまったく理解できないありさまで、最後まで読み通すのが苦痛だった。まあそれは趣味の問題なのだから、いかんともしがたい話。これは言わずもがなの蛇足ですが、そういうジャンルを愛好される方は、私の感想など歯牙にもかける必要はありません。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   不思議な気分だ…。この本に最低の「C」評価を付けることにためらいがない。けなせばけなすほど、それがこの本の評価につながっていくような気がするね。「バカ」とか「くだらねー」という否定的な言葉が、逆に褒め言葉になるでしょ。本のページの角を気に入ったところでたくさん折っている。とんでもないモノが登場した時に「ワハハハ」と笑いながら折り曲げたみたい。ドンドコ変テコなモノが出てくるから油断できない。章が進むにつれてきちんと状況が肥大化(クレッシェンド)しているのが嬉しい。映画的な盛り上がり方だ(必ずしも映画になって欲しいわけじゃないけど)。訳文はちょっと読みにくい。でも勢いがあって軽妙で、グロテスク過ぎることもない。必ずしも笑える話ではないんだけど、笑えるんだ。「なんだよこれ−、バッカじゃねーのー!」な−んて言いながら。ポップコーンを食べながらさらっと読み飛ばそう。「C」評価は褒めてるんですってば!

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