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  趣味は読書。 趣味は読書。
  【平凡社】
  斎藤美奈子
  定価 1,500円(税込)
  2003/1
  ISBN-4582831427
 

 
  大場 利子
  評価:A
   斎藤美奈子が書くことはすべて正しいと思い始めている。これはやばいと思いながらも、いつもいつも、溜飲が下がる。膝を打つ。合点する。本書は、著者が「読書代行業」をして、41冊のベストセラーの内容報告をしたもの。
 中島義道著『働くのがイヤな人のための本』の項では、哲学者が「他人の悩みに首をつっこむなど、トキがパンダの心配をしているようなものである」と言う。膝を打っている場合じゃない。格言として心に刻みたいくらいだ。石原慎太郎著『老いてこそ人生』の項は、「石原慎太郎がいまだにベストセラー作家であるという事実について、私たちはどのように考えたらよいのだろう」で始まる。これで十分。
 ●この本のつまずき→「平凡社もこういう稼ぎ頭を探してこないとね」と心配する斎藤氏。自分の勤め先に思わず置き換える。

 
  小田嶋 永
  評価:B
   仕事柄、日野原重明先生には数回依頼したこともあり、尊敬している方の一人なのだが、ここのところのブームにはいささか驚いていた。講演で一言自己宣伝しただけで、展示販売の100冊、200冊が軽く売れる。話を聞いただけでは物足りない、ということなのか。どれだけ「ありがたい」ことが書いてあるのか、まったく関心がないわけではないのだが、買って読むのも、人に聞くのもためらわれる。本書はベストセラーをめぐっての「読書代行業」「読者探偵業」、すなわちベストセラーとはどんな内容で、どんな人が買って読んでいるのかを書いている。「読書人=多民族説」を提唱し、その異文化探検としてのベストセラー・ガイドだという。ぼくもベストセラーを読んでいないので、「その筋からのブーイングが飛んできそうな」紹介の仕方でも、ホント助かる。
 ところで、このような欄でこのようなことを書いているぼくたちって、読書が趣味、なのだろうか。

 
  新冨 麻衣子
  評価:AA
   本が売れないと嘆く出版界をあざ笑うかのごとく、どどーんと売れるベストセラー。読んでもいないのに、なぜか内容を大体把握したつもりになってしまうベストセラー。なぜこれが売れているのか?「みなさん気にはしつつも、時間とお金を割いてまでは読みたくないと口をそろえる。/それならば、と考えた。お忙しいみなさまにかわって、私がお読みいたしましょう。そして、内容をご報告いたしましょう。いわば『読書代行業』である。」と勇んでやってきたのが斎藤美奈子だ。
『文章読本さん江』(ちくま書房)では、日本を代表する作家たちによる文章読本をめった切りにし、『文壇アイドル論』(岩波書店)では現代人気作家をアイドルたらしめた文壇に噛みついた、そんな著者が次に目を付けたのが、天下無敵のベストセラー本。しかし小気味いいほど辛口な斎藤節とするどい視点はここでも健在だ。溜飲下がること間違いなし。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   美奈子姐さんの辞書には「追従」なんて文字はないのさ。売れ筋に追従したり、お追従を言うアホども総なで斬りだよ。本を読むバカ、読まぬバカその又本を作るバカをまとめて畳んでこけにする奮闘ぶり健在。「文壇アイドル論」で毒舌アイドルの名を上げ、「文章読本さん江」でボロズタ批評した小林秀雄の名を冠した賞もらっちゃうお茶目さん、もっとガンガン遠慮なくやっとくれ。エンターティンメント系特にミステリー系ではテンション落ちてるよ。よっぽど叩かれたんねえ。蝶のように舞って出る杭を打つ手をかわし蜂のようにちくりと刺して欲しいよ。「ここ数年のベストセラーときたら現状肯定型の老人応援歌ばかりである」と気取り澄まして居直る硬直精神を嗤う、「倚りかからず」の茨木のり子批判、落涙小説「鉄道員」の泣かせをおちゃらかし笑いに変えて、幽霊の正体見せる切り口鮮やか。「ものすごく売れる本はゆるい、明るい、衛生無害」の「ゆるさ」のしたたかさ、侮れなさを捌く手口も鮮やか。売れてなんぼの本の世界、なんぼのものでもない本がベストセラーになる社会の埃をもっともっと叩き出しておくれよ。

 
  松本 かおり
  評価:A
   昨今の名だたるベストセラー総登場。といっても、歯の浮くようなホメ言葉と推薦文句を垂れ流して作者出版社に媚びまくる紹介本ではない。そもそもなんでそんなに売れてんの?というわけで斎藤氏、ベストセラー各書の質と内容、および購買層にシビア〜に検証を加えているのだ。
 たとえば、『五体不満足』『だから、あなたも生きぬいて』。「ハンディキャップ」ものは売れる、というあたり、特にわかりやすい図式だろう。「絵になる障害者」と「オチコボレの娘」。障害あっても屈託なし。艱難辛苦を乗り越えた今の充実した私っ!キラキラッ!みんな好きなんだよねぇこんなノリが。
『大河の一滴』『生きかた上手』『金持ち父さん貧乏父さん』などなど収録作品40冊以上。趣味嗜好先入観金銭その他の理由から無縁だった本も、おかげでゼーンブ読んだ気になった。「過去に売れた」というだけの本に、今さら新たに無駄金を使わずに済む、アリガターイ本である。

 
  山内 克也
  評価:A
   10万部、20万部は当たり前。中には私の住む佐賀県の全人口の2、3倍くらいの部数を誇る「ベストセラー」を、著者が代わって読み、なぜ「売れるのか」を一刀両断に解きほぐす。
 ベストセラーを分析、類型化する著者のアクロバットな批評術に、目次を眺めるだけで感嘆する。第1章『読書の王道は現代の古老が語る「ありがたい人生訓」である』には、五木寛之「大河の一滴」や日野原重明「生き方上手」。第4章・『見慣れた素材、古い素材もラベルを換えればまだイケる』には、週刊金曜日編「買ってはいけない」西尾幹二「国民の歴史」。各章のタイトルと、そこに紹介している本の名前が微妙に響き合い、ベストセラーたるゆえんのヒントを与えてくれる。
 もちろん、本文自体も辛口甘口、巧みに使い分け、各ベストセラーの欠点、面白さを的確に批評している。ま、この本はじっくり読んで味わった方がいいでしょう。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   愛情表現にもいろいろあるが、これほど攻撃的な愛を浴びせかける人はいない。本書は『海辺のカフカ』『ハリー・ポッター』『五体不満足』といったベストセラーを、普通にお薦めしない、愛に満ちた書評集である。
 遠回しにほめているのか、ただの皮肉か。微妙な言い回しはあるが、ストレートに絶賛することは、ほぼ、いや全くない。
 では、嫌みな本なのだろうか。そんなことはない。趣味は読書。厳しい批評は、著者への尊敬の念と愛情の裏返しなのだ。なんて手ぬるい訳がない。読者はともかく、作者がそんな都合の良い解釈をするとは思えない。
 だからといって、文句を垂れているだけではない。その批評眼は鋭く、的確で具体的な指摘は他に類をみない。抽象的な形容詞でごまかすこともない。さらに、脱線しまくりネタばれ寸前の文章は、他の追随を許さない。
 統計的な要素も見逃せない。100万部と視聴率3%が同意である。これを知っただけでも、読む価値はあった。なぜ売れたのかについての毒舌解説も笑える。愛あればこその、言いたい放題、好き放題本なのだ。

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