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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ロデオ・ダンス・ナイト

ロデオ・ダンス・ナイト
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
ジェイムズ・ハイム
定価 1,050円(税込)
2005/5
ISBN-4151755519

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  北嶋 美由紀
  評価:C
   舞台はテキサスの小さな町。犯罪など無縁そうな保守的で旧弊な田舎で、十年前に失踪した娘の白骨死体が出てきた。しかも娘の父親は牧師で、教会と町の大物。これをきっかけにゆさぶりをかけられる人間模様の方がメインかもしれない。白血病で余命いくばくもない娘とアル中の妻と経営不振の牧場を持つ失望中の主人公は元レンジャー。町の根強い黒人差別。正義より目前に迫る選挙に奔走する自己チューの保安官。話全体が陰鬱な雰囲気に包まれている。暗い上に、わかったようでよくわからない保安官制度にページをめくる手がにぶる。中心となる流れは二つ。十年前の殺人事件解決、そして牧師の息子がおこす新たな殺人と犯行計画進行中の事件。いくつかの対比もある。父に憎悪を抱く娘と母に反感をもつ娘。娘を失った父と失いつつある父。有能で精悍な黒人保安官助手と太った無能の白人保安官etc.それぞれの要素がどう絡み合ってゆくのか、田舎町ならではの相関関係も読みどころだろうか。一見、犯人は早いうちから見えてくるようで、ちょっとしたドンデン返しつきである。いろいろあったけど、とりあえずはハッピーエンドということで……と思えればそれでよし。本当にいいのか?という疑問が残ることも否定できない。
 女性検事と「頭と勇気の足りない」保安官とのからみが唯一おもしろいところだった。

  久保田 泉
  評価:C
   舞台はテキサス。そう、あの何かと物議をかもし出すブッシュ大統領のお膝下だ。うわさには聞いていたが、人種差別と保守性が顕著にある土地柄で、この点が、物語のキーになっている。人里離れた牧場に、カーボーイ・ブーツが地面から突き出していた。埋まっていたのは、白骨死体。十年前のロデオの晩に失踪した牧師の娘シシーだった。奔放で、トラブルの種でもあったシシーは、自らの意思で失踪してくれていた方が、街にも彼女の周囲の人間にとっても都合が良かった。しかし彼女は実は殺されていた。この十年ぶりの犯罪がきっかけとなり、小さな田舎町に大騒動が巻き起こる。物語は、黒人保安官助手のクライド、クライドの恋人で白人の女性地方検事補ソーニャ、伝説の元テキサス・レンジャーのジェライア、シシーの父親で牧師のジムと弟のマーティンらを中心に、みなが白骨死体に翻弄されていく。地味なストーリーは退屈とまではいかないが、読むうちに誰が怪しいか分かってしまうので、長編なだけにそこがなんともツライ。

  林 あゆ美
  評価:AA+
   華やかなストーリーではなく、どちらかというと地味。でも、文章のあちこちに情感があり、少し古風にも感じる話がとてもとてもよかった。
 人種差別が根強く残る地において、白骨死体が見つかった。その死体が10年前に失踪した牧師の娘だとわかってから、テキサスの田舎町が騒がしくなる……。時間がかなり経過しているにも関わらず、白骨になり見つかってから騒動になるのは、失踪当時、町の多くの人間が彼女が町からただ姿を消しただけだと思い、それに満足していたからだ。なのに、実際は殺されていた。犯人は誰か。引退したテキサス・レンジャーが事件解明にのりこみ、物語が動き出す、ゆっくりと。「10年というのは長い。人は先へ進み、死んでいく」と、主人公がいう。その“時”を取り戻しながら、事件の糸口がみえてくるのだが、決して急ぎすぎず、行き交う人たちの気持ちもきちんとくみながら、だからこそ、すいつくように読み進められる。少しページを閉じて休んでも、物語もきちんとそこで待っていてくれる。複雑なラストもこの話には似合っていた。

  手島 洋
  評価:B
   テキサスを舞台に繰り広げられるミステリー。平和な田舎町に白骨死体が見つかり、それが10年前に失踪していた牧師の娘と判明。謎を追ううちに新たな殺人事件が起こる、という、いかにもアメリカのミステリーらしい展開をみせる。
 最初はなかなか話が進まないのに、いらいらして、最近の小説は無駄にページ数増やして、と腹を立てていたが、読み進めるにつれて登場人物の魅力に引っ張られ読みきってしまった。何といっても、好きなのはダメ保安官デューイーだ。町の人間からも、他の警官からも、妻からも、ただのバカとしか思われていない彼が必死にがんばっている姿は一種感動的ですらあった。ひどいことを言われても、その場では何も言えず、何時間かしないと良い返事が思いつかない、という言葉には共感してしまった。そういうことは多いよ、確かに。この描写にかぎらず、なるほど、と思わせる、絶妙な表現が随所にあるのがすばらしい。
 しかし、話の展開にはもう少し勢いがほしいし、テキサスという設定を生かしきれていない気がする。登場する固有名詞がジョーダン、ケニー・ロジャースではひねりがなさすぎる。99年はサン・アントニオ・スパーズが優勝した年なのに。

  吉田 崇
  評価:D
   うーん、これ、面白いですか? と逆に聞きたい。ほくはこれ、自分で買ってまで読みません。テキサス・レンジャー、ホントはいったい何の事やらわかんないんですけど、言葉の響きは格好いいじゃないですか? それが主人公だったら、何だか生きの良いストーリーがはじけそうじゃないですか? でも、そうじゃない。主人公は元テキサス・レンジャーで今ではさえない牧場の主。妻はアル中、娘は白血病。浮気の一つもしてみりゃいいのに、それも出来ない朴念仁。『マディソン郡の橋』あたりのクリント・イーストウッドのイメージで、僕は読みました。この主人公、腕があるんだかないんだか分かんない。クライド・トーマスって言う人物もそう。飛び交う台詞では二人ともかなり持ち上げられているのだけれど、何だかなぁって感じです。
 原文が悪いのか訳が悪いのか、僕は英語が読めないのでいい加減な事を書きますが、とにかくこの本、台詞が非道い。大笑い、間違いなしです。分量を4分の1にして、人物にいらん事を言わせなければもっと面白いのにと、最後は丸く収める。

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