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がんばっていきまっしょい

がんばっていきまっしょい
【幻冬社文庫】
敷村良子
定価 520円(税込)
2005/6
ISBN-4344406605

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  浅井 博美
  評価:A
   「しょせん自分は勉強も部活も落ちこぼれ。見た目も悪い。-(略)-性格も歪んでいる。協調性もない。こんな人間世の中に存在する価値などあるだろうか。悦子は惨めさに浸った。それは陰気な愉しみですらあった。」
全然明るくない上に、いまいちスカッとした気持ちにもなれない本書を果たして「スポ根もの」にくくってしまって良いのだろうか。主人公悦子ちゃんたら、何だか太宰みたいでもあって、個人的にはかなりのツボなのだけれど、題名の元気いっぱいさと女子ボート部というシチュエーションに惹かれて読んだ人は、どう思うのだろう?文章は荒削りだったり、乱暴な感じも受けるのだが、それもまた味と思わせるような魅力があふれている。魅力といっても後ろ向きな、マニア受けする魅力だとは思うのだが…。本書こそが「スポ根もの嫌い」でも読める小説だ!(先々月の俺はどしゃぶりへの当てつけ含む。)自分(運動部経験無し、根暗)がボート部に入ったら確実にこんな感じになるだろうな、という説得力に納得し大きくうなずく人続出だと思うのだがどうであろうか。そんな人って悦子ちゃんとわたしくらいなのかしら…。

  北嶋 美由紀
  評価:B
   松山の進学校に入学した主人公悦子が女子ボート部をゼロから立ち上げ、失敗、挫折を重ねて新人戦出場を目指すという、いわばよくある、さわやか青春スポーツものである。悦子が入学早々ボート部を設立しようとするきっかけが、やや唐突で弱いような気がするし、ちょっと順調すぎる感もあるが、これも青春(?)と思えば、まあよいか。
 三年間の高校生活を勉学と部活にうちこむ居直り劣等生悦子の姿は個性的だし、メンバー達もおっとりしている反面、なかなか強い。新人戦出場までが表題作。続編「イージー・オール」で琵琶湖でのレガッタ出場がからむ。私は「イージー・オール」の方がおもしろかった。意地っ張りの青春、ちょっぴり恋愛つき、挫折もオマケ、がフルに爆発してこんな高校生活はきっと大きな糧になるだろうし、実際悦子は自分の道を見出してゆく。それにしてもこの高校、とてもおもしろそうだ。めくるページの中から「ショイ!」の声がこだましてきそうで、この言葉が一番印象的だった。

  久保田 泉
  評価:B−
   映画化もされ、現在ドラマ放映中なので、女子高生がボート部を作る話程度は知っていたが、原作をきっちり読んだのは初めて。極めてストレートな青春モノ、そこにスポーツが絡めば王道。スポーツとくればおきまりのあだ名だ。ここでもやっぱりついてます〜。主人公の篠村悦子は悦ネエ、他はヒメ、ダッコ、リー、イモッチ。(本名省略!)この5人が進学校の松山東高校、悦子が創立した女子ボート部の初代メンバー。ちなみに小学校以来天敵の男子は、関野ブーときた。すばらしい。出来の良い姉をもち落ちこぼれで入学した悦子。 気も自我も強いが、コンプレックスのカタマリ。あり余るエネルギーをボートにぶつける。反発しあっても温かい家族も幼なじみもいる。あまりに王道すぎる悦子の青春。しかし、不思議にその正しいマブシサが鼻につかないのは、作者自身の本著に懸けた必死さと故郷への愛情、青春への肯定的な想いが上手く絡みあった結果かと思う。

  林 あゆ美
  評価:C
   女子ボート部つくりたいんです! ないなら作ればええやんかと、男子ボート部はあっても女子のがない高校で、悦子は決意する。
 簡単なことではないんです、ないからつくるというのは。それでも、そうすることで、強い強いカタルシスを得られることも事実です。まぁ、悦子はそんなつもりでボート部をつくろうとしたのではないのでしょうが。数十年前に現役中学生だった私にも、市内で唯一陸上部がないところに転校するはめになり、「なかったらつくれ!」と以前いた中学の陸上部顧問から言われた経験があり、「んなことできませんよ」と気力も体力も燃えず、それ以降走ることすらやめてしまったのでした。さて、悦子は自らたちあげたボート部で何を得るのか――。続編の「イージー・オール」も続けて読むと、最後のおとしどころはストンと落ちるものが。さてさて、落ちたものは何だったのか。あの時、私も陸上部をつくっていたら自分の人生すこし変わったかな、などと少しセンチになりました。

  手島 洋
  評価:B
   地に足の着いた魅力的な青春小説だ。主人公がスポーツ音痴で、最後までそれがつづいているのがいい。スポーツ音痴でも努力の結果、最後は大活躍なんて話はすごく虚しい。やっぱ、お話の世界なのか、と取り残された気分になるのだ。ほとんどの人にはそんな夢みたいなことは起こらないのだから。
 高校の女子ボート部を自ら作り、部活に燃える主人公の性格や思考も表している、まっすぐでわき目を振らない文章が爽快。作品中のひとつひとつの出来事が、驚くほどあっさり描かれている。普通、試合のシーンや主人公の心の葛藤なんてものを長々と描くだろうに。確かに部活に燃えている学生にとって、3年間はあっという間にすぎていくだろうし、いろんなコンプレックスを抱きながらも前に突き進んでいる主人公にはこの文章がピッタリだ。
 唯一、読んでいて気恥ずかしかったのは、いかにも坊っちゃん風な表現(「せっかくだから昼間から風呂に入ってやった」)や設定(主人公を助けてくれる祖母の存在)が登場するところ。松山が舞台で、「坊っちゃん文学賞」を受賞するなんて、あまりにもストレートすぎない?

  山田 絵理
  評価:A+
   愛媛県松山市を舞台にして、女子ボート部を立ち上げた女子高生達の悲喜こもごもの日々を描く。瀬戸内の海の描写がすがすがしい。
 また自分の仲間を見つけてしまった、と思った。主人公・悦子は高校時代の自分そのものだ。進学校に入ったのは良かったものの、周りは優秀で授業にはついていけない。毎日ある数学や英語の授業にうんざりする始末。個性的な同級生に比べ、地味で人見知りが激しく、劣等感にさいなまれる日々。今から振り返ると、恥ずかしくて消してしまいたいくらいの高校生活。悦子のため息は私のため息そのものだ。
 ボート部の奮闘振りはもちろんだが、自分自身・勉強・恋・進路について悩む悦子の感情の揺れを丁寧に描いた部分が好きである。当時の悩んだりしながらもがんばって過ごした日々が思い出され、高校時代がたまらなく懐かしくなった。この小説は大事に手元においておきたい1冊になった。

  吉田 崇
  評価:C
   一番最初に読んだのが映画版のシナリオだったので、原作の悦子ってのが、こんなにも扱いにくい女の子だったんだとちょっと驚く。映画を見てないんではっきり言えないんだけど、シナリオ自体はなんかふわふわ郷愁さそう雰囲気だったのだ。で、本書の評価、低めのC。表題作と、その後日談的な『イージー・オール』の2作品からなるこの本、正直に言うと、今更読まなくても良いかな、こういう感じの本って気がしました。特に『イージー・オール』、小説としては多分『がんばっていきまっしょい』よりも技術的に向上していて、上手にまとまっているんでしょうけど、高校卒業時の、いまだ青春まっただ中という時期に何だかヘンチクリンに悟っちゃった様な事ばっか言っている主人公には共感できません。オトナの目で見た青春なんてぇものに騙されるほど、こちとら耄碌してねぇんだい。
 でも、ま、ほのぼの可愛らしいんですけどね。

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