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図書室の海

図書室の海
【新潮文庫】
恩田陸
定価 500円(税込)
2005/7
ISBN-4101234167

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  浅井 博美
  評価:C
  本屋大賞も取ったし、非常に非常に人気のある作家さんだということは重々承知している。しかしわたしには何だかピンとこないのだ。こんな事を書くと非難ごうごうになりそうで、恐ろしくて、小心者のわたしは必死の思いで書いているのだが、でもなにかしっくりこない。読んだことのある著書は「木曜組曲」と「ライオンハート」と本書のみだ。「六番目の小夜子」も「夜のピクニック」も読んでいない。読んだ方の意見をぜひ聞きたいのだが、それらを読んでいれば「図書室の海」も「ピクニックの準備」もおもしろく感じられるのだろうか?でもそれでは単体の書籍としては成り立っていると言えなくはないか?全編を通して、何かが起こる気配はするのだが、謎があるのだか、恐怖が隠れているのかさえも分からず開いたばかりの幕を引かれてしまうような気持ちの悪さを感じた。抑えた筆致の良さというのは確かに存在するのだろうとは思う。しかし、何も起こらない中での抑えた筆致というのはともすれば「退屈」に流れてしまう危険性もある。難解な書籍を頑張って読んでいるような何とも言えない気持ちになった。

  北嶋 美由紀
  評価:A
   恩田陸はなかなか油断のならない作家である、とつくづく感じた。「夜のピクニック」を読んだ時にどこかで読んだことのある話だと思ったのは、ここに収められている「ピクニックの準備」を読んでいたからだと今さら気が付く。逆に「睡蓮」を読んだ時、どこかで聞いたことのある名だと思った理瀬は「麦の海に沈む果実」に登場していた。最近「麦の海ー」の続編にあたる短編を読む機会に恵まれ、記憶をくすぐられた。「春よ、こい」は「ライオンハート」とどこか似ているし、読んだ当時はよくわからなかった「MAZE]のキャラが「クレオパトラの夢」で全開したり…… 要は作品すべてを読んでいないとその良さを満喫できないシステムなのか、さすがベストセラー作家だ。この本が「恩田陸の予告編コレクッション」とはなかなかよい表現だ。作品の分類、系統
立てにも利用できるだろうし、もちろんサブリミナル効果もある。
 表題作について述べるべきなのだろうが、残念ながら「六番目の小夜子」を読んでいないため、番外篇であるこの作品を今ひとつ正確に把握できなかった。「ピクニックの準備」もこれだけでは何のことやらわからない部分もあって、弱いかもしれない。個人的には「春よ、こい」が一番好きである。

  久保田 泉
  評価:B+
   恩田陸の小説は一つのジャンルにくくれない。引き出しが多いという次元にも収まらない。この作家の小説はモンスターのように色々なものが詰まって飛び出してくる。読むごとに、小説の神様を背負った才気溢れるこの作家こそモンスターか?と疑ってしまう。会ってみたら、案外フツーのおばちゃんだったりして。長編の多い恩田作品の中では、短編集である本著は異色かもしれない。同時に、何篇かは恩田作品から生まれた予告編のようなものもある。表題作は、「六番目の小夜子」の番外編。本屋大賞を受賞した名作“夜のピクニック”の前夜を描いたのが「ピクニックの準備」。その他も、ゆらゆらと不思議な空気が流れるSFや、読後ざわざわと肌が粟立つホラーなどが満載だ。短編ゆえか作品の小粒感は否めないとはいえ、初読の人にはかえって、恩田陸の独特の色合いや魅力に触れる足がかりになるかと思う。予告編の後は本編をどうぞ!“夜のピクニック”は最高にいいど〜!!  

  林 あゆ美
  評価:B
   「あれ、この話あれとつながっている」という、わずかなリンクを発見するのは、ちょっとした醍醐味。とりあえず私にとっては。
 本書は10作入っている短編集で、読んでいくと、あの作品の後日談だ、この作品は予告編だとひとり悦に入ることができるおいしい文庫本。すこし設定に強引さを感じるものもあったけれど、それはそれ。最後には10通りの物語を楽しんだ満足感がきちんと残る。
 私は『六番目の小夜子』が、恩田作品との出会いだったので、表題作の「図書室の海」が中でもよかった。高校の中に代々語り継がれるサヨコの番外編。『六番目の小夜子』に流れるねっとりした空気より少し軽めに物語が進行する。恩田作品は、『夜のピクニック』のようにまっすぐストレートでわかりやすい物語もいいし、ひねりをいれたり、ファンタジックな要素をもりこんだ物語も雰囲気があっておもしろい。それぞれ短編の性格が違うので、作品アラカルト集としても読める楽しさがある。

  手島 洋
  評価:D
   「本屋大賞」も受賞し、評判の高い恩田陸ですが、すみません。私の中ではかなり評価が低い。前半すごくわくわくさせられたのに後半尻つぼみ。このもやもやした気持ちはどこにもっていけばいいんだ、おいしいところだけ書いて逃げられた感じが、いつもしてしまうのです。
 この短編集は恩田陸が大好き、という人にピッタリ、というか、それ以外の読者にはあんまりお勧めできない作品です。長編の予告として書いたが独立した短編になっていないと没にされた作品まであって、完全、恩田マニア仕様。音楽で言えば、リハーサルやデモなどの別ヴァージョンが入ってるようなもの。私のような原曲を知らない、恩田作品から落ちこぼれた人間はどうすりゃいいんだか。面白い短編も中にはありますが、夢、人の死、別れの取り上げ方が若い、若すぎる。おじさんにはついていけませんでした、正直言って。図書館の本の図書カード、昔見た映画の1場面の記憶、石灯籠といった小道具の使い方は好きだし、実験的な面白い書き方をしている作品もきらいじゃあないんですけど。

  山田 絵理
  評価:C
   十の短編が収められていて、各々全く趣が異なっている。しかも解説によれば予告編コレクションみたいなものであり、『夜のピクニック』や『6番目の小夜子』といった代表作の番外編もある。
 すみません。私は全然、恩田陸のよき読者ではなくて、実は本書が初めての恩田作品。のっけから不思議世界が展開していくことに驚いた。懐かしい雰囲気でおっとりと話が進むのに、どこか奇妙で謎めいている。それなのに舞台も登場人物もストーリーの性格も違う10のお話。
 でも、番外編はあくまでも番外編でしかない。つまり物足りないのだけど、この作者はこういう雰囲気のお話を書くんだなあ、というのを感じ取ることはできた。
 余談だが、あとがきで「国境の南」の下敷きになったという立原えりかさんの本について書かれていた。私は小学校の時にその本を読んでいて、その強い印象と衝撃をありありと思い出したのだ。懐かしい本と再会でき、すごく嬉しかった。

  吉田 崇
  評価:C
   今回、何気にズルをしたのでまずひと言。あんまり不勉強じゃ世間様に申し訳ないもんでネットで勉強しました、この著者の事。で、SFマガジンに載っていた『ロミオとロミオは永遠に』の初回を読んでいた事を思い出しました。とは言え、内容は憶えてません、すみません。調べものをした所で、あんまり役に立たない様なので、やっぱりこれからもインチキせず、その本自体と格闘してあーでもないこーでもないと書かせて頂こうと思います。
 で、本書、解説の言葉を借りれば「恩田陸の予告編コレクションのような性格を持った本」らしく、言われてみてやっと『ピクニックの準備』がすがすがしく思えました。この作品、ピンでは決して人目についてはいけないものの様な気がします。だって、これじゃ創作メモだもの。ファンの人にはオススメ、ていうか多分もう読んでるんだろうけど、そうでない人にはちょっと微妙。僕自身は、気になる作家ではありますので、読みたい本リストに書き加えますが。
 

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