年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

楽園のつくりかた

楽園のつくりかた
【角川書店】
笹生陽子
定価 420円(税込)
2005/6
ISBN-4043790015

商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  浅井 博美
  評価:D
   こんなに直球の少年を持ってこられても困るのだ。ガリ勉で東大を目指していて、その先の有名企業就職も見越した上での計画を立てて生活している中学生、なんてそんな人物像を見せられて今時誰が面白がるだろう?そのガリ勉君がド田舎の分校に転入して、個性豊かな面々に感化されていくなんて物語自体使い古されていないか?
 本書も「児童文学」っていうジャンルに入るのだろうか?でもこういう物語に「児童」は面白がって納得するのだろうか?表面的な見方をしがちなくせに、自由な教育を施しているつもりの、自称モノの分かった大人が喜ぶだけのように思えて仕方ないけれど。大体「児童文学」ってわかりやすくするためか知らないが、底が浅すぎて「児童」を馬鹿にしているとしか思えない代物が多すぎる。
 まあ本書の場合、最後の最後にちょっとしたからくりが施されているだけ、まだいい方なのかも知れない。

  北嶋 美由紀
  評価:B+
   偏差値が心の支えで、目指せ東大、一流企業の小生意気で、このままでは絶対つまらん人生を送りそうなエリート中2男子。その名も優。彼は親の一方的な都合と決断で祖父のいるド田舎に引っ越すことに。都会の有名私立中に通っていた勉学第一の少年が、一転して、彼曰くバカばかりの田舎の分校へ。それでも彼は自分の流儀を貫こうとする。
 親の立場で言えば、この親は思い切ったことをすると妙に感動してしまう。頭でっかちの少年がやたらフレンドリーな環境で自分を見つめなおし、やがて……と、ありきたりなプロセスとラストが見えてしまうようだが、ところがどっこい、ひとひねり。リズミカルな文体にのせて語られる少年の心境をおもしろく読んでいるうちに、その軽いテンポの中にも、まだらボケの祖父、明るくのん気な母、そしてクラスメートとの関わりに深〜い意味が隠されていることを知らされる。ラストはちょっぴり感涙。子供は子供なりに人生がんばっているのだ、といつになく私も素直になってしまったかも。

  久保田 泉
  評価:A
   確か2,3年前、本の雑誌巻頭で本著を絶賛する文を読み、早速読んだのが笹生陽子初体験。その時、笹生陽子にガガ〜ンと落雷しました。児童文学好きでかつてはよく読んだものの、十年ほどのご無沙汰の間、なにやら児童文学の世界が凄く面白そうな事になってないか?と慌ててリサーチ。あさのあつこ、森絵都の名を遅まきながら知ったのもこの頃。こんな刺激的で才能ある作家たちを知らずにいたとは…ったくオムツなんか換えてる場合じゃなかったと、もう歯ギシリして地団駄踏みましたね。本当です。4月に紹介した「僕らのサイテーの夏」の主人公は小学生でしたが、本著の舞台はド田舎の中学校。主人公は、上昇志向丸出しのエリート中学生優。突如父親の故郷に引越したものの、転校先の同級生はたったの三人。この同級生たちの個性と背景がまた物語りをバツグンに面白くキラリと光らせる。優の成長とクライマックスの感動が秀逸なタイトルにストンと落ちる。笹生陽子は、ずっと作品を読み続けていたいと思わせる、そんな作家だ。

  林 あゆ美
  評価:A+
   笹生陽子は今とても旬な作家だと思う。文庫本の解説で北上次郎氏が、森絵都ふくめ、講談社児童文学新人賞を通過した作家たちが、児童文学のジャンルから書く幅を広げ、文字通り子どもから大人までの読者を獲得している様を記しているが、同感共感しきり。児童書というかヤングアダルト分野なんだと思う。記憶の薄い小さい頃ではなく、まだその時の名残を覚えている大人たちは、当時、言葉にできなかった気持ちをすくいとり物語として差し出してくれる魅力にはまるのだろうか。
 笹生陽子の物語はセンチにもノスタルジーにもひたっていない距離感がいい。この物語では、エリート中学生の少年、優が突然に「ど」のつくほどの田舎に引っ越すところからはじまる。子どもは田舎でのびのびと、なんていう頭で描いた大人の幻想など描かれるはずもなく、キライな田舎で少年がどうサバイバルしていくか。そしてラストで児童書ならではのカタルシスを得る。うーん、たまりません。

  手島 洋
  評価:B
   笹生陽子の本が課題になるのはこれで二度目。ずいぶん注目されてるんだなあ、と思いつつ嫌な気がした。前回の「ぼくらのサイテーの夏」の主人公がいい子過ぎてまったく面白くなかったからだ。突然、都会の中学生が親の都合で田舎生活を余儀なくされる、という、この本も、主人公がすごく素直。文句をいいつつ田舎にちゃんといくし、学校生活もちゃんと送っている。やばいぞ、これは、と思いつつ読み進めていたら、やられました。今回はどんでん返しがまっていたのです。前作の妙な素直さも、このための前振りだったのか(そんなはずないけど)。どんでん返しだけに、これ以上説明できませんが、そこを体験するだけでも読む価値ありです。
 いろんな過去を抱え、妙に大人すぎる子供たちは、ちょっと現実離れしすぎてるし、可愛げがない気もしますが、素敵な子供たちがいる国を描いた一種のファンタジーということなんでしょうか。でも、自分が小学生だったら、誰に感情移入して、この本を読むのだろう?

  山田 絵理
  評価:B+
   短いお話で1時間ほどで読み終えることができ、おまけにすっきりいい気分になる。この夏のよき清涼剤になること、間違いなし。以前読んだ『ぼくらのサイテーの夏』もとても面白かったけど、こちらも負けない出来栄え。
 世田谷に住む私立中学二年の男の子が、急遽親の都合によりド田舎で暮らすことになった。同級生をライバル視してひたすら勉強、偏差値が唯一頼れる物差し。将来は会社を経営し、温泉付きの贅沢な邸宅に住むことが夢。ただのイヤミの固まりにしか見えない少年が、この先引越し先や転校先の分校でどうなることやら……。
 文章のテンポが良くてサッサッと読めるうえ、味のある脇役キャラが話を盛り上げる。そして何よりも話の紡ぎ方が上手。少年の行動を笑いながら見守っていたと思ったら、最後はこう落としてくるのかー、と心にじわっとしたものが浮かぶ。上手すぎ!
 それにしてもひねくれているようにみえる現代の子供達も、心はこんなふうに素直であってほしい。

  吉田 崇
  評価:C
   途中までは、評価もっと低かったんです。やな感じの主人公に、今ではありがちな設定の脇役達の配置、羽目を外す訳でもなく適当におちゃらけた文章、一体どのグレードに向けて書かれた小説なんだっ!! と、訳もなく怒鳴ってみたりもしたのです。オトナの僕には物足りないぜぃっ!! と、鼻息も荒く読み進め、はっはぁーん、そう来ましたか、でとりあえず納得。最後の文『……よし、今日も元気だ。空気がうまい。』が、じんわりと響きました。
 前回読んだ『ぼくらのサイテーの夏』の時は、この作家は児童文学を書く人だと思っていたのだけれども、どうやらそうではないみたい。多分、もう少し上の世代を描いた小説ならば、もっと切れ味の鋭い面白いものを書く人なんだろうなという気がする。だから、『ぼくは悪党になりたい』は、是非読まなければと思っています、って これも書評とはあんまり関係がない。

WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved