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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

バカラ

バカラ
【文春文庫】
服部真澄
定価 800円(税込)
2005/6
ISBN-4167701014

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  北嶋 美由紀
  評価:C
   金・金・金。ずーっとお金の話だったような気がする。
 子供のいない夫婦が、それぞれ仕事にうちこみ、高収入を得、お互いの生き方を理解し合って、優雅な生活を送っている。とそこまでは何ともうらやましい限りだ。しかし、夫は金の渦にどんどん巻き込まれてゆく。夫の仕事は週刊誌の記者で大スクープを常に狙っている。そしてもう一人契約記者の女性もまた自分の仕事の頂点を目指している。この女性が後々大きな存在となりうる始まりかただ。
 賭博と金の魔力、そして多額の借金にとりつかれた主人公の私生活と記者達のスクープ合戦の二本立て、といった内容。
 主人公たる記者は、ケタはずれの金を陰で動かす政治家達のスキャンダル記事をスクープするのだが。そもそも違法賭博に手を出して、さんざん遊んだ挙句に自己破産を計画、3年つましい生活をガマンすればとタカをくくり、逮捕されても反省するどころか、その不運と刑の軽さを考え、免職になると自己破産計画がだめになることのみを恐れるような記者に政治悪を非難する資格なんてあるのか?? 日々一桁の節約で家計をやりくりする一般庶民の主婦は主人公に憤りを感じるばかりだった。

  久保田 泉
  評価:C
   読み始める前、帯の「自殺者よ、待て。借金は死を意味しない!」というコピーからやや同情モードになっていた分、読み進むにつれだんだん疑問がわいてきた。
 出てくる人間がみんな金、金で、もちろん誰も幸せでもなく、金のために死ねるほどの狂気を背負った人間もいない。金の持つ魔力というものが、とことんまでは読み手に迫ってこない。冒頭のコピーとのズレが気になる。主人公の志貴大希は、やり手の週刊誌記者。社内の勝ち組で、経済的に自立した美しい妻も持つ一方、違法なバカラ賭博で多額の借金を負うことを妻にも話せないでいる。その上、「行くまいと思えば、行かないこともできる。俺は、ギャンブラーではあるが、カジノ中毒ではない…」などとうそぶく。自己破産寸前まで追い詰められた大希は、カジノ合法化を巡る政治的陰謀を嗅ぎつける。スクープ、妻、カジノ、どれも大希の空虚を埋められない。
 長編を読了しても、そんな大希に感情移入できないまま終わってしまい、残念だった。

  林 あゆ美
  評価:A
   そこそこの年収をもつ週刊誌記者が、配偶者と久しぶりに外で食事をとる。「そろそろ落ち着きたい」と妻は夫に言い、夫はなんとかその気をそらせた。お互いに高収入をもつのだから考えても不思議ではない住居の購入にふみこめないのは、夫がバカラ賭博で借金漬けだからだ……。
 合法にせよ違法にせよ、賭博に、はまると底なしになる可能性は常にあるのだろう。それでも、その蜜を吸ってしまうのは、それだけ甘い味がするからなのか。負けて消えていくお金の額を見ていると、あまりにも自分の生活次元とかけ離れていて、どこの世界の話やらと思うのだが、確かに日本が舞台。そこに描かれたバカラ世界は、読んでいるだけでも魅力的でエンターテインメント性がある。そして、物語の魅力を深めているのが、お金を欲している男性ばかりでなく、仕事の成功を目指している女性たちだ。彼女たちもまた強い存在感があり印象を残す。大きなお金を動かし、社会を書いている記者たちとは別に、自分の欲望を満たすためのライターや秘書の女性たち――彼女らの物語もいつか読んでみたい。

  手島 洋
  評価:B
   カジノ、政界汚職、経済問題といった私にはよく分からない、そして興味ももてない話題を取り上げている。話の展開もかなり強引、というよりあまりにも都合がよすぎる部分が多い。しかし、それでも最後まで飽きずに読ませてしまう不思議な魅力のある作品だ。
 今の時代に絶望した倦怠感を漂わせていながら、登場人物たちは妙に熱いし、やたら若々しく悩んでいる。自分の思う記事が雑誌に載せられない記者には忸怩たる思いがあるのは分からないではないが、その仕組みの中でいかにいい記事を書くか、がプロなはず。でも、なんだか、そのアンバランスさが何だかおかしくてよかったのです。私にとっては突っ込みどころ満載の本なのです。こんな楽しみ方をする人は少ないと思いますけど。しかし、ここまで長い話にする必要はあったんだろうか。これだけ引っ張って、このラストかよ、というのが最後の突っ込みでした。
 それにしても、「自殺者よ、待て!」っていう帯のコピーはどうなんだろう? 全然そんな話じゃないじゃん。

  吉田 崇
  評価:C
   うーん、つまらなくはありません。出だし、「おっ、なんかいいじゃん、これ」と思ったものが、何だか尻つぼみ、それは一体何故なのかと、読後、帯の『自殺者よ。待て。借金は死を意味しない!』を読んだ時、なるほど、物語のスケール感が縮まってったんだと気付きました。
 ギャンブルなんて言うものすごく夢のある題材を、結局は自己破産だとかそれに類する法的措置で逃げ延びるなんて言うのは、物語の主人公たるものやってはいけないものだという気がします。こんなご時世ですから、現実に自己破産した知人なんて言うのは案外いたりもして、そういう人のほとんどがそれなりの成功を収めていたりもしていて、で志貴に対して、結局あんた何をうじうじしているの? としか思えなくなってしまうのです。ちっちゃい、ちっちゃい、つまんない。
 解説も何だかなぁって感じ。もうちっと判りやすい、論旨の明確な文が読みたいものだ。

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