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ドキュメント 戦争広告代理店

ドキュメント 戦争広告代理店
【講談社文庫】
高木徹
定価 650円(税込)
2005/6
ISBN-4062750961

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  浅井 博美
  評価:A
   ノンフィクションもやっぱりおもしろい!久々に熱いものが胸にわき起こり駆けめぐった。嶽本野ばらちゃんが大好きだって、どろどろの純文学を愛していたって、良質のノンフィクションを読み終えたときの読後の爽快感は、また別物なのだ。
 10年以上前に起こったボスニア・ヘルツェゴビナとセルビアの紛争において、なぜボスニア・ヘルツェゴビナ側のみが世界の同情を誘えたのか?なぜセルビアがイラク以下の悪の国家という烙印を押されたのか?その鍵は全て「ルーダー・フィン社」が握っていた。彼らの正体はアメリカの一PR会社であって、決して国際スパイでも謎の暗黒組織でもない。企業として真面目に良い仕事をしたという結果が世界中の世論を「悪の国家セルビア」で定着させ、国連を離脱させるまでに追い込むのだから、恐れ入るとともに何とも恐ろしい限りだ。著者が「情報の死の商人」と称する気持ちも良くわかる。PR会社の敏腕ぶりを描いてはいるのだが、そこに潜む恐怖や、ボスニア・ヘルツェゴビナの狡猾さにも充分に触れていることが本書に深みを増している。

  北嶋 美由紀
  評価:C
   ボスニア紛争のNHKドキュメンタリー番組で放送しきれなかった内容や陰のPR戦争の実態を書いたものである。情報戦と言えば、コマーシャルや独占スクープくらいしか思い浮かばない私には別世界の話のようだった。アメリカのPR企業には国家や政府をクライアントにしてる所があり、紛争の際ボスニア・ヘルツェゴビナ側に立った情報戦でセルビアを悪者にすることで勝利した経緯が述べられる。論説文のごとき難解さかと覚悟すれば、時事問題オンチの私でも何とか理解できそうである。ボスニア紛争が始まった1992年当時、報道関係者でさえ関心のうすかったバルカン情勢を注目させ、なおかつクライアントたるボスニア支持の論調を作り上げてゆくPR企業戦士が、無名の新人をアイドルに仕立て上げる芸能プロとマネージャーよろしく、ありとあらゆる手とツテを利用してゆく様は、オドロキ以外の何ものでもない。陰の仕掛け人ハート氏の頭と体は高速回転し、精力的どころか超人的だ。しかも表には立たない。さぞかしすごい収入か思えばそうでもなし。余禄の大きさで満足といったところか。
 民族間、国家間の争いに良い方と悪い方があるだろうか。いつも犠牲になるのは弱者ばかりではないか。これはひとつのPR企業と国家という視点からのフィクションであり、PR戦に負けたのだから当然かもしれないが、セビリアのみが「悪」ではあるまい。感情論からは釈然としないが、情報が化け物であることは痛感できた。

  久保田 泉
  評価:B
   題名どおり、小説ではなく、目から鱗が落ちるような戦争の裏にある情報戦争の事実を克明にレポートした迫力と驚愕の一冊だ。取材対象は、1990年代最悪の紛争、ボスニア戦争における「PR合戦」だ。戦争でなぜPR合戦?という疑問は取材と情報収集の確かさに基づいた本著を読む内に明らかになる。罪のない多くの国民の命の犠牲の裏に、こんな凄まじくもえげつないPR合戦が実際あったのだ。世界のどれほどの人がその事実を知っているのだろうか。何気なく目にするニュース、写真、その切り取られたわずかな時間や一瞬に、我われも知らぬ間に、思考や感情を操作されているのだ。現在ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは美しく、豊かで、各国から競うように金と人と資材が流れ込んで来るという。それとは対照的に、わずか二百キロ先のセルビア共和国の首都ベオグラードは、全てがすすけた灰色の街だという。なぜこれほどの差が生じたのか?悲惨な戦争の歴史と勝敗を左右する陰の仕掛け人を知る、貴重な資料でもある。一読して損はないと思う。

  林 あゆ美
  評価:A
   PR企業――日本でイメージするPRといえば、広告するアピールするなど宣伝という側面が大きく思えるが、このドキュメントで書かれているのはそれとは少し違う。情報戦略をたて、顧客の求めるものに応えていく企業であるのは宣伝のイメージと同じなのだが、求めるものの大きさがすごいのだ。ボスニア紛争の当事者の片方がPR企業ルーダー・フィン社のお客様、要望はこの紛争において、自国ボスニア支持をアメリカの世論から取り付けること。
 人の気持ちはお金では買えない、と思うが、その気持ちを方向付けることはできるのかと驚いた。マーケティングなどもその一種だが、戦争という大物に対してすらも、選ぶ言葉を使い、考えられた場所でアピールしていくことで、世論が変化していく様がドキュメントで描かれるのは非常にスリリングでおもしろかった。その情報操作には、メディアに対する手厚い心遣いも含まれている。なるほど、こういうきめ細やかさがプロなのだろう。「本」も、こういうプロPR企業の存在があると、ベストセラーとまでいかなくても、ばんばん売れる本をつくれるのだろうかと、少し(?)規模の小さいことまで考えてしまった。

  手島 洋
  評価:A
   ボスニア紛争でいかに情報操作が行われ、国際世論、政治が動かされたか描いた本。なぜ日本人作家がボスニア紛争なのか疑問だったが、今の世の中がいかに情報操作によって動かされているか、その典型的な例としてのボスニア紛争と分かって納得した。
 氾濫する情報には実際、恐怖を感じることも多い。つねに新しい、インパクトの強いニュースが報道されると過去のニュースはなかったことにされる。悪者を作り、一気に攻め立てる分かり安すぎる報道。それが政治的な意図によるものだとしたら本当に恐ろしい。しかし、アメリカでそんな情報操作が行われているのは厳然たる事実なのだ。その操作を請け負うのが「PR企業」なのだ。マスコミ、政治家などにあらゆる手段を使って、顧客に有利なよう世論を動かしていく。日本人は海外の話というと、自分に関係ない話と考えがちだが、わが国でこんな職種が誕生するのも遠い未来のことではないだろう。「民族浄化」、「強制収容所」といったキャッチフレーズにアメリカのマスコミも政治家も食いついたのだが、流行語に弱い日本もPR企業の手にかかったらイチコロだ。そしてボスニア戦争の背景も分かりやすくまとめられた一冊です。

  山田 絵理
  評価:A
   副題に「情報操作とボスニア紛争」とある。1990年代のボスニア紛争の際、ユーゴスラビア連邦(セルビア共和国)のセルビア人が“民族浄化”をめざし、ボスニア・ヘルツェゴビナのモスレム人を迫害しているという共通認識が国際社会に出来上がった。その黒幕はアメリカの一PR企業の凄腕社員であり、彼による情報戦略のたまものであることを、本書はわかりやすく明らかにしている。
 米国のPR企業では一国の政府でさえクライアントになり得る。自国を初め、国際社会で影響力を持つ国の政府要人・主要メディアに働きかけ、クライアントの益に叶うような国際世論を作り上げていくのが仕事なのだ。
 お上によって戦争は始められ、終結のための国際会議でさえも大国の国益に叶うかどうかで話し合われ、裏ではPR合戦が繰り広げられている。戦争の犠牲者はいつも一般市民なのだ。
 本書を読むことで、国際情勢を見る目は明らかに変わる。今まで鵜呑みにしていた事に対し、どんな思惑が隠されているのか気をつけることができるだろう。

  吉田 崇
  評価:C
   はい、嫌いなノンフィクションです。ホント、嫌々読み始めています。
こういう文章、苦手なのです。論文ほど堅くなく、個性と言うほどの味もなく、慣用表現のオンパレードはよく言えば判りやすく、悪く言えば陳腐。突然出てくる私という人称には、なぜだかそれまでの読書のペースをかき乱されて、「急に出て来んなよ、誰だ、お前?」と感じてしまう。あ、すいません、また僕は、小説を読む様に読んでいたのです。
 なんだかんだ言いましたが、それでも内容は面白い。PRなんていう言葉はCMという言葉と同じようなものだろうと思っていたのですが、もっとどぎつい世論操作みたいなニュアンスで、あの手この手を使って繰り広げられる。例えば、無口でおとなしい少年と、腕白で騒がしい少年と、知的で最小限の自己主張と綿密な根回しをする少年とがいたとして、誰が学級委員に選ばれるのかっていう、そういう話です(全然違うけど)。
 ただし、SFの世界では、こういう話は結構ある様な気もします。多分、アメリカの作家だとPR企業について書いてる人は結構いる様な気がするのですが、残りは宿題という事で。

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