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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

カインの檻

カインの檻
【文春文庫】
ハーブ・チャップマン
定価 1,200円(税込)
2005/4
ISBN-4167705060

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  北嶋 美由紀
  評価:A+
   最後まで気を抜く所がなく、楽しませてくれた。次々起こる残虐な殺人事件と犯人逮捕は全体の四分の一ほどであっさり終わってしまう。そして事件から8年後、犯人が死刑になるまでの4日間が残りすべてである。犯人VS警察側が軸だが、FBI心理分析官キーナンと連続殺人犯ドラムとの心理合戦がやはり一番おもしろい。残虐な犯行に駆り立てたものは何だったのか、幼年時代からの心の闇をさぐるキーナンはドラムの心理の完全支配を試み、最後の瞬間まで弱みを見せまいとするドラムは永久に孤立する。心理分析の基礎知識も興味深い。常に冷静であろうとするキーナンが垣間見せる人間くささ、被害者家族の悲しみ、一見優柔不断で無能な牧師、字体を変えての過去の描写はよいアクセントとなり、読み応え十分だ。
 人物の描写はとても細かく、服装にも心理状態が反映するのかと疑いたくなるほど、その日のファッションが言及され、特に処刑の場面は、ここまで書くかと思えるほど詳細で、死刑制度は是かと疑問がかすめてしまう。気がつけば、ジワジワと煮詰まってゆく4日間に何が起こるのかと、ゾクゾクしながらページをめくっていたのだった。

  久保田 泉
  評価:A
   死刑目前の連続殺人鬼と、FBI心理分析官、いわゆるプロファイラージョン・キーナンとの熾烈な戦いを軸に進む、長編のサイコ・サスペンス。正直言って大の苦手のサイコもの、この厚さ、覚えきれない横文字名。三重苦を背負い、重苦しい気持ちのままとにかく読んでみる。心底病みきった異常な犯人の残酷な犯罪が、詳細に描かれた前半は、確かに苦行だった。8年後の後半、捜査官も殺した獄中の犯人が、減刑せねば、殺した捜査官の息子を仲間が殺すと、卑劣な脅迫をする。キーナンは犯人の心の闇に迫りながら心理戦に挑む。前半、頭脳は常に心を支配できる、という信念をいだいていたキーナンが後半、殺人鬼に殺された罪なき人々の無残な姿、永久に忘れることの出来ない悲劇的光景を思い浮かべ、自分がこの8年間常に殺人鬼への復讐を心に秘めて生きてきたことを認める場面が胸にせまる。感情がキーナンを突き動かし、勝利へ導く。救いのないラストだが一級のサスペンスであると言っていいだろう。

  林 あゆ美
  評価:C
   残忍な連続殺人を犯した男が逮捕された。それから8年、事件で同僚でもあった友人を殺されたキーナンが、その殺人鬼にプロファイリングのため面接を行う。
 想像に耐えない事件が起こった時、人はなぜ、同じ人間同士にそんなことができるのか、理由を知りたく思う。どうしてという問いに、こうなんだよという納得できる答えらしきものをを聞けたらなら、次にその答えが未来の家族があてはまらないかも確認する。いったい人はどうして悪魔のような行為ができるのか。
 殺人鬼の過去と、被害者家族の苦しみ、プロファイラー、キーナンの子ども時代が、事件の進行とともに挿入され、事件の「なぜ?」に対するおぼろげな回答の輪郭をみせてくれる。現在と過去をゆきつもどりつしながら長くて重い物語が終わり、不幸の連鎖に気持ちが沈む。そんな中、人間くさい牧師は物語に深みを与えてくれた。頼れる人にはみえない牧師だが、人柄がよく見え、その弱さともいえる面が人間らしくて安心できた。それほどまでに、異常人格者の過去は悲しく苦しいものだった。

  山田 絵理
  評価:D
   帯に『永遠の仔』に並ぶ傑作サイコ・サスペンスとあったので、かなり期待して読み始めたのだが……(でも『永遠の仔』ってサイコサスペンスというジャンルなの?)。なのに初めから衝撃残酷シーンの連発で、本当にびびった。
 女性ばかりを狙った連続猟奇殺人犯とFBIの主任プロファイラー(心理分析官)との心理駆け引きが本書の最大の見せ場。作者は少年犯罪を専門とするカウンセラーであるせいか、心理状態の分析や刑務所での記述が緻密。いささか説明が多すぎる気がしないではない。そのせいだろうか、一回読んだだけでは理解できない文章が多くて、理解するのに時間がかかった。自分の頭がにぶいのかしら。
 殺人鬼の心の闇を見つめるべく、過去の生い立ちや類似事件にいたるまで、様々な角度から丁寧に書き込まれているが、かえってくどくなってそれに近づくのを妨げている。前もって想像できてしまった犯人の過去には、どうしても同情できなかった。読んでいて疲れてしまった。

  吉田 崇
  評価:C
   うーん、これ、面白いですか? と逆に聞きたい。帯には「『永遠の仔』『模倣犯』に並ぶ傑作サイコ・サスペンス」とあるのですが、どうだろう、並んでいるのだろうか?
 でも、この作品、著者のデビュー作だという事で、だとすればこの作家、間違いなく化けます。次作出たら絶対読みますから、と約束しつつ書評を続けると、結構分厚い本書、2部構成からなっています。1部の終わりであっけなく犯人が捕まり、やたらと長い2部が始まる。いろんな人物が出てきますが、僕が共感できたのは、ザックという少年と、犯人の男。あ、男って言っちゃった。これってネタばれ? ていうか、主な登場人物の所に、名前書いて、下に犯人って書いとけば面白いのにって、まったく関係のない事ですが、犯人はストレートに悪い奴なのです。少年はまっすぐに少年なのです。でも、そのほかの人たちはやたらと複雑で、正直、うざったい。世の中の人間って、作家の人が考えるほど複雑じゃないぞという気がして、だって、俺はこんなに単純だものと、ペンを置く。

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