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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

未亡人の一年(上下)
未亡人の一年(上下)
【新潮文庫】
ジョン・ア−ヴィング
定価860円(税込)
2005/9
ISBN-4102273085
ISBN-4102273093
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  北嶋 美由紀
  評価:C+
 あの「ガープの世界」と同じ作者か、と思えば、へ?と驚くような描写も妙に納得できる。1958年から37年間の話だが、思い出話がやたらグルグル回っている中でピョンピョンと時が経ってしまう感じだ。(ちょと疲れる。)いろいろなエピソードが(中には笑えるものも)あって、しかも時折関係なさそうなことも細かく書かれていて、誰が本当の主人公なのかこの小説の焦点が何なのか、よく分からなくなるほどだ。題名からはルースが主人公と考えるべきなのだろうが、姿こそ最初と最後にしか現さないマリアンの存在とその悲しみが全体を覆い、一番印象が強い。まだ十代の最愛の息子二人を同時に失った母の悲しみは、家中に息子達の写真を飾り、思い出を語り、異常なほどの悲惨さだ。そんな過去しか存在しない家庭に育つルースを母は心から愛せない。そのルースの母マリアンに16才から永遠の愛を誓うのがエディだ。初めての女性とはいえ53才になるまで、23才年上のマリアンを想い続ける彼は作家として才能があるとは思えないし、ドジだし、ニブイし、本人が真剣な分ちょっと滑稽な存在だ。ハッキリ言って、なくてもよい日常、回想シーンも多く、長すぎて時々退屈したが、最後のセリフでピリッと締まって救われた感じだ。

  久保田 泉
  評価:B-
 話はいきなりちょっと横道にそれるが、翻訳本の邦題を決めるのも、映画と同じで大変だろうなと思った。本著の原題はA WIDOU FOR ONE YEAR だ。そのまんまの邦題なんだが、日本語だとちょっと重いし愛想がない感じだ。実際、上下巻の長編はアメリカっぽい、日本人の私にはピンとこない、皮肉な雰囲気のユーモアがたくさんあるから、邦題のイメージと随分違うなあと思った。この作家の代表作を見ると、映画では見た有名なものも多い。当然ながら?私にはこの大作家も初読で、何の気負いもなく読む。愛する二人の息子を事故で失い、破綻する夫婦。そんな中に生まれた、母に愛されない娘。その母を40年愛し続ける男、浮き草のように生きる絵本作家の父。成長した娘も男も、すべてを捨て行方不明となった母も作家となり、主要な登場人物が4人とも作家という背景は面白い。しかし、この4人や娘の親友の言動が、最後まで私には不可解だった。一番知りたい彼らの心の内が私には読み込めなかったようで、それぞれの選択があっけなく思えてしまった。

  林 あゆ美
  評価:AA+
 久しぶりに、小説らしい小説の醍醐味を感じた。読んでいて、ストーリーが何度もうねる。静かに淡々とすすんでいるかと思うと、大きな変化をつけて、読み手をうならせる。長編作品を読む時には、展開の早いものの方がページを繰る手を止めない。本書は、そうではない。しかし、上巻の2/3まできたら、気持ちをがっしりつかまれる。感情移入とはひとあじちがう、ただこの物語世界をながめ、感じているうちに、そこから離れるのが惜しくなる。
 少女ルースが4歳の時、すでに両親の仲は破綻していた。浮気をくりかえす父親、ルースの兄2人を亡くし悲しみの世界から戻れない母親。そこに関わってくる、母親の若い愛人エディ。それぞれが幸福になれないまま時は流れる。彼らの時間が交じりあった時、変化が起き、前に進む。それまでは進んでいるようで戻っているような時が、線香花火のような鮮やかさをみせる。長い物語はいい。ゆっくり長く余韻が残り、愉しめる時間がたっぷりある。

  山田 絵理
  評価:AA+
 世界的に有名な作家ルースを軸に話は展開する。ルースの家族は、彼女が生まれる前に交通事故死した二人の兄と、浮気を繰り返す絵本作家の父テッド、息子を失った悲しみにとらわれ続ける母マリアンがいた。
 ルースが4歳の時、家にアルバイトに来た16歳のエディはマリアンと恋に落ちる。しばらくして、彼女は失踪。その時からルースは母を失い、エディはマリアンへの思いを生涯にわたって抱き続けることになる。
 この小説は、以前にいいなあと思った小説たちが色あせて見えるほど、ひきつけられた。主要な登場人物の一人一人が自分の人生を生きていると感じさせる、緻密な人物造詣に豊かな物語。あー、もう素晴らしい!
 大きな事件が展開していくことで読者を本に引き込むのは簡単だと思うのだが、本書は登場人物の人生が描かれているだけ。それなのにこれほどの充実感。これが「物語の力」?何がそんなに魅力的なのか、その決定的要因が未だにわからない。だからもう一度読まなくては。唯一残念なのが、前半の訳だ。読みづらかった。うーん。

  吉田 崇
  評価:B
 わーい、ア−ヴィングだーい、と読み始めたこの作品。今回ぶっちぎりのナンバー1。小説を読むという行為の喜びの全てがここにあります。なーんて偉そうに言えるほど、この著者の熱心な読者ではなく、村上春樹の翻訳から読んで『ホテル・ニューハンプシャー』で見切りをつけ、当時の僕は若かったのでしょうね、現代アメリカ文学なんてもういいや、時代はラテンアメリカだなんて言ってたのが、げっ、早四半世紀前、なーんか一向に成長していない自分に愕然としつつも、ある程度年取ったから、この話が面白いと思う様になったのだと、髪に混じる白い物を正当化する。
 上手いと思ったのは語り口。供されるのは小説というよりは物語、というか生きたお話。直接に出てくる訳ではない著者という語り手の存在感がしっかり感じられて、だからこそこのお話としての塊感があるのだろう。とにかく一つ一つの言葉を注意深く楽しんでください。じっくり楽しめる一冊です。

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