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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

時生
時生
【講談社文庫】
東野圭吾
定価790円(税込)
2005/8
ISBN-4062751666
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  北嶋 美由紀
  評価:AA
  「トキオ」が「時生」になって帰って来た! 初版当時も話題になったし、NHKでドラマにもなったし、今さら細かい内容を述べる必要はないかもしれない。再読してこんなにも切ない話だったかと改めて思う。息子がタイムスリップして父親の若き日に現れる。ここだけとれば「Back to the Future」と同じ発想だし、中間部はほとんど「恋人に捨てられたダメ男の冒険」でちょっとコミカルでもある。が、それをはさむ序章と終章の存在の何と重いことか。喧嘩っ早く、こらえ性のない、子供じみた考え方しかできない父の姿を未来の息子が見つめる。ダメ男に対する目がなぜあたたかいのかといえば、ただのタイムスリップではないからだ。もう永久に会えなくなってしまった父だから…… トキオにはもう未来はない。過去を変えることが不可能な限り、彼に訪れる未来はない。まだ未来のある過去の父を見つめる未来のない息子の苦しみ。何度繰り返しても若き死と両親の悲痛は変わらない。よく考えると、救いのない繰り返しだ。
 蛇足ながら、同時期(2002年)に発刊された真保裕一の「発火点」と構図と内容が類似している。雰囲気の全く違うもととして読み比べてもおもしろい。

  久保田 泉
  評価:A+
 単行本で読み、TVドラマもちょっと見た。そして今回文庫本でも読んでみたが、少しも退屈せず、ハラハライライラうるうる…と楽しませて貰った。ただ表紙に“時生”とあって、へ?と最初驚いた。主人公のトキオと東京をイメージする都会的な“トキオ”から、ベタな時生へ。ここの変化に至る、作者の心理が妙に気になる!でもトキオって時生だったとは、初読の時には気が付きませんでした。
 今更ですが、ストーリーは、不治の病で死の床につく息子時生の前で、主人公の宮本拓実が妻に語る、不思議な少年との想い出話。ふて腐れているだけの若者だった拓実が、トキオと名乗る少年と突然消えた恋人を追う。様々な小説の楽しさが満載だが、あくまで主軸はミステリーだったのだと再認識。ピンクレディーやジュリーのトキオを、リアルタイムで見ていた世代には懐かしい。新宿にたくさんいたキャッチのお兄さん、こんな事してたんですねえ。みんな今ごろ何してるんでしょうか。

  林 あゆ美
  評価:C
 現在→過去→未来と、時がゆきつもどりつ、時に少し前に進みながら、織りなされた物語。時生〈トキオ〉と読む少年が、冒頭で死につつある。その病室で、不思議なことを話し出す夫の話に妻は……。
 物語の大半は、夫の過去。不幸な(と本人が強く思っている)子ども時代から、やさぐれた青年時代にトキオがからんでくる。声をかけても聞く耳をもたない時期に、次から次へとハプニングが起こり、ページを繰る手を止めない力で、ぐんぐん話は進みます。トキオは未来を変えるのか、いえいえそんな単純なものではなく。結論はある意味、話の構造上みえているにもかかわらず、最後をきちんと知りたくなり、いっきに読む。はじめは断片的だった時がかちっとはまるのは、よい気分。時をいったりきたりして、未来は変わる? 現実的ではないかもしれない。でも、もしかしたら、いま私たちが生きている世界でも、トキオが時々あらわれているかも。世の中捨てたもんじゃないよと、ひらきなおれるのは、見えないなにかが背中を押してくれた時。そんな小さなうれしい偶然を想像するのは楽しい。

  手島 洋
  評価:B
 難病のために死の瀬戸際にいる息子。その傍にいる父は自分が若い頃、息子と会っていたことを思い出す。過去にタイムスリップした息子が父親と会う、というストーリーを、さすが東野圭吾、という見事な筆致で描いている。こりゃあ、目黒さんがまちがいなく好きな話だ、などと余計なことも考えつつ読ませていただきました。短気でまっすぐな拓実。若いわりに妙に落ち着いている、しっかりした性格の時生を始め、登場人物のキャラクターが分かりやすく、魅力的。拓実の恋人千鶴をめぐる事件はミステリーといえる程、凝ったものではないが、拓実の過去、時生の思いなどと、うまくブレンドされていて、ラストまで、よどみなく一気に読ませる。
 それだけに、なぜこんなおもしろい作品をお涙頂戴の「病気もの」にしてしまうのか理解できない。時生はもっと謎めいた存在でよかった気がする。何でも、「愛と感動の作品」にしてしまえばいいのか。本好きの人間としては、テレビや映画でお目にかかる安っぽい感動を本にまで持ち込まないでほしいのだ。ストーリーよりも、そのことが悲しい。

  山田 絵理
  評価:B
 500ページ以上の厚みのある本だが、数ページ読んだだけでページをめくる手が止まらなくなってしまった。最初からとても悲しい設定なのだ。不治の病に冒され、昏睡状態の高校生の息子を前に、父親の巧実は悲しみにくれる妻に向かって20年以上も前の昔話を語りだす。
 それは、過去にこだわり、毎日をふらふらと生きていた23歳の巧実が、突然現れたトキオという青年と短い期間一を共に過ごした時の話だ。遠い親戚だというトキオは、どういうわけか巧実のことをとても良く知る、不思議な青年だった。
 過去・現在・未来を行き来する、時空を超える話はずるい!と思う。どこかに人の涙腺をゆるませる仕掛けが必ずあるから、泣きそうになってしまう。時を越えた存在が主人公にメッセージを伝えるなんて、よくある話なのに。
 本書は少し前、NHKでドラマ化されている。見るかどうか散々迷って結局見なかったのだが、やっぱり見ておけばよかった、と後悔してしまった。

  吉田 崇
  評価:C
 読んでる間は結構楽しめた本作品、本を閉じ、ブックカバーを外し、装丁を眺め帯の惹句を読み、物語世界から一歩外に出ると、いくつかの腑に落ちない小さな部分が次第により集まり、結局これは誰の為の物語かと言えば、宮本と麗子の心の平安の為の物であって、それ以外の何物でもないのだという事に気付く。それじゃ、時生は浮かばれない(っていうかはっきり死んじゃってる訳じゃないけど)、「生まれてきてよかった」なんて言える訳がない。だって、子供は親の事を理解する為に生まれてくるんじゃないもの、自分自身を生きる為に生まれてくるんだもの。時間軸の中で永遠にループするこの我が儘勝手な親の論理に辟易しつつも、主たる物語時間である過去のストーリーはよくできています。さくさく読めて、面白い。それに比べて、現在のシーンが鮮やかでなく、だから読後感が味気ない。ストーリー中の現在の時間で、ハッピーの欠片くらいは確認したいものだ。

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