評価:AA
「トキオ」が「時生」になって帰って来た! 初版当時も話題になったし、NHKでドラマにもなったし、今さら細かい内容を述べる必要はないかもしれない。再読してこんなにも切ない話だったかと改めて思う。息子がタイムスリップして父親の若き日に現れる。ここだけとれば「Back
to the Future」と同じ発想だし、中間部はほとんど「恋人に捨てられたダメ男の冒険」でちょっとコミカルでもある。が、それをはさむ序章と終章の存在の何と重いことか。喧嘩っ早く、こらえ性のない、子供じみた考え方しかできない父の姿を未来の息子が見つめる。ダメ男に対する目がなぜあたたかいのかといえば、ただのタイムスリップではないからだ。もう永久に会えなくなってしまった父だから…… トキオにはもう未来はない。過去を変えることが不可能な限り、彼に訪れる未来はない。まだ未来のある過去の父を見つめる未来のない息子の苦しみ。何度繰り返しても若き死と両親の悲痛は変わらない。よく考えると、救いのない繰り返しだ。
蛇足ながら、同時期(2002年)に発刊された真保裕一の「発火点」と構図と内容が類似している。雰囲気の全く違うもととして読み比べてもおもしろい。