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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

クチュクチュバーン
クチュクチュバーン
【文春文庫】
吉村萬壱
定価530円(税込)
2005/8
ISBN-4167679477
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  北嶋 美由紀
  評価:D
 何ともすごいタイトルの表題作を含めた3編すべての場面が破壊され、滅亡寸前の世界の人間模様である。グロテスクなホラーには慣れているが、これでもかと出てくる情景の醜さに読み進めるのが苦痛になる。特に食後のもたれ加減の胃にはよろしくない。
 3編とも世界が変わってしまうことから始まる。ある日突然の宇宙人の侵略。ある日突然卵が降ってきて、緑と藍色の化け物に人間が食われてゆく「宇宙戦争」も真っ青な展開。原因不明の事物にあふれる廃墟に残された人間にとって本当の敵は何なのか?何か食わねば生きてゆけない。ゆえにどんな手段を使おうとも何か食べる。自分が助かるためには他人の犠牲は厭わない。なんともグロテスクでおぞましい。クチュクチュ、ぐちゃぐちゃ、スッカンスッカン、それぞれの話に音がある。秩序も人間性も失ったコントロール不能の世界はこの世の終末の情景であろうか。爆発力のある文で何かスゴク深いことを作者は訴えているのは感じるのだが、それを的確に捉える前にとにかく気分が悪くなってしまった。

  久保田 泉
  評価:B
 表題作は、あらゆるモノと人間が同化していき、異形の人間というより化け物で溢れた世界で、人々が愛し合い、憎しみ合い、散々に殺し合う。蜘蛛女にシマウマ男、巨女、犬人間、これは進化なのか?到底受け入れたくないような、異常な光景。もうやめて欲しいくらいなのに、なぜか吸い寄せられ、あっという間に読了。それから、何が起きたのかもう一度確認するように、二回目はもう少し落ち着いて読んでみた。じっくりと読んでも、未来にこんなことが起きたら、という恐怖は全く沸いてこない。
 読む前はクチュクチュバーン?何それ?だったのが、読了後は、私たちがいる世界で、他者、情報、開発などと遠い距離感を感じた時の虚無感と、クチュクチュという音が、私の頭の中でもやもやと同化してくる。このまま行ったら世界はバーンなのかな、等とぼんやり考えが浮かんだ時、著者の想像力が紙の上で今繰り広げている、クチュクチュバーンという世界に、初めてぞっと恐怖が沸いてきた。

  林 あゆ美
  評価:C
 世の中はいかようにも見ることができ、表現は多彩。「クチュクチュバーン」は、なんともいえないその音をカタカナ文字で翻訳し、世界をみせる。ふむ。
 世界が突然変異を起こし、ひとところに落ち着いてはいけないと、人々は移動しつづける。母と息子で移動していた親子づれ、息子の腕(もしくは脚)は、6本ある。どれも機能しているわけではない。母親は6歳のこの息子を生かしつづけるために、これ以上の変形や危害がおこらないか周りに細心の注意を払っていた。周囲の人(?)も、人間とはわからなくなっている。産業廃棄物のようになってしまった者、顔が本に埋もれたままの者、そうじゃなかった人たちにもまことしやかに、その変異が襲う。そして移動しつづける集合体のだす音は、クチュクチュ、クチュクチュ。
 この世界をのぞいて見たい方、興味をもたれた方はぜひご一読を――。

  手島 洋
  評価:D
 表題作を含め、3つの短編の入っている作品だが、どの作品も地球に不条理な変化が訪れて、人間が人間でなくなり(動物や物と同化していく)、次々と死んでいく。なんとか命を取り留めた人々は絶望するもの、何とか解決策を見出そうとするものなどさまざまだが、状況はひたすら絶望に向かっていく。
 グロテスクな描写が次々と登場する作品だが、それ以上のストーリーの展開はない。確かに人間には強い破壊衝動があり、それをエセ・ヒューマニズムで包み隠しても仕方がない。そして、短絡的な事件が多発する、現代を切り取った作品をぜひ読みたいと思う。でも、作品がこう単調だと読んでいて飽きてしまう。映画や芝居なら絶対、すぐに寝てるはずだ。人の破壊衝動には、こんな単調な作品を壊したいという気持ちもないのだろうか。
 死の直前の人の頭に一瞬よぎる考えは、どれも興味深かったし、ただ世界を見ようとする「シマウマ男」の存在もおもしろいと思う。その辺りを広げて、もっと新たな展開をみせてもらえればありがたかったのだが・・・・・・。

  吉田 崇
  評価:D
 えーと、芥川賞作家なのだそうである。タイトル作が文學界新人賞受賞作で、帯によると、「世紀の奇書」であり、「戦慄のデビュー小説集」なのだそうである。
 閑話休題。反省している事が一つあって、評すべき作品について、あれに似てるこれの様だなど、ついつい他の作品名を上げてしまう癖が僕にはあって、それは多分この店のショートケーキはあの店のモンブランの香りがするだとか、非道いときには隣のラーメン屋のチャーシューの様だくらいの嘘八百だと自分でも認めているのだが、はっはっは、別に改めないのだ。
 三つの短編からなる本書、破滅テーマのSFとして読むといかにも古臭い。オールディスとかディッシュとかの方が断然好き。人間の尊厳をグチャグチャにする小説という事で考えると『家畜人ヤプー』の方が徹底してる気がする。あ、待てよ、ブンガクだったんだ。こういう作風の席が空いてたのね、良かったね。
 とは言え、『ハリガネムシ』は、読んでみたいと思います。

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