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WEB本の雑誌今月の新刊採点ランキング課題図書

ファイティング寿限無
ファイティング寿限無
【ちくま文庫 】
立川談四楼
定価819円(税込)
2005/8
ISBN-4480421203
 
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  北嶋 美由紀
  評価:B
 落語が好きで16歳で憧れの橘家龍太楼(明らかに立川談志がモデル)の弟子となった小龍は「付加価値をつけて有名になれ」との師匠の言葉に従うべくボクシングジムに入門する。「落語のできるボクサー」を売りにデビュー。師匠からもらったリングネームが「ファイティング寿限無」。小龍は明るく、真面目で礼儀正しく、頭の回転も早ければ気配りもできる好青年で、感性もユニーク。いやみのないさわやか青春スポーツ小説である。しかし、少々ツッコミを入れたくなる。主人公もできすぎなら、登場人物すべてがイイ人なのである。おまけにトントン拍子に勝ち進むのである。スポーツ青春ものは数あるが、ゼロからの立ち上げで世界に挑むのは、素質と運がバツグンに良くとも順調過ぎないか。まして成功者につき物の誹謗、中傷、ヤッカミも見受けられない。良いことづくめで終わり方も妙に優等生。世の中こんなサワヤカだったろうか。

  久保田 泉
  評価:AA
 小説を乱読していると、時々思いがけない出会いに、すごく得をしたような幸せを感じることがある。この本がまさにそれ!面白くて途中でやめられなくなった。本職の落語家が小説を出していることさえ全く知らなくてびっくりですが。エンターテインメント小説大好きの私は、内容の面白さと質の高さに二度びっくり。若く売れない落語家の小龍が、落語が上手いだけでは売れない、己に付加価値を付けろ!という師匠龍太楼の教えを真に受けて、大真面目に決意したのが、プロボクサーになること。この小龍の、どこまでも続く大真面目ぶりがおかしくて、熱くて、切ない。プロになれれば十分だったはずが、思わぬ素質でチャンピョンを目指しとうとうその夢も…。ボクシングや落語に興味がなくても、読めばこの小説の面白さに魅了されます。小龍を取り巻く人物やエピソードも人間味があふれ、ラストの小龍の選択まで息もつかさず読ませてくれる。この作家のほかの著書も早速読みたくなった。

  林 あゆ美
  評価:A++
 後半のもりあがりは、あまりにも素晴らしく、思い出すたびに、のどが熱くなります。表題と著者名をみて、落語家が落語家の話を書いたのかと想像はついたのですが、ちゃきちゃきと歯切れのいい言葉を読んでいくうちに、もうすっかり寿限無ファン。師匠のような落語家になるんだ!と日々精進していた小龍が、口すっぱくいわれ続けていたのがこのセリフ、「手段はなんでもいい、売れろ。話はそれからだ」。乱暴な言葉ではありますが、師匠ひとすじの弟子にとっては大事なお言葉。さぁ小龍、入門してから3年すぎ、いよいよ手段を見つけます。街中でケンカにまきこまれ人を殴った時にひらめいたもの。「オレはプロボクサーになるンだ」。
 いいのか、そんな単純でと思うけれど、小龍には確かにボクシングの才能があったのです。そして噺家としてよりも、まずボクシングで芽がではじめました。芽はぐんぐん育ち、花が咲きまくります。小龍の才能が開花していく様、男気があがっていく様はかっこよすぎて、しびれてしまいます。文庫本のあとがきには、この本によるすてきな副産物の話もあり、ベタに胸にぐぐっとくるよい小説、オススメします!

  手島 洋
  評価:B
 落語家として成功するための手段としてボクシングをする。さすが立川流という、そのボクシングをなめきった設定がいい。主人公の師匠はまさに談志で楽しめる。ちょっと反則という気もしますが。あえて、落語そのものをほとんど作品中に登場させないというのもうまい。落語慣れしてない人間が活字で長々と落語を読まされるのはやっぱりきつい。「タイガー&ドラゴン」だって、素人でも分かるように噛み砕いた落語を短く分けて、やっているからうけたのではないでしょうか。
 しかし、ボクシングの方は、かなり食い足りない。主人公と対戦する選手たちの強さが十分表現されてため、ボクシングで一番面白いはずの試合中の駆け引きという部分も感じられない。結局は、追い込まれてカッとすると、いつの間にか勝っている、というのはやめてほしい。とんでもなく強いボクサーというからにはその辺の設定はリアルじゃないと。ボクシングに興味のない人にはどうでもいいことかもしれないけど・・・・・・。
 話全体はスピーディーでとてもシンプル。分かりやすいが、ちょっと物足りなさが。一流のボクサーには必ず、いいライバルがいる。彼にその存在がないのも、ちょっと痛かった。

  山田 絵理
  評価:A
 澄み切った秋の空のような明るい小説だ。噺家としては駆け出しの小龍が、師匠に「落語がちょいと上手いだけで売れるわけがねえ……落語以外の何かでマスコミに斬り込むンだ、見事に売れてみせろ」と言われ、ひょんなことからボクサー「ファイティング寿限無」としてプロデビュー、あれよあれよと世界の頂点を目指すことになる。世間に名が売れていくにつれ、オレはボクサーなのか落語家なのか、19歳の彼は悩むのだった。
 落語家による小説だけあって、筋立てが本当に上手い。前向きで明るくて、ちょっとした事件が話を一気に話を盛り上げ、最後は泣かせてくれる。登場人物たちのからっとした明るさと、べらんめえの江戸っ子口調がまたいいのだ。読者へのサービス精神に満ちていて本当に面白い。
 小龍がどうしてボクシングが強いのかは謎だし、おまけに軽そうに見えるけど、なぜか憎めない。最後に彼が下した決断の素晴らしさといったら!元気をくれてありがとう!と、拍手喝さいしたくなるのだった。

  吉田 崇
  評価:C
 いやぁ、真っ向勝負な小説で、いい風に期待を裏切られました、これはかなり面白いです。
 ボクシングもできる噺家あるいは落語も噺せるボクサーが主人公の本作品、芸の方の上達よりボクサーとしての成長の方が早いもので、だから僕はとりあえずはボクシング小説として読みました(そんなジャンルあったのか?)。オイオイ、ホントにそんなに上手くいくのかい? と、冷やかす様に読んだのは最初の方だけ、トレーナーの姿がくっきりと見えてくる頃には、すっかりボクシング小説として、なんの違和感もなく読み進められます。その背景にモデルとなった人の姿も想像できそうな落語会の人々が動き回り、それがちょっと遠くにあるために、余計に主人公には落語家として名を成してもらいたいだの、いやいやこのままトントン拍子で世界チャンプまでだの、すっかり感情移入しながら読み終わりました。今月の二位ですが、これは必読。

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