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実験小説 ぬ
実験小説 ぬ
【光文社文庫】
浅暮三文
定価520円(税込)
2005/7
ISBN-4334739113
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  北嶋 美由紀
  評価:A
 おもしろかった!! 27編の短編はもちろん「これはあとがきではない」というやっぱりあとがきまでペケマークなし。好きです。こういう訳の分からないハチャメチャな世界。たとえば最初の「帽子の男」のっけから作者独特のヘンな感覚にぶち当たる。着眼点と分析の細かさに脱帽。紙芝居のようで、笑えるし、背筋も寒くなるし。
 ギャグ、ミステリー、ホラーすべてをミックスしたような内容と手法にパズルやゲーム感覚も入り、昔話や有名人、辞書を題材にてんこ盛りの奇抜さを見せてくれる。どちらかというと二章のショートショートの方が文章もスッキリでおもしろかったが、一章の「実験短編集」(何のこっちゃ?)もなかなか。「喇叭」に出てくるクイズ(?)「鯨が魚でないのと同様……」って中学時代に必死で丸暗記したno more 〜than の構文じゃあありませんか。いや、なつかしくって思わず英作文しちゃいました。「壺売り玄蔵」もトラさん顔負けの口上、というよりはもうインチキ催眠商法。NASAと印鑑を関連づけてしまう屁理屈に妙に納得しそうになって感動すらしてしまう。 以前から読みたかった「殺しも鯖もMで始まる」から「五感シリーズ」も読むぞ!と意気込んでしまった。

  久保田 泉
  評価:B
 今月はいつになく多ジャンルに渡った読書をした気がする。実験小説と、わざわざ題名にあるように、一話ずつ雰囲気も味わいも違う短篇が、27篇も楽しめる。あとがきまで、短篇に含まれているという、油断ならない一冊。冒頭の帽子の男は、よく見慣れた交通標識のイラストと共に話が進む。標識は見慣れたものでも、話の展開は予想もつかない内容で、新鮮な気分と共に、にやにや笑いながら楽しく読んだ。他にも、図形を使って視覚に訴える一篇や、文章にユニークな仕掛けがある話、人をくったようなパロディ、ぞっとする外国文学調の話、などなどバラエティに富んでいて飽きさせない。個人的には子供時代によく読んだ、星新一を彷彿とさせるような話が懐かしく面白かった。ちなみに星新一は、今の子供にも人気がある。短いのに不思議な気分が長く続くような話は、いつの時代も人の心を惹きつけるのだと思う。実験小説とは、考える読書が出来る一冊という意味かもしれない。

  林 あゆ美
  評価:A
 第一章、実験短編集の最初を飾るのは「帽子の男」。読者のみなさんで、この「帽子の男」に会ったことのない人、きっといないでしょう。でも会ったことがあるのに、彼の家族に思いを馳せた方はいるかしら。
 考えたこともないけれど、考えてみると、なるほどと思わせる家族構成、その丁寧な説明ぶりがツボにはまりました。はまってしまうと、どの短編もしびれるほどおもしろい。清水義範氏の『永遠のジャック&ベティ』をはじめて読んだときの感動と通じるおもしろさ。読み手がツボにはまるとしたら、それぞれ個人的な読書体験のどこかにその種がひそんでいるような気がします。
 解説を読むと、どの作品にも下敷きにしたナニカが潜んでいるとのこと。そのナニカを見つけるために元の本家も読み、またこの本を読むと、楽しさ倍増になりそう。読書のあたらしい道筋をつけてもらえそうでワクワクします。そういう短編が27作品も入っていて大変お得な文庫本。

  手島 洋
  評価:A
 筒井康隆、清水義範といった名前を思い起こさせる、タイトル通りの実験的な作品集。12枚の道路標識を使って、男の人生を哀愁たっぷり(?)に語る「帽子の男」。定年退職後の男のもとに次々と謎のメッセージが送られてくる「喇叭(らっぱ)」などなど数々の趣向を凝らした作品が並んでいる。500円足らずで、そんな作品を27個も楽しめるというのだから本当にお得だ(最近は文庫も高いので)。こうした実験的な作品は、芸術的な方向に進みすぎて難解な作品になることも多いが、この「ぬ」の場合、アイディアはシュールでも非常に分かりやすく書かれていて、誰が読んでも楽しめる作品に仕上がっている。それだけに「実験小説」とタイトルとあるのを見て、敬遠しないでもらいたい。なぜ長編小説ばかりがもてはやされ、短編小説は売れないのか。日本でももっと短編が評価され、売れる時代が来ないのだろうか。最後はわけの分からないグチになってしまいました。どうもすみません。

  山田 絵理
  評価:C
 本屋さんでは絶対手にとらないだろうなあ、という題。表紙の左端に小さく「実験小説」の文字、3分の2を占める大きな「ぬ」の文字。正直言って引いてしまったが、ページをめくってとりあえず読んでみた。1本目の短編は、上部に道路交通標識がずらっと印刷してあり、それにインスピレーションを受けたらしい話が展開していく。はっきりいってヘン。ページをめくるたびにプッと噴き出してしまう。2編目は、自宅に届く紙に書かれたおかしな問いかけに翻弄される男の話。その「問い」の無意味さに、やっぱりニヤッとなる。こんな風にどこか不思議でどこかねじくれた、奇妙な短編集である。しかもそんな世界を、ごく短い文章で(一番少なくて2ページ!)つくりあげている。
 4コマ漫画で、万人受けはしないのに一部の人に大受けするのがある。分かりやすいオチは無く支離滅裂なのに、つぼにはまってしまうとなぜかすごく面白い。この本はそんな感じだ。きっと作者もすごく楽しんで書いているのだろう。

  吉田 崇
  評価:D
 いつもはできるだけ、なんの予備知識も持たずに読み始める様に心がけているのですが、ごめんなさい、今回帯の「絶頂期の筒井康隆を彷彿させるアイディア」の字を見てしまったもので、はい、始めから喧嘩腰です。えーと、著者は悪くありません、「オイオイ、一体どの時期の筒井康隆を絶頂っつうんだ?」と、僕の怒りは解説者あるいは、帯をデザインした人に向かってます。彷彿と物まねって同じ意味なのか? と、とりあえず聞きたい!!
 ま、そんなこんなで意地悪な読み方に終止してしまった本書、決してつまらなくはありません、が、面白くもありません。オリジナリティを云々する時代じゃないとは思いつつ、繰り返すようですが、何かを彷彿させるアイディアなんて物言いは所詮二番煎じだという決めだと思います。日本SF三巨人、かんべむさし、清水義範を経て、実験小説を謳うなら、それなりの趣向が欲しい気がします。
 ちなみに横田順彌に『む』という作品があったと思いますが、ま、関係ありません。

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