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勝手に目利き
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プラナリア
プラナリア
【文春文庫】
山本文緒
定価480円(税込)
2005/9
ISBN-4167708019
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★☆
 5つの短編集の共通項は「無職」。表題作は主人公が若くして乳ガンに侵されたことが大きな要因となる。離婚後全く働かずに過ごす元バリバリ有能な女性、院生で収入のない彼氏にプロポーズされて躊躇う女性、それぞれハッピーエンドではなくとも余韻がある。私は、ホームレス状態から救った女性と彼女に惹かれてゆく居酒屋主人の話「あいあるあした」が一番好きだ。特別な理由もなく無職でいることに世間の目は冷たい。主婦も一職業とすれば、結婚もせず、働きもしないでいる成人女性に経済的独立か妻の座を得るかをせまるのは一般的だが、じっくり自分を見つめたり、無駄な時間を楽しむことも人生には大切とふっきれてしまえば「あいあるあした」の無職女性のような生き方ができるのだろう。「無職」はそんなに悪いことなのか?と問いかけてくるような作品集だ。

  久保田 泉
  評価:★★★★★
 第124回直木賞受賞作。表題作を含めた五つの小説が収められている。再読してみて、改めて受賞作にふさわしい勢いと作者らしい魅力がふんだんにつまった一冊だと思った。山本文緒を読んでみたいが、何から読もうかとお悩みの方には、自信をもって本作品をお勧めしたい。
 プラナリアになりたい春香は、乳がんの手術以来、何もかもが面倒くさい。生きてることも死ぬことさえも。現代的なけだるさや出口のない感覚をテーマにした小説は他にもあるだろうが、山本文緒はそのイライラを閉塞感という大仰ものにはしない。すごくリアルな“面倒くさい”という現代的な感覚をうーむ、とうなりたくなるほど上手に書く。まず全く颯爽としていない人物設定や背景、エピソードが見事にツボにはまっている。その人間たちの当然ぱっとしない日常の中の、もがきつつも、そもそも答えなんて見つける必要があんの?というようなカッタるさをスルっとすくい取って描いていく。個人的にはやっぱり、希望が見える「あいあるあした」が一番好きだけど。

  林 あゆ美
  評価:★★★☆☆
 今度生まれてくる時は、切っても切っても死なないプラナリアに生まれたいと誰彼になくしゃべりまくる春香は23歳の時に乳がんの手術を受け、それ以来何かをしたいという気持ちをもてずダラダラと職にもつかず過ごしている。この表題作含め5つの短編が入っている作品集の中でおもしろく読んだのはこれ。
「囚われ人のジレンマ」は、主人公が25歳の誕生日に彼氏にプロポーズされる。ステレオタイプ的なセリフではなくちょっと個性的な言い方――「そろそろ結婚してもいいよ」と。冒頭のそのシーンに、読み手の私はふむ、と思った。そしてラストの予想をたてた。結果は当たり。当たりなんだけど、うまいぐあいにその答えに行き着いたストーリーに「なるほど」と感心してしまう。そして自分もまだまだ囚われているなぁと反省。さて、私が何を言っているかはぜひ本を読んでみてほしい。「何を勉強してきたんだ。まったく学費出した親は泣くよ」と言われたくないものです、はい。

  手島 洋
  評価:★★★☆☆
 5つの短編が入った短編集。自分や周囲の人々などに違和感を覚えながら、周囲にあわせることも完全に反発することもできず、不器用に生きていく男女が描かれている。表題作の「プラナリア」では若くして乳がんになり、精神的にも肉体的にも社会復帰できずにいる女性が主人公。というと深刻難病もののストーリーになりそうだが、主人公はそんな病気で深刻に悩むなんて気にもなれない女性。はじめて会った人に「私、乳がんだから」といって、思い切りしらけさせてしまうのには笑ってしまった。実際、知り合いだと嫌ですけど、そんな人は。
 ひとつひとつの話はおもしろいのだが、最後の作品を除くと作品の雰囲気が似ていて、ちょっとうんざりした。別に同じ傾向の作品をむりやり同じ作品集にいれなくてもいいと思うのだが。
「あいあるあした」という素直になれない中年男が主人公のちょっとせつない話が最後にあって救われた気分になりました。

  山田 絵理
  評価:★★★☆☆
 裏表紙に「現代の“無職”をめぐる心模様を描いて」とあり、それに魅かれて読み始めたのだが、以前読んだことがある作品だった。プラナリアという気味の悪い題なのに、どうも忘れていたらしい。でも、この作品のテーマは決して無職なんかじゃないと私は思う。
 山本文緒作品には、どれにも痛烈な毒が潜んでいる。他人と自分は、こんなにも冷たい関係になれる、というもの。血のつながった親子であっても、恋人同士であっても、親友同士であっても、だ。何を考えているのか互いにわからない。そんな孤独な状態に陥った主人公の心の動きは、友達にはもちろん親にはまして言えない、寂しさを持て余すどす黒い私の心情を代弁しているようで、私が山本文緒を好きになったゆえんだ。
 でもどうやら私は彼女の作品を読みすぎたらしい。今回はその毒が食傷気味であった。話に現実味がありすぎて俗っぽく、かえって嫌味にきこえてしまったからだ。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
 直木賞受賞のベストセラー短編集だという本作、毎度ながらの不勉強、著者の名前も初めて知ったというていたらくの僕にとっては、『現代の“無職”をめぐる心模様を描い』ているという紹介文を読んで、おお、なるほど、そうだったのかと膝を打つ始末。て言うか、無職をキーワードとして無理矢理くくる事ないじゃんなどと、勝手にぼやいてはみたのですが、で、結局、言いたい事は、思った以上に面白かったって事。あ、こういう言い方、すごく失礼なのだと、今、気付いたので書き添えますが、基本的にベストセラー嫌いなもので、売れちゃってるものにはどうしても距離を置いて、ふふん、なるほどねといった風に読むもので、って、別にどうでも良いんですけどね。
 特に最後の『あいあるあした』が好き。ドラマになったら面白い気がする。あ、そうか、良くも悪くもTVドラマのシナリオっぽいんだ。情景がくっきりと目に浮かび、それでいて不必要な情景描写はない。人物もどこか軽く、まるでカメラの前で微笑んで見せているかの様で。ゴールデンタイムにぴったりな作品。

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