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北村薫のミステリー館
北村薫のミステリー館
【新潮文庫】
北村薫
定価740円(税込)
2005/10
SBN-4101373299
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★★
 表紙まで魅せられる。「北村薫」だけで「静かなワクワク」を感じてしまう私だが、おなじみネコ付きイラストもなかなかだ。初めは単に館と缶のシャレだと思ったが、「ミステリー館の愉しみ」を読んで、さらなるおもしろさに気付く。正に「(ミステリー)館 can can 館」Can can can can.(カンは館をカンづめにできる)で、最初の最初から深く楽しめる。で、肝心の内容はというと、そのへんではやたらにお目にかかれない古今東西の短編の盛り合わせである。一番長い奥光泉の「滝」も一番短い、たった6行の「本が怒った話」も印象深い。笑えたという意味でおもしろかったのは「少量法律助言者」。要は一寸法師のことだが、文節の変換ミスも含めて翻訳機にかけた話が変身してしまうという新鮮で不思議な世界を見た。塚本邦雄や高橋克彦の作品もよかったし、ミステリーファンでなくとも様々な味を堪能できる盛りだくさんの作品集である。

  久保田 泉
  評価:★★★★☆
 この本の編者で作家の北村薫は、大学ではミステリ・クラブに所属していたそうで、推理小説ファンとしての読書家ぶりはかなり本格的で、知識も作品への洞察力もさすがです。さすがすぎて、正直、集められている話の中には私には高度過ぎるのか高尚過ぎるのか、いまひとつ良く理解出来ない話もあった。という訳で、巻末にある宮部みゆき氏との「ミステリー館」の愉しみという、豪華な対談形式の解説があって面白かったし助かった。これを熟読してから、再度ひっかかった話を読み直すという愉しみもありました。
 読書の達人が、とっておきの名品と呼ぶ作品ばかりなのだから、とりあえず好みも猜疑心も捨て、素直な気持ちで読むと新鮮で面白い。普段手に取らない作家が読めるのもアンソロジーの良さ。個人的には奥泉光の“滝”に引き込まれた。あまり得意でない作家だけにこんな出会いが嬉しい。同じく北村薫編の「謎のギャラリー」シリーズというのも出ていて、こちらも面白いです!

  林 あゆ美
  評価:★★★★★
 北村薫氏が選ぶミステリのアンソロジイ。読書家の氏が選ぶのだけあって、バラエティあふれる品揃え。トップバッターを飾るのは、ウィリアム・スタイグの絵本「きいろとピンク」!
 なるほど、これミステリとも読めるのですね。私は大のスタイグファンなので、最初のページに「きいろとピンク」があるだけでぐぐっと入り口を大股で入ってゆけます。これを読まれた方はぜひ元本の絵本へどうぞ! うれしくなってルルンと次の扉をあけてみるとそこには「夜枕合戦/枕の中の行事」。岸本佐知子さんのエッセイとも物語ともいえるような2つの話。「夜枕合戦」は夜眠る前に一人しりとりをするのだけど、ふつうのしりとりでは芸がない、大人らしくもないとハードルをどんどん高くしていくしりとりに発展し……。笑います、それも大笑いします、まちがいなく。そして次も次もよくぞ集めてくださいましたという短編ばかり。
 良質のアンソロジイは大きな扉の入り口になるのだとしみじみうれしくなりました。巻末の宮部みゆきさんと北村薫さんの解説対談もよいです。

  手島 洋
  評価:★★★★★
 本好きにはたまらない「謎のギャラリー」シリーズの最新刊。センスのいいDJが選曲した音楽番組を聴くように、次々と飛び出してくる作品をひたすら感心しながら読みました。いきなりシュールで哲学的な匂いさえ感じる絵本、「きいろとピンク」に始まり、パトリシア・ハイスミス、ヘンリー・スレッサーといった有名どころから、雑誌に載ったままで埋もれていた幻の名作まで本当に幅広い。なんと言っても、選者の北村さん自身が一番楽しんで、この本を作っているのがわかる。第二のエラリー・クイーンになるべく、ぜひがんばってください。
 中でも印象に残ったのは、ベイジル・トムスン、ヒュー・ペントコーストといった50年代に翻訳されたミステリー。子供の頃、ホームズを読んだときの楽しさを思い出させてくれる作品。田中潤司さんの訳もすばらしい。
 唯一の難点は100ページ以上ある作品がひとつだけあること。1時間番組の中でプログレをかけられてしまったような気分。もっともっと数多くの隠れた名作に出会いたいのだ。1曲5分以内にしてください。

  山田 絵理
  評価:★★☆☆☆
 私は推理ものの短編集を集めたものだと勝手に思い込んでいて、殺人事件が付きもので、いろんなパターンのトリックが掲載され、ただ謎解きを楽しむ本だと思っていたが、そういうものは1篇しかなかった。
 ミステリーというのはどこまでの範囲の物語を指すんだろう。人間のもつ普遍的な悲しみや寂しさ、怒り、欲求、そういうものを扱うから、結末を読んでもすっきりしないのだろうか。それぞれの短編を終わりまで読んでも、尻切れトンボが多くて、こちらは手持ち無沙汰な気分になる。これはもう私個人の好みの問題なのだけど、やっぱり結末はきちんとほしいと思ってしまう。
「一寸法師」が「少量法律助言者」として翻訳変換された昔話は、最初は何を言いたいのかちんぷんかんぷんで、分かってから後も全然笑えなかった。何を意図しているのか、わからないところが、みすてりい、だ。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
 うーん、タイトルに騙されました。これ、アンソロジーです。こないだ『スキップ』を読んだばかりで、ちょっと気になる作家でもっと読まなきゃと思っていたものですから、正直、ちょっとがっかりだったのです。
 でも、めげずに読み進むうち、面白いものもあり、どうでも良いものもあり、何だか良く判らないものもあり、ただ、救いようのないものはないので、この本、買いだという気にはなりました。いろんなタイプのお話がありますので、かなり広い意味でのミステリというくくりになるのでしょうが、すごいなと思ったのは奥泉光の『滝』です。不勉強のせいで名前も知らなかったのですが、芥川賞受賞作家で、それなのに(と言うのも非常に変な言い方だけれども)、やたらと変な感じの作品を発表されてるみたいで、早速読みたい本リストに書き加える。
 あ、最後に言わせてもらえれば、本書の場合、誰が編者でも良い様な気がします。最後の対談風の解説でなく、もっときめ細かな、北村薫の匂いのする様な解説文があればと、それが残念です。

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