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勝手に目利き
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文庫本班
剣と薔薇の夏 上
剣と薔薇の夏 上下
【創元推理文庫】
戸松淳矩
定価各903円(税込)
2005/9
ISBN-4488446043
ISBN-4488446051
 

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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★☆
 分量も内容も読み応えは十分。頭と目の疲れも十分味わえる。描写がとにかく細かい。一言一句丁寧に書かれた風景、人物、歴史はまるで当時ニューヨークに住んでいたアメリカ人の手によるもののようだ。1860年。日本使節団を迎えるN.Y.が舞台ーって、こんな使節団あったっけと思う程、歴史的には有名ではない史実がベース。その使節団の歓迎委員会参事の一人が殺され、一人は行方不明。他の事件とも繋がって連続殺人事件となる。現場に残される旧約聖書の切り抜き、使節団との関連をアメリカ人二人が探偵役となって解明してゆく。当時の米国の歴史背景の説明は後々事件と関わってくるので、面倒でも気を抜いて読んではいけない。謎解き、見立てとしては斬新でおもしろいが、違和感もある。小細工、深読みのしすぎというか、ここまではしないだろうと思うのだが。実際、途中で犯人は見えてきてしまうし、理由も予想していたものが最後で細部まで確認される形だ。しかも探偵役から一方的に。私としては、元漂流民のジューゾの存在をもっと生かして欲しかったし、日本との文化の違いなどをメインの謎に使ってもよいと思うが、これが作者の意図なのか、どこまでもアメリカ側に立っての話となっている。

  久保田 泉
  評価:★★★★☆
 ミステリに詳しくない私には、聞きなれない作家名とお芝居のような題名に少々とまどう。意外なことに、小説の舞台は1860年のニューヨーク。黒船が日本にやってきた系の話はよくあるが、日本使節団がアメリカへ行って、ニューヨークが日本人の来航に沸きかえるという史実に基づく背景が興味深く、とまどいを払拭してくれる。小説には当時のニューヨークの人物や街の様子が克明に描かれ、歴史好きな私はいちいち感心して読んだ。当時の日本との対比も面白い。
 しかし本著はれっきとしたミステリ。サムライたちがニューヨークに到着する頃、連続して起きた2つの謎の殺人事件。まず、第一の殺人の被害者の近くに、使節団の歓迎準備委員会に配られた記章が落ちていた。そして第二の殺人の被害者は、準備委員会の参事。さらにどちらの事件にも旧約聖書の一節のページが残されていた。そして祝賀行事の中、第三第四の殺人が…。著者渾身の一作は、気楽に読めるとは言えない。だが全篇を通して案内役がアメリカ人の新聞記者のため、実に自然な日本語の翻訳本のような、初めて味わう読後感だった。

  林 あゆ美
  評価:★★★☆☆
 読むのは速い方だが、この本には速読を拒否された。無言でじっくり読めといわれているような、そう肩をたたかれたようで、すなおに時間をじっくりかけて2冊の上下巻を読了。
 時は1860年、ニューヨークでは日本使節団の来航にともない準備委員会が設立され、祝賀行事の計画が着々と進行する。そんな中、旧訳聖書の切り抜きが死体におかれるという奇妙な殺人事件が連続して発生した。それら事件を探偵のように追い、推理していくのが週刊紙の古株記者ウィリアム・ダロウと挿絵画家フレーリの2人だ。
 丁寧な時代背景、当時のニューヨークを細密画のように念入りに書き込み、登場する人物も脇役らもたっぷりと描かれている。いま、自分が読んでいるのは連続殺人事件の真相に近づいているのか、はたまた日本使節団を追っているのかわからなくなるくらい、さまざまなものに焦点がふんだんに当たっている。ゆえに物語の道筋を時に見失いそうになりながら、なんとかくらいついて読み終えた。濃密な読書だったが、経過があまりにも濃かったので、着地の解決が少々物足りなく思えてしまったほど。

  吉田 崇
  評価:★★★☆☆
 一口にミステリといっても、いろんな区分けがあるみたいで、本書はどうやら時代本格、おまけにそれの金字塔というのですから、面白くない訳がありません。と言いつつ、今、僕は話の内容を必死に思い出しています。タイトルの剣はイメージできたのですが、薔薇が分かんない。内容に関係あったかなと思いつつ、ま、いいやと書評する。
 謎解きの楽しみよりも時代小説的な部分で、僕は楽しませて頂きました。開国直後の日本とアメリカとの交流が興味深く、そういう意味で、登場人物達も生き生きと感じられました。
 本格という先入観から、読み方が謎解きモードになっちゃってたせいか、怪しげな人物はある程度早めに推測されました。多分、Why done it ? の部分がミステリとしての本書の中核でしょう。丹念に読んでいくと、パズルみたいで面白いものですね、本格って。一粒で二度おいしい秀作だと思います。

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