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【河出文庫】
綿矢りさ
定価399円(税込)
2005/10
ISBN-4309407587
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★
 表題作と書き下ろしの短編が一作入っているが、やはり「インストール」が断然よい。十七歳が書いたとは思えない(偏見かも。ごめんなさい。)しっかりとした文章に独特の感性が息づく文体や表現もおもしろく、かつ美しい。言葉のあやつりかたが上手だ。「沈、黙。」など読点の使い方や、母に持たされたいわくつき図書券を「桃色の手切れ金」と表現するところなど、作者の感受性の豊かさが反映されるのだろう。道徳的なことはさておき、内容もなかなかだ。主人公はいい加減なようでいてもキッチリ自分を素直に見据えているし、パートナーの小学生も単に生意気なのではなく、大人よりクールに自分の心や人生までも見つめることができて、内容共々ドキッとしてしまう。担任教師を恋人にしている同級生の光一もいいキャラだ。心にじかに響いてくる作品だと思う。自分の娘と同じ年の作者、そういう意味でもちょっとドキドキして読んでしまった。

  久保田 泉
  評価:★★★★
 この作品の★四つは、やはり現代に生きる人間として、せめて一度は綿矢りさを読んで欲しいなあという個人的な想いが含まれてます。長い小説ではありません。文庫を開くと、字が大きくて読みやすい上に、一行も短い。おまけに書き下ろし短篇が収録されていて399円は買いでしょう。とここまで書いて、全くストーリーに触れていない。すみません。だけどこの作家はそういう事前準備はなしにして、だ〜っと勢い良く読んだ方が面白いと思う。でも少しだけストーリー紹介。学校も受験も拒否することにした、高校生の朝子。ある日、ゴミ捨て場で朝子の捨てたコンピュータを欲しいという、同じマンションの小学生かずよしと知り合う。かずよしにコンピュータを使ったある仕事に誘われて…。ストーリーは脅威的に面白いわけでもなくむしろ単純とさえ言えます。だけど読了後、同じく読んだ誰かと細かい表現の部分などの感想を話したら面白いだろう、と思った妙な磁力を感じる一冊。

  林 あゆ美
  評価:★★★★★
 この本は出て話題になった時にすぐ読んだ。その時はそれほど印象に残らなかったのだが、再読の今回は「うまいなぁ」と呻った。書き下ろしの短編もおもしろい。これで380円(税別)はお得だ。
「インストール」は、ぷち・ひきこもりの女子高生と、カシコイ小学生がコンピュータを使って“おしごと”する話。2人の会話がテンポよく、すらすら読めてその言い回しにぐっとくる。深くはないけれど、気持ちよい余韻が長く残るのは、小説らしい印象的な文章があちこちにあるからだと思う。女子高生と小学生男子の会話もよいが、彼女と母親のやりとりもいい。なげやりな母親の言葉はなかなか響く。書き下ろしの「You can keep it.」も、エッジするどくテンポよく、やっぱりすらすらと読めて余韻を残してくれた。人とうまくやっていく方法って、どこから会得するのかねぇ、なるほどこういうのもあった、でもやっぱりこうなるなぁと、とりとめなく心地よい読後感は短編の方です。

  手島 洋
  評価:★★★★
 ふとしたきっかけで高校に行かなくなり、毎日、親に内緒で家に籠もるようになった朝子。同じマンションに住む小学生と出会い、パソコンを使って秘密の仕事を始めることになる。
「蹴りたい背中」を読んでいない私は、これが綿矢りさの初体験。考えていたのとまったく違う作品だったので驚きました。女子高校生と小学生の男の子がパソコンを使って風俗のアルバイトをする、というのは確かに現代的ですが、そんなことよりも文章自体を読んでいて心地よかった。あっという間に次の場面に進んでいくストーリー展開も読んでいて気持ちがいい。普通なら、風俗や小学生の母親や学校の同級生たちとの場面でもっと「事件」を起こしたり、葛藤があったりするのだろうが、ここにはそんなものは存在しない。紹介文には「二人の成長を描く」と書かれているが、全然「成長」なんてものはせず、彼女は彼女のまま存在し続けているのだ。そこが素晴らしい。こういう作家がこんなに売れてしまった、というのはすごく不思議だ。これから、どんな作品を書いていくのか今更ながら注目したい。

  山田 絵理
  評価:★★★★★
 初めて読んだが、しょっぱなから頭をがんと殴られたような気がした。文章に圧倒された。たどたどしくもあり、まっすぐ力強くもある文章。言葉を使うことに思いっきり自由でいられる、そんな文章。作者の、ごつごつした原石のようなむき出しの思いが、17歳ゆえの焦りと不安と無気力感が、こちらに容赦なくぶつかってくる。ひえええ、これが17歳の書いた文章なのか!その才能に嫉妬する。すごいすごい!
 主人公の女子高生は、ある日突然同じ毎日や受験勉強に嫌気が差して、高校生活をドロップアウトすることを決意、その後ひょんなことから小学生と古いコンピュータを使って風俗チャット嬢のバイトを始めるというお話。もう有名ですね。
 ただ思春期特有の重苦しい思いばかり書きつけているのではない。途中からの、変てこなバイトの話はおかしく、とくにチャットの場面には笑ってしまった。そしてラストでは最初の重苦しさを見事に昇華させてしまう。ほれぼれするほどすっきりとした終わり方だ。うーん、完璧。

  吉田 崇
  評価:★★★
 案外ミーハーな僕としては、『蹴りたい背中』をとりあえず読んで、何だか随分遠慮がちなSM女王様なんだなと、所により見当はずれな読後感を抱いてはいたのだが、本作品は、素直に楽しめました。今月の三位(同率首位が二作品あるもので)ですが、著者の写真が非常に可愛い事を考慮して、オススメ度は一番という事にしたいと思います、ハイ。
 随分若いのに、何だか微妙によたってる性の香りがぷんぷんで、この嗜好は戦略的なものなの?、単純に実体験なの?、などと言いだしたらセクハラ親父丸出しなので黙っていますが、この感覚、著者にとっては両刃の剣、これから先が楽しみな様な心配な様な、しばらくの間は目の離せない作家だと思います。おそらく次作が勝負作でしょうから、首を長くして待ちたいと思います。
 そう言えば『蹴りたい田中』も買ったのだけれど、まだ読んでなかったなと、全然書評にならないままに終わる。

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