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青空感傷ツアー
青空感傷ツアー
【河出書房新社】
柴崎 友香
定価494円(税込)
2005/11
ISBN-4309407668
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★
  音生はとにかく美しい、らしい。その美しさゆえに自信過剰、高慢チキで自己チューのわがままし放題の音生。そんな性格に難アリの、しかも年下の彼女に気を使い、言うなりになってひきずられてゆく主人公・芽衣。少々腹を立てながらも音生をあがめるのは芽衣の顔かたちの美しさに弱く、惚れっぽいことに起因すると納得。それにしても性格や容姿の違う二人のわずか一ヶ月の間に大阪ートルコー徳島ー石垣島と、行き当たりばったりの旅。明るいウサ晴らしのどこが感傷なのか……
 大阪弁の会話は独特の面白さを含み、読み終える頃にはこの二人、実は相性のいいコンビなのだとうなずいてしまう。別にどうというクライマクッスがあるわけでもない内容だが、ハチャメチャな旅に同行しながら気楽に楽しめる。

  久保田 泉
  評価:★★★
 主人公の芽衣は、三年勤めた会社をやめる。そんなとき、突然昔の友だちで、超が三つくらいつくような美人、かつ超ゴーマンな音生から電話がかかってくる。彼氏に女がいた、と怒り狂う音生の傷心と憤怒に完全に仕切られながら、遠くに行こうと言う彼女の言葉に乗っていく。なぜかしょっぱなはトルコだ。関西弁でポンポンと繰り広げられる、女二人の文句が多い会話は、何もトルコくんだりまで来てしなくてもいいようなバカバカしさで笑える。傷心旅行?の合間に音生が男友だちを傍若無人に振り回す。お次は四国で、芽衣はかつて失恋した相手と再会する。そして次はなぜか石垣島だ。芽衣と音生をはじめとする、登場人物たちがテンポよくかわす会話が作品の魅力だ。芽衣を取り巻く現在も未来も現時点では、全然前途洋洋じゃない。でも何をしようが考えようが、毎日はなんだかんだとしゃべくりながら能天気にも過ぎていく、それが本当なんだよ!という話だと思った。

  林 あゆ美
  評価:★★★
 今年はたっぷり本を読んだ。本を読めば読むほど、小説にはいろいろな書き方があるのだとあらためて思う。この本でもそう感じた。
 文体は全部が話口調ではないのにも関わらず、この物語を読んでいるとずっと友だちと長電話し、それもずっと聞き役でいた気分だった。何かおこった時のことをずっと語るとなると、それはひとつの物語のように長いものになると思う。それをただ「うんうん」とうなずくだけの聞き役でも飽きずに最後まで聞けた(読めた)ということは、それは小説のもつ力なのだろう。
 自ら美人と認めるわがままな女友だちに言いなりになっているのが、主人公。その女友だちにひきずられるように、大阪からなんとトルコ、四国、石垣島まで旅行するのだ。適当に男友だちも呼びつけたり、かと思えば置いてけぼりのように男友だちにさよならしたり、気の向くままの旅が連なっている。ただそれだけのことが、ただそのように書かれていて、読ませる小説になっていた。

  手島 洋
  評価:★★★★
 美人だが性格の悪い女の子、音生と、優柔不断で(男女を問わず)きれいな子に弱い芽衣が旅をする物語。トルコから四国、石垣島まで、行く先々でケンカになりながらも結局、ふたりは周りの男たちを巻き添え(?)にしながら旅を続けていく。「感傷旅行」とタイトルにはあるが、別にふたりが失恋したから旅行に行くというわけではなく、ただなりゆきで出かけていくという力の抜け具合がなんともいえない。
 細かいことが気になりながらもなかなかそのことが口にできず、怒りを腹にためながらも、結局は音生の可愛らしさにすべてを許してしまう主人公、芽衣。話の前半は新幹線の中で延々と大声でしゃべっていたり、昔つきあっていた男を突然呼び出したりしていた傍若無人な音生に注目していたのですが、読み進めるうちに、周りの景色や音生の美しさや四国の旅館の息子、永井君の可愛らしさに見とれて、それまでの怒りや悲しみを忘れてしまう芽衣の心変わりの速さの方が気になってしまった。二人の旅は面白いけど、一緒に巻き込まれるのはしんどそうです。

  山田 絵理
  評価:★★
 ありふれた日常を描いた小説は大好きだ。でも、しょっぱなからこういうふうに書くのは申し訳ないけど、読み終わったあと、何か心に落としていってくれなければ、私は嫌なのだ。
 仕事を辞めたばかりの私と、年下で美人でおまけに自分本位な友人。その友人に誘われてふいに出かけた大阪・トルコ・四国・石垣島。旅の出来事とそこで起こる恋のさやあてを綴ったお話であり、ありふれた日常の話ではないんだけど、でも、読み終わったあと何も残らなかった!私だけだろうか?
 作者と自分の年が近いので、共感できるかも、と期待しすぎたのだろうか。人物像の肉付けをもう少ししっかりしてくれれば、何かしらの親近感を抱けたのに、と思う。風景描写には、随所にはっとするほどの表現が使われていて、雰囲気はよく伝わってきたのに。  
 要するに文章との相性の問題なのかな?

  吉田 崇
  評価:★
 よーし、久々に読んだぞ、つまんな本。と、なぜだかちょっと楽しいのです。
 もう、とにかく読み終えた直後の、「だから、どーした?」という想いが、いまだに抜けません。この程度の話なら深夜のファミレスに行って、隣の席の女の子達が喋っていても、何の不思議もない。ちょっと前に良く聞いた『自分探しの旅』って奴なんですかね、探すほどの自分なんて、ホントはどこにもないんですよね、きっと。ま、せいぜい、自分を探そうとしている自分が見つかるだけな訳で、ま、それはホントは大切な事なんでしょうけれど。
 好感が持てるのは本の薄さと活字の大きさ、定価はもう少し低めだとなお良し。解説もなかなか味のあるもので、9.11以降の小説について語られている文章はかなりキュート。ずーっと昔から、深刻な世になったときは必ず滑稽なものが世にはびこっていたという事実を、この人は知らないのだろうか? と、ちょっとえらそに言ってみる。