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勝手に目利き
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文庫本班
凍れる森
凍れる森
【講談社】
C.J. ボックス
定価820円(税込)
2005/10
ISBN-4062752190
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  北嶋 美由紀
  評価:★★★★
 ワイオミングってどの辺だっけ? エルクって何? 一行目から?が出てくる。おまけにまたもシリーズものの何作目かで、よく設定がわからないまま読まねばならない。少々重たい気持ちで出会った主人公は猟区管理官(これもよくわからない職種)のジョー。職務に忠実で、清貧ともいえる生活を妻と3人の娘と仲良く送る、実直で正義感のあるマジメ人間であり、彼自身が本書の大きな魅力だ。彼が関わってしまった殺人と障害のいわば公的な事件とジョーの家庭でおこる里子の親権問題が並行し、とんでもなく大きなトラブルとなってゆく。内容的にはよく実態のわからない部分もあったが、関心は支流ともいうべき里子問題の方へ惹きつけられてゆく。むなしい結末はもちろんジョーの長女のいたいけさに思わず涙しながら、高慢な森林局の女に嫌悪を増大させながら、真面目人間の怒りに火がつくとコワイな〜と思いつつラストまで気が抜けず楽しめた。

  久保田 泉
  評価:★★★★
 これは思いがけず引き込まれ、テンポ良く面白く読めた。まず主人公が馴染みのない、猟区管理官というのが、かえって新鮮で興味をそそられた。雪深い広大な大自然や生きものが暮らす場所で、人間が犯す生々しい事件が起こるのが、帯にあるようにまさに現代のウエスタンという感じ。ウエスタンらしく、過剰な修飾語とは無縁で、骨太な文章は不自然な日本語でもなく読みやすい。冒頭で、主人公のジョーはエルクの大量虐殺に遭遇する。動機も分からぬ知己の犯人は、何者かに殺されてしまう。事件の犯人として、最悪の女性役人やFBI捜査員は国有林の一部を占拠する独立市民に目をつける。しかしそこには、ジョーの養女で、産みの親に連れ去られたエイプリルがいる。物語は事件を追う管理官のジョーと、父親として愛する娘を奪還したいジョーと家族の苦悩の両輪を軸に、緊迫したまま展開していく。上司が同情の余地なしの悪役なのと、その裁かれ方はいかにもアメリカ的ではあるが、それもまたよしかと思う。

  林 あゆ美
  評価:★★★
 猟区管理官ジョー・ピケットは、エルクの大量殺戮の現場に居合わせハンターをつかまえようとするが……。
 エルク殺戮で幕を開けた事件は反政府グループを巻き込み、対する政府側も傲慢で好戦的、ジョーはその中で人間としてどうするべきかという、ごくあたりまえの感情で事件に対処していくが、なかなか事はうまく運ばない。
 事件の結末としてすこし強引なところはあるが、ピケット一家の暖かさが物語にいっかんして流れ、それが読後感をよいものにしている。
 個人的にちょうどこの本を読んだ時に外は吹雪だった。なので、本書の状況に近しさを覚え、季節的にはぴったりの読書だとすいすいページを繰る手がはかどった。家の中に閉じこめられるような吹雪は読書にピッタリなのだ。
 

  山田 絵理
  評価:★★★★
 アメリカワイオミング州の広大な自然を舞台に、猟区管理官ジョーが遭遇した殺人事件と家族の愛情の物語。見所は、美しさと畏怖を感じさせる雪景色の描写のすばらしさと、一介の役人に過ぎないジョーが正義感に駆られ、組織と戦いながら真相を明らかにしてゆく場面。
 この1年間、多くの米国産ミステリーを読む機会をいただいた。以前は、アメリカは自由と平和を愛するおおらかな国だから、組織内のしがらみなんて無いのだ勝手に思っていた。だがどうやらその逆らしい。大統領にあれだけの権限や力があるからこそ官僚機構もしっかりしていそうだ。だからなのか、「個よりも組織を重んじる官僚社会V.S.役人でありながら組織になじめないはみ出しものの主人公」という図式のストーリーが多かった。そして主人公が事件を解明しようとすると、必ず上からの圧力がかかるのだ。気がつけば、自分の職場には誰も信じられる人がいない。おお!主人公大ピンチ!始めは冴えない主人公がだんだんかっこよく見えてくるのもお約束。本書もまさにそのパターン。でも、面白かった。

  吉田 崇
  評価:★★★
 なかなか渋い、この一冊。毎度ながらの不勉強、本書がシリーズものだとは知らなかったのだけれど、続けて読まなくても大丈夫、な気がする。もちろん前作は読みたい本リストに書き付ける。
 渋さのポイントは主人公の性格設定、ホントごく普通の良い家庭人なんです、はい。家族を守る為に必死で動くのですが、ま、ここにいろんな枷がかかってくる訳で、ビジュアル的に印象的なのが突然の大雪。表紙みたいな感じなんだろうな、と想像したりもするのです。すったもんだがあって、最後は、うーん、ハッピーではないかな、でも、良い人が主人公の小説でまるっきりハッピーに終わったら、まるで馬鹿みたいだから、これはこれで良いのかな、ごめんね、エイプリル。
 小説的なキャラはネイト、未訳のシリーズ他作品がどうなってるのか知らないので、まるっきり嘘っぱちになるんだけれど、シリーズ番外編の主人公は彼で決まり、その時には盛大なドンパチが期待できそう、です。