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勝手に目利き
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魔力の女
魔力の女
【講談社】
グレッグ・アイルズ
定価1140円(税込)
2005/11
ISBN-4062752344
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  北嶋 美由紀
  評価:
 アハ・ハ・ハハ……とかわいた笑いをしぼり出すか、何だコリャ〜!と驚いて呆れるか、あるいはゾゾっと恐怖を感じる少数派になるかは読み手次第。この評価はあくまで私の好みに準ずるもので、もうひとつ☆を追加してもよいかな、といったところです。果たしてこの作者は真剣に渾身の力で書いたのか、遊び心で書いたのかさえ疑わしい。少なくともキングはひれ伏さないと思いますが。
「もうすぐね」という言葉がすべての災いの始まり。突然ジョンの前に現れた美女は10年前に死んだはずのかつての恋人マロリーそのもので、表面上は成功していても仕事や家庭に不安や不満のあるジョンの心の隙間を襲ってくる。20年前のジョンとマロリーの恋愛、マロリーがどうして死んだのか、が話のキーポイントとなる。ジョンの生活は蝕まれてゆき、殺人までも……
 訳者いわく「神を信じない作者」自身が「この小説は常軌を逸している」と明言していることでもあるので、DNAのこととか、人格のこと、さらに主人公の人となりなど何も文句を言うつもりはございません。「パラサイト・イブ」や「アナザ・ヘブン」の世界が好きで、バカミス大好きの私としては、エロバカサイコホラーともいえる本書にお目にかかれて光栄です。と、この一言に尽きる感想です。おもしろかったです。
 でもこの表紙、電車の中で読むのは勇気がいります。

  久保田 泉
  評価:
 この話もまた、引き込まれ度はかなり高い。意味ありげな、巻頭の読者への著者の献辞が読了後、しみじみ身にしみて怖い。親友と二人で、石油会社を経営する妻子ある41歳のジョンに、ある日セクシーな美女が接近する。彼女は十年前に殺された恋人のマロリーしか知りえない事実を次々口にする。彼女とのセックスに溺れていくジョン。しかし彼は、相次ぐ流産から憂鬱症になって以来、心も体もすれ違う妻リリーとの問題を抱えている。果たして、死んだはずの恋人の魂は本当に不滅なのか、それとも誰かの陰謀なのか。マロリーの存在を信じればゾッとするホラー色の強いミステリーとして堪能できるし、陰謀ならサスペンスタッチが増してくる。すべてはジョンの妄想という見方も可能だ。常軌を逸した話とは思わないが、読者の読み方によって様々な恐怖を味わえるのは、稀有な話だ。ラストもすっきり解決はせず、未知なる恐怖は続き、新たな想像力を生む。ラスト近くでリリーが、マロリーの魂を腫瘍みたいなものと形容したのには拍手。女は強くて怖い。

  林 あゆ美
  評価:★★★
 なんとも魅惑的な表紙につられて手にとった読者もいるのでは。
 物語は、その表紙からただよう魅力そのものの女性が登場する。しかし、その女性の正体がこのサスペンスのキー。
 ジョンは妻とひとり娘の3人暮らし。結婚以来、一度も妻を裏切らずよき夫だったジョンがある時、見知らぬ女性から「もうすぐね」とささやかれる。その言葉の意味は……。
 ありえない!と思いながらも、ぐいぐいひきこまれ結末を知りたくて一気読みした。理屈ではない状況下でおきていることなのに、夫婦だけがそれを理解する様は感動してしまう。ありえないと思いつつも、もしこんな状況におかれたら、自分は夫を信頼できるだろうかと、しなくてもいい想像までしてしまった。ともあれ、セクシーで濃密なサスペンスを描きつつ、夫婦の強い絆と愛をも描いていて読ませる一冊だ。
 
 

  手島 洋
  評価:★★★★★
 経営している石油会社が破産の危機にある四十代の男性ジョンは、不動産業を営むイヴという美しい女性に迫られる。彼女は自分が、死んだ彼の元恋人マロリーだというのだ。信じられずにいる彼に対して、彼女はマロリーとジョンの間でしか知りようもない話をし、マロリーとしか思えない行動をとる。果たして、彼女は本当にマロリーなのか、それとも彼を欺いているのか。
 設定はホラーサスペンスなのだが、とにかく話の進め方がうまい。本当にイヴの中にマロリーが入り込んでいるのか、誰かが仕組んだ策略なのか、策略だとすれば誰が首謀者なのか、と主人公は親友で仕事のパートナーであるコール、妻のリリーさえも信用できず混乱する。それでもイヴの美しさに溺れ、破滅への道をひた走ってしまう。そして、事件が進むにつれ、ジョンがいかにひどい過去を隠し持っていたかが暴かれていく。レイプ犯罪、避妊治療、幼児虐待、といった様々な問題を織り込みながらエンターテインメント作品として成立させた見事な作品です。

  山田 絵理
  評価:★★★
 官能サスペンス、と言えばいいのだろうか……。次々と出てくるセックスシーンに閉口し、まともに考えてみて思わず笑ってしまったこともあったが(ごめんなさい)、奇想天外でありえない事態に「してやられた!」と主人公と一緒にびっくりして、ひょえー怖いよーと口に出しながら読んでしまった。
 実業家のジョンに突然誘いをかけてきた、グラマラスな美女。その美女の中に、すでに死んでいるはずのかつての恋人の魂がいた。亡き恋人の口調で誘惑され、ついに屈してしまう。愛しているからこそ憎いと言わんばかりに、かつての恋人の怨念がジョンと彼の妻子を追い詰めてゆく。
 アイディアは奇抜だけど、なんだかなあという感想を抱かずにはいられない。でも、最後のシーンには読んでいて胸が熱くなった。土壇場になると男は意気地がなくて弱いけど、逆に女は、自分を犠牲にしてでも愛する人を助けようとするくらい、強くなれるものなのだわ。

  吉田 崇
  評価:★★★
 悪女にたぶらかされて身を持ち崩してみたいというささやかな願望が僕にはあって、だから理想のタイプは雪女なのだが、それはともかく、死んだはずの昔の彼女が、別の身体別の顔をして、またよりを戻そうとしてくるなんて話は、うらやましい様な怖い様な、そんな内容の本書、ちょっとサイコなその女を主人公が何故強く拒絶できないかというと、それはベッドの上でのそれはもう想像もつかないありとあらゆる行為のせいらしいので、そこもふまえて、うらましい様な身体がもたない様な、そんな内容の本書、ちょっと似た様な感じの話が大原まり子の吸血鬼っぽい話にあったなとか、それにしてもこの主人公、これだけ愛されるというのは実はすばらしい事なんじゃないかとか、ま、最後の対決には当然、この人が出てくるわな、とか、色々考えながらもあっという間の読了、間違いなしです。
 邦題、あんまりです。