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宇宙舟歌
宇宙舟歌
【国書刊行会】
R.A. ラファティ
定価2,205円(税込)
2005/10
ISBN-4336045704
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清水 裕美子
  評価:★★★★

 SFファン向けというよりも、B級バカ映画コレクターは読むべし!絶対読むべし!! ホラ話にクスクス、ワハハー!だ。
 会話の変さやたたみ掛けっぷり「はたしてここを生き抜ける者がいるのだろうか?」ジャーンと頭の中で効果音が鳴り響く如き壮大(というか「わざとやろー?」)な場面転換。ロードストラム船長と乗組員達の大冒険?は、ホメロスの『オデュッセイア』のように帰還の旅路の物語。格調高い抒情詩風(あくまでも風)に始まるが『家に帰った者もいるが、そりゃもう時間かかっちまったとも!』なノリ。
 先月の本『どんがらどん』でも感じたが、きっと作者ラファティ好きの訳者の渾身の訳しっぷりで可笑しさも倍増しているのだろう。他の著作と神話とアイルランドの民話を研究してからもう一度読みたい! あと続編もあるそうなので。食わず嫌いは損!
読後感:ギャグと毒とバカ要素が絶妙!

  島田 美里
  評価:★★★

 この作品を読むときに必要なのは、こっちもバカ騒ぎしてやろうと開き直る気持ちだと思う。例えていうなら、酔っぱらった人の話に、シラフではついていけないということだ。
 舞台は未来の宇宙。帯には宇宙版『オデュッセイア』とある。ロードストラム船長率いる仲間たちがヘンテコな世界を旅するのだが、快楽がはびこる世界で、ダメダメにされそうになったり、巨人が戦い続ける世界で、致命傷を負わされそうになったりと、展開の予測は不可能だ。解説で、どのあたりがパロディなのか示してくれているのだが、それでもやっぱり私の頭は、バカ騒ぎできたりシラフになったりの繰り返しだった。
 そんな中、アイアイエの星でのエピソードには、没頭してしまった。ロードストラムたちは、魔女のアイアイエによって、ペット動物に変えられてしまうのだが、注目すべきはその危機の脱し方。魔女の哲学をぶっこわすという精神的な攻撃が、野蛮でもあり高等でもあるように感じた。観念と観念のぶつかり合いは、物質的戦闘シーンよりもすさまじい。

  松本 かおり
  評価:★★★★★

  やっぱりラファティ、さすがにラファティ! またまた、カマしてくれましたな〜。たるんだ想像力に喝! こういうブッ飛び物語はラファティ様にお・ま・か・せ。本作とほぼ同時期(1968年!)に発表されたという『地球礁』も相当オモロい代物で、以前ハマった覚えがあるが、今回は一段とパワーアップした空想妄想奇想SF冒険物語。「解説」によれば「宇宙版『オデュッセイア』」らしいが、本家を知らずとも大丈夫。現に、『ホメロス』も『オデュッセイア』も知らん私が飯も忘れて嬉々と没頭、「★」を5つもつけておるのだ。
 死んだヤツが不意に生き返ってみたり、絶体絶命の危機をスルッと切り抜けてみたり、思わず「オイオイ」とツッコミたくなるご都合主義的な展開も、いーのいーのよ、ホラ話だからっ。笑って許すっ。大船長ロードストラム御一行が、次々と奇妙奇天烈な連中に遭遇するこの壮大な宇宙冒険旅行、なにはともあれ、便乗して楽しまない手はないぞ。

  佐久間 素子
  評価:★★★

 ロードストラム船長とその乗組員の、宇宙をまたにかけた大冒険。小型宇宙船が行き着く星々は、何でもありだが、常識はなしの奇妙な世界だらけ。ドライにして壮大、人間という存在が神話なみに軽くて、いっそ痛快なSFである。
 国書刊行会SF「未来の文学」シリーズというパッケージと、抽象的なデザインのカバーで、ずいぶんと高尚な読み物みたいにすましているけれど、しっかりスラップスティックなので注意。悪ノリが過ぎて、しばしばついていけなくなったりしながらも、怖いモノみたさで、最後まで読了。もちろん知識が必要とされるわけではないけれど、宇宙版「オデユッセイア」ということで、原典に通じていれば、より楽しかろう。こんな所で教養が役に立つとは!って、いや役には立ってない気もするけれど、正しい使い道ではあると思うので、我と思わん人はぜひおためしあれ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★

 宇宙船が様々な星に着陸しながら冒険する、壮大な大ボラ話。
 寄ってきた宇宙船の乗組員を堕落させてしまう龍宮城のような星、何度も生き返りながら戦争を永久にし続ける星、人間が家畜となって食べられている星。奇妙奇天烈な星々をくぐりぬけながら偉大なる荒くれロードストラム船長以下、船乗りたちは危機また危機を乗り越えて無事地球に戻ることができるのか。
 60、70年代のSF小説を復刊させたということで、どこか懐かしい感じがする。きっと手塚治虫とか星新一とかを彷彿とさせるんだろうな。
 宇宙って何でこんなに広いの。人って死んだらどうなるの。そのあまりのわからなさにひとり身悶えていた日々を思い出します。
 しかし途方もなさ過ぎる世界だからだろうか、既に子供の頃に馴染みすぎた世界だったからだろうか。未来の神話、英雄叙事詩、宇宙版オデュッセイアというのも分かりにくく、新鮮味も感じられず、残念ながら私としてはあまりノレなかった。


  新冨 麻衣子
  評価:★★★★★

 SFでこんなに笑ったのは「銀河ヒッチハイクガイド」以来!? 物語はさながらジェットコースターのよう。ロードストラム船長とそのクルーたちが宇宙を冒険するのだけど、行く先々が思いっきり変な星ばかり。欲望の赴くまま過ごしてしまう星でだらけきって抜け出せなくなったり、愛想はいいのにやたら闘いを強要してくる巨人族となぜか死闘を演じたり、ギャンブルの星で調子に乗って大借金をしてしまったり、美しい歌声にだまされて女のペットになったり、二本足で歩く羊たちの為に戦ったり……? もうわけわかんない。わかんないんだけどでも、めっちゃめちゃ楽しい。
 当初の目的地であった自分たちの世界に降り立ったあとのラストもいいんだよね〜。やっぱそうじゃなきゃね、男の子は!なんて意味不明に安心したり。太古の昔から男の子を夢中にさせるのは、無意味な大冒険なんですねぇ。あ、でも男の子限定の物語じゃないですから。一応女の子(っていう歳じゃないけど)のわたしもめちゃめちゃ楽しかったんで。
 未読の人はぜひどうぞ。ページを開けば頼んでもないのに勝手に、ロードストラム船長がとてつもなく危険でおかしい旅に連れて行ってくれます。

  細野 淳
  評価:★★★★

 十年にわたって続き、一千万人の生命を奪った戦争が終わり、男達が家路に帰還するところから物語りは始まる。でも、そんな戦争でも、それほど長く続いたわけではなくて、激しい消耗戦でもなかったらしいのだ。出だしがこのようなものだから、もう普通の物語ではないことは間違いなし、という感じがモロに伝わってくる。
 物語のメインは、その男達が家路に着くまでの道程のことだ。もちろん、そこでも物語りは、もう訳が分からなくなりそうなほどにデカすぎる。ある星では大男と殺しあって互いに全滅…だと思えば翌朝にはもう生き返っていたり、別の星では食用のために丸々太らされた危機があったりと、何ともよく分からない状態で進んでいく。
 スケールの壮大さは、今まで読んだどんな物語よりもスゴイ。いや、スゴすぎて、時として物語についていくのが大変なくらいだ。やや消化不良になってしまった自分が情けない……。また今度、時間のあるときにじっくりと読み返して、作者の世界にどっぷりと浸ってみたいと思う。