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勝手に目利き
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愛の保存法
愛の保存法
【光文社】
平安寿子
定価1470円(税込)
2005/12
ISBN-4334924816
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清水 裕美子
  評価:★★★★★
 献身は男のたしなみだ。女に愚痴られたら優しく抱き寄せて「よしよし、したいようにしたらいいよ」こう言ってやらなくちゃ。クリスマスには各家庭(4つ)をローテーションで回りきらねば!
 2001年から少しずつ発表されていた平作品が一冊になった。表題作を除いて語り手は男たち。30代から50代にかけての男心が家系図バリエーション満載で繰り広げられる。
 流行の愛情低体温男を愛した火山のように感情の振幅の激しい女。低体温オトコの愛を維持するために人生のイベントを提供し続ける『愛の保存法』。
 どうしようもない父親が今度はフィアンセの心をかっさらった?
 幼い頃の記憶が蘇る『パパのベイビーボーイ』。
 健気にジタバタする女に寄り添いながら生きてるって感じを味わうか、泣きながらすがりつかれることにエクスタシーを感じるか!?
 小ネタと会話の楽しさ一杯に男のご満悦とチックショウが描かれる。夜空を見上げながら自分を誉めよう! オレはエライ! 読後感:泣き笑い度満点!
 げんなり度も満点!!

  島田 美里
  評価:★★★★
 やっぱり著者が描く人物は、マニアックさが半端じゃない。毒舌混じりの鋭い人物描写に笑いをこらえきれず、いつも鼻息を震わせながら読んでしまう。しかし、この短編小説では、なぜか痛快さよりも先に憤りを感じた。なぜなら、キャラクターがマニアックを通り越した変人だからだ。
 クールな夫の情熱を呼び覚ますために、同じ夫と結婚・離婚を繰り返す女にしても、教え子の家に居候してデカい態度を取る元教師にしても、他人に迷惑をかけるなよ!と叱責してやりたくなる。ところが意外なことに、こういう奴からも得るものがあるらしい。彼らは中途半端な変人じゃないから、普通の人がたどり着けない境地に達していたりするのだ。息子の彼女まで魅了してしまう女グセの悪い父親いわく、「献身する男を、女は大事にしてくれる」そうだ。くやしいけれど、ごもっともである。
 それにしても、ろくでなしの父親がまともな息子より達観しているのは、不条理な気がしてちょっとむかつく。一見ダメな人間にも学ぶべきところがあるってことなのかもしれないけれど。

  松本 かおり
  評価:★★★★
 全6編、さまざまに繰り広げられる男女関係を読みながら、「ああ、わかるわ〜」「そーよそーよ、そこなのよ!」「やっぱりそれよ、肝心なのはっ」等々、共感しまくり。
 イチ押しは「パパのベイビーボーイ」。特に主人公の父親・行彦には降参だ。このオヤジ、かつては女房泣かせの筋金入りの遊び人。ゆえか御年60歳となっても洒落っ気たっぷり。豊富な経験から息子に説く「男のたしなみ」は、まさに必須の恋愛テクだ。「きみ去りしのち」もいい。ここぞという時、<男の見せ場>をいかにキメるか。これは男を上げるチャンス、真価が問われる勝負時でもあり、男女関係では結構、重要なポイントだと思う。
 女にとって都合よすぎる男ばっかり出てくる、という見方もできなくもないが、私としては、女の本音を知る、という意味で、本書は世の殿方諸氏にも、ぜひとも読んでいただきたい。チクチクと身につまされる方もいるかもしれないが、ね。

  佐久間 素子
  評価:★★★
『パパのベイビーボーイ』、とりあえず76ページ4行目を立ち読みして欲しい。以前、不惑を前に結婚された先輩(男)が、いかに女性を扱えばよいかというテーマで、全く同じことを語っておられた。そそそんなもん??と不満げな未婚男性陣と、今更何をと呆れる女性陣。先輩はハウツー本(結婚生活の秘訣の類ですね)のウケウリだと白状して、私は、男女の壁はやっぱ厚いなと思ったのだ。女心なんて単純なのに。で、作者はそんなモチーフを、ダメなのにもてる男と、そんな男にふらふらなびいちゃう女と、そんな男を苦々しく思う男の話に料理。ダメとか、幸せとか、優しさとか、がちがちになった価値観がほどけて、肩の力がぬけていく。 ハウツーとして使えるかっていうと、やっぱり使えないのだけれど、ハウツーを越えたところにしか人間関係の楽しさはないもsのね。
 平均点は10月刊の『Bランクの恋人』の方が高いかなあと思うが、いずれ気もちのよい短編集である。平安寿子、もっと注目されてもいいのでは。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★
 これだけ読後感の良い、良質な物語を量産し続ける平安寿子は、やはり偉大だ。  どの人も持っている可笑しみや希望や前向きさ。いーや、やっちゃえ!ってあっけらかんとした部分が楽しくてたまらない。人生は確かに理不尽で辛く、ままならないものだけど、それでもわずかな面白い部分は見逃さずに行こうよっていう作者のメッセージがどの短編にもあふれていて、好きだなあ!
 ヒモのような生活を送るダメ親父や、元教え子の家に居候している図々しい物理オタクの先生、浮気しては子供を作り養育費で手一杯の子煩悩な男。できればお近づきになりたくないタイプの男たち。しかしそのダメ男たちの多様な価値観が実は人生を楽しくしてくれている。ダメ男たちの一風変わった論理が、周囲のどん詰まりな状況を打破してくれるのがなんだか小気味よい。ザマーミロ!って感じになる。(誰に?世の中に?)
 人生を少しだけ生きやすくしてくれる短編の名手、平安寿子。好きです。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★
 フジモトマサル氏のカバーイラストがかわいい、なんかうまくいかない男と女の関係をユーモラスかつ味わい深く描いた「平安寿子」らしい短編集。
 一番好きなのは「パパのベイビーボーイ」。真面目な息子とちゃらんぽらんな父親という正反対なキャラの親子が、息子の結婚を機にぶつかり合う。このお父さんっていうのがいいキャラなの。定職は持たないが、調子よくてハンサムで優しくてやたら女にモテる。できるだけ関わらずに生きて来た丈彦だったが、さすがに婚約者までたぶらかされてはぶち切れる。ところがところが、圧倒的に悪いはずの父親を責めるはずが、いつのまにか恋愛についてアドバイスされちゃってるんだよね。「女の人には、意見なんかしちゃいけない」……お、お父さん、名言です!
 ……とついついお父さんのアドバイスにしびれちゃったわけなんだけど、でもこの物語の主軸は父親と息子の物語だ。このお父さんはダメ男だけど、でもそれだけじゃなかった。そこに気付いた丈彦が大きく前進するラストは胸が熱くなります。

  細野 淳
  評価:★★★★
 以前に刊行された、「Bランクの恋人」を読んだ時もそうだったけど、この人の恋愛物語は抵抗無く読むことができる。恋愛がメインテーマの他の小説は、どちらかといえば、苦手なものが多いのだけれど。
 別れても別れても離れられない男女。浮気癖が治らない上に、ヒモみたいな生活を絶えず繰り返している男。彼女の気持ちが自分から離れていくことを知りながら、どうすることもできないこと……。他の恋愛小説でも、似たような話はいくらでもあるのだろうが、それをどんな風に描くのかは、作者にかかっているのだろう。深刻なものとしても扱えるようなテーマを、何とも軽い感じで、でもメインなものとして取り扱っているところが、個人的には好きだ。もちろん、そんな作者の姿勢を、どのように受け入れるのかは、その人次第なのだけど。自分にとっては、抵抗感は全く無かったです。