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勝手に目利き
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【新潮社】
古処誠二
定価1470円(税込)
2005/12
ISBN-4104629022
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  島田 美里
  評価:★★★★★
 凄惨な情景を思い浮かべるのが怖くて、今まで戦争モノは避けがちだったが、この作品には躊躇する間もなく引き込まれてしまった。それはきっと、民衆や下位の軍人といった立場の人々に視点を置いているからだと思う。もし、自分がこの場所にいたらと想像しながら読んでしまうのだ。
 昭和20年の沖縄が舞台であるが、かつて逃亡兵だった真市の回想という形を取ることで、何年経ってもぬぐい去れない恐ろしい記憶であることをほのめかしている。壕に取り残されて死んでいると思われる乳呑児を、本気で生きていると信じる母親も衝撃だったが、真市と負傷した少尉との出逢いも、色つきの夢のように鮮烈だった。国家に忠誠を誓う少尉と、軍人の思想とは相容れない真市との間に生まれる絆が、まるで命をつなぐわずかな食糧のように貴重に思えた。
 この物語が読者の心に残すのは、極限の状態でも変わらない人の信念なのだと思う。母は子を守ろうとし続け、少尉は最期まで軍人であり続けようとし続ける。そんな死の恐怖をも貫く強い想いが、本を閉じても流れ出てくるようだった。尊いけれど少し怖い。

  松本 かおり
  評価:★★★
 戦火の沖縄で生き残り、「艦砲の食い残し」として特別養護老人ホームで死を覚悟する佐敷真市。そこに届いた1通の手紙をきっかけに、沖縄戦の記憶が甦る。
 かつて逃亡兵であった真市が、我が子を案じる幼馴染み・チヨを連れ、砲弾飛び交うなかを故郷の村へと北上するさまにゾクゾクする。すさまじい戦時下の描写に、手紙の一文が重なり、現在と過去が交錯する一瞬の緊張感がたまらない。途中、重傷を負った少尉が執拗に真市にからみ始めるや、道程は一段とスリリングかつ不気味なものになる。
 それが終盤、残り三分の一あたりから急展開し、唖然。少尉と真市のやりとりは感動的ですらあるが、戦争の不条理は虚しすぎ、明らかになった事実はにわかには信じられない。
 まさか、まさか! 一挙にすべてが判明するため少々混乱、アタフタおろおろ。要所を再読してやっと納得。「遮断」の意味が、あとからじわじわ〜っと効いてくる。