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虹とクロエの物語
【河出書房新社】
星野智幸
定価1575円(税込)
2006/1
ISBN-4309017436
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★★
イメージがぐるぐる増幅する。とても眩しい小説だ。
登場人物は40歳になったかつての親友、虹子とクロエ(黒衣)。何だかうまくない状態。そして、クロエの胎児20年もの。胎児の父で無人島で滅びるために一人で生きる「ある一族」の末裔・ユウジ。虹子の周りで飛び回る5色のカラー虹子。……登場……人物?。
同窓会ですれ違った虹子とクロエは高校時代のように互いを求めていることを知る。サッカーボールを蹴りながら言葉を交わした河川敷の日々。2人の回想とクロエの体内で育つ子供の独り言で物語は進んでいく。ああ、象徴的な部分ばかり取り上げてもよく分からないですよね。でも話の筋はそんな感じなのです。問答無用の作者のイメージ力にひれ伏し、見せてくれる映像に時間を忘れる。
例えば、ユウジにはチューーッと相手のエキスを吸い取り「めくるめく共感共苦のワールドを作り上げていく」力がある。しかし無人島で自分を吸ってしまったことでどんどん透明化してしまう。これも一つの象徴。
そして「わたしは自分でありたい」と強く願う胎児に感動しました。
読後感:サッカーの中田英寿はこの時代に必ずいる象徴。
島田 美里
評価:★★★★★
まるで草いきれのように、生きている実感がむんむん漂ってくる物語だ。
40歳を迎える虹子と黒衣が過ごしてきた青春時代は、一言で言うと、濃い。若い頃の彼女たちの親密さは、もし異性同士なら愛し合っていたかも?と思わせる節があり、特殊な雰囲気さえ醸し出している。
ふたりの関係が読者に訴えかけてくるのは、友情というより、魂の響き合いだ。川原でただひたすらサッカーボールを蹴ることに夢中になっている情景が、トレーニングじゃなく、お互いの心を確かめるミーティングのようであることからもわかる。
この作品で重要なのは、彼女たちが疎遠になっていた20年間という空白の認知である。誰しも人生を振り返ると、過ごしてきた日々の輪郭が曖昧に見えることがある。彼女たちが音信不通だった年月もしかり。世間から隔離されて無人島で住んでいる青年や、黒衣の体内に20年間生息している生命体は、曖昧な日々の象徴のようでもある。
封印されてきた魂の叫びが解き放たれるのを眺めていると、それに呼応してこちらの気持ちもだんだんほどけてくる。生を謳歌する人の体温や体臭に包み込まれるようなこの読後感を忘れないでいたい。
松本 かおり
評価:★★
高校の同窓会を契機に、かつては親友でありながら20年間ものあいだ音信不通だったふたりの女性が、再会を試みる……。同窓会なんて一度も参加したことのない私には、ここからもうピンとこない。20年もたっているのに、今さらなんで会いたいのだろう。「会って自分をやり直したい」なんて、他人に期待しすぎの気もするが……。
わからないのが「胎児」と「ユウジ」。かれらはいったいなになのか。「胎児」クンなど20年も親のなかにいる、という。「吸血鬼」なんて言葉も出てくるし、本作品はもしかしたら、ぱっと見は女の生き方の物語でありながら、実はホラーだったりするのかも。
河川敷でのボール蹴りと島での合宿の思い出が、女性ふたりの拠りどころ。「比喩ではなく、球は言葉だった」「リフティングで即興詩を詠めた」。ボール蹴りは互いの心のやりとり。ベタベタしたつきあいとは違う方法で女同士の仲を表現した点は、新鮮。
佐久間 素子
評価:★★★★★
うわー変な本読んじゃった。私、どうしてこの物語をこんなに気にいったんだろう?と自問しても、しかとは説明できなくて、今、困っているところ。刺激されてしまっているのは、脳じゃなくて体なのかもしれない。人間の想像力は案外優秀で、ちゃんとした言葉を与えられれば、経験したことがない肉体感覚すら、こうして生々しく開かれるのだ。川原でサッカーボールを蹴り合うエクスタシー。妊娠二十年の胎児の欲求不満。自然の中での壮絶な一人体験。荒唐無稽な物語を、物語以上に昇華させているのは、おそらくこのリアルなのだろう。
虹子とクロエ、かつての親友の不在は二十年にわたってお互いの人生を「余生」にした。死んだように生きてきた二人が再会することで、彼女たちの人生は再び動き出すのか。無人島に幽閉された吸血鬼ユウジは、一体化したいという欲望から解放されるのか。依存関係からの脱出はかくも寂しく困難で、答えは示されないのにもかかわらず、あまりにも明るい希望の予感に胸がつまる。奇跡は誰にだっておこると信じたくなる。
延命 ゆり子
評価:★★★★★
有り体に言えば、女たちがかつての輝きを取り戻すための話だ。40歳で行き詰まりを感じていた虹子とクロエはやり直しをするため孤島に住むユウジに会いに行き、人生を振り返り始める。
ただそれがなぜこんなにも泣きたくなるのだろう。どうしてこの作者は男なのにこんなに私たちのことをわかっているのだろう。見てたのか。そこにいたのか。私は主人公の虹子とクロエに完璧にシンクロしてしまう。お互いの目を見るだけで何もかもを悪ノリで乗り越えられるような、男子に眉をひそめられながらも何をしても面白くて楽しくて仕方のない、最高の友人たち。虹子とクロエは、私だ。私の友人だ。隣のクラスのアイツだ。そしてつまらない大人もどきを演じている全ての人だ。
私はあまりにもソツなく生きてしまってる。日々を円滑に進めるためだけのくだらない技術を身につけすぎてしまってる。この小説は自分を再生するためのテキストだ。自分の中の神聖な部分を置き去りにして生きてきてしまった自分への警告だ。「わたしは自分でありたい」その一言に胸が、痛い。
新冨 麻衣子
評価:★★★★★
河原でサッカーボールを蹴り合うことが何よりも特別な時間だった二人の少女、虹子と黒衣。そして<吸血鬼>の血を残さないため、無人島に一人で暮らす少年・ユウジ。3人の鮮やかな想い出と、その二十年後が静かに描かれる。
この作品では人間関係における<依存>が赤裸々に浮かび上がってくる。精神的双子のような相互依存にあった虹子と黒江、そして<依存>を断ち切るための幽閉生活を送っていたにも関わらず二人に出会ったことによって<依存>に苦しめられることになるユウジ……。
時を経て、フリーズしたまま置き去りにしてしまった自分たちの中の一部を、再び救い上げようとするラストがとても素晴らしい。久々に出会えた、読み終えるのがもったいない切ない作品だった。
細野 淳
評価:★★
物語は、しょっぱなからから突っ走っている。何せ二十年、母親のお腹にいる胎児が呟いているところから始まるのだ。その胎児の母親こそが、一人の主人公、クロエであると言う設定。
クロエと、彼女の親友であった虹子。二人はかつて、サッカーボールを蹴り合うことで、言葉を使わずに対話をしていた。かつそのボールを操るレベルも、サッカー部員が仰天してしまうような、相当なレベルに達していたらしい。恐らく、マスコミになど報道されたら、間違いなくスーパー女子学生の称号が与えられているレベルだろう。
そこにさらに、もうひとつ重要な人物が出てくる。それがユウジなる、島流しされた吸血鬼男。クロエはその男と仲むつまじくなってしまい、それがクロエと虹子、二人の仲を引き裂く決定的な出来事となる。そして、ユウジとクロエが結ばれてできた結晶こそが、どうやら二十年間も母親のお腹にいる胎児らしいのだ。
……と色々と書いては見たけど、何が何だか、よくわかりません。はっきり言って、この奇抜すぎるストーリーについていくことができませんでした。作者の織り成す世界にはまり込むことができる人には、多分、相当面白く読める物語なのだろうけど…。自分にはどうやら無理だったみたいです。