年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
ページをめくれば
ページをめくれば
ゼナ・ヘンダースン(著)
【河出書房新社】
定価1995円(税込)
ISBN-4309621880
商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

清水 裕美子
  評価:★★★★

 子供の頃、我が家では「宇宙人居るか・居ないか論争」が起ったことがある。「いるに決まってる」と主張する子供達に「そんな事を言うなんておかしい」と怒る両親。大喧嘩勃発。そして、大人になったある日、母が電話を寄越して来た。「世界の子供の絵」展覧会で海外の子供が描いた宇宙人と一緒に遊ぶ絵があったのだそうだ。「お父さんと話したの。宇宙人だって居た方が楽しいって、そういうことだったのね。あの時はゴメンね。」20年経って謝られちゃって。そんな喧嘩の記憶よりも、宇宙人が居た方が楽しいんじゃないかと60歳過ぎて思いついた両親にホロッときた。
(本の筋とは離れたが)実際的な女教師のクラスにある日不思議な力を持った生徒が訪れる、そんな物語が11編。味わいは様々だが「忘れないで!」と記された帯に、絶対忘れないでいたいと心に刻むファンタジー。
読後感:自分の中に子供の心を探してみる

  島田 美里
  評価:★★★★

 教職を続けながら執筆していたという著者の経歴を見て、とても納得した。学校という舞台が多いせいもあるけれど、子どもを深く観察した人にしかわからないような、感受性豊かな世界が広がっているのだ。
 著者のメッセージは一貫している。それは、子どもならではの自由な発想を、大人になってもなくさないでほしいということ。おとぎ話を現実のことのように生徒たちに体感させようとする先生も、おとぎ話を真実だと信じ切ってしまう子どもも、著者の祈りを代弁しているみたいだ。
 11編の物語の中で、一番好きだったのが、「いちばん近い学校」。アザミのような紫の綿毛をむくむくにまとった異星人・ヴァニーを、すんなり受け入れる子どもたちが面白い。とんでもなくふわふわにふくらんで、恥ずかしそうにしているヴァニーも、気持ち悪いけどかわいい。そういえば子どもの頃、着ぐるみの人形の中には、人なんて入っているわけがないと、信じていたっけ。
 今こそ大人も理性を捨てて、想像力をむくむくとふくらませたい。

  松本 かおり
  評価:★★★★

 巻末の「解説」に「SF、ホラー、ファンタシー、ミステリとヴァラエティを心がけた」とあるとおり、収録全11篇すべて読み味が違い、なかなかオツな1冊だ。
 特に気に入ったのは3篇。「いちばん近い学校」では、新しい生徒を受け入れるにあたり、本人たちを前にして、先生や教育委員会関係者が動揺しまくる様子に大笑い。なんせビックリ新入生なのだが、コドモ同士の「神さまがこういうふうにお造りになったの」と互いの違いを認め合い、心触れ合う場面がとてもいい。「しーッ!」の主人公・病気がちのダビー君の想像力というか創造力の賜物「あいつ」は、「チュイーンしゅるしゅる」だの「ちゅぱっ」だの、あげくに「ずぞ、ずぞぞぞぞ」だの、気持ち悪い音のオンパレードでマジ怖い。読後はそれこそ、おぞぞぞっ。一方、心和むのが「小委員会」。やはりコドモの好奇心と順応力はたいしたもの。しかし、この物語では母親たちの賢さと勇気にも要注目だ。

  佐久間 素子
  評価:★★★★★

 著者の「ピープル」シリーズは、恩田陸が『光の帝国』でオマージュを捧げた作品である。後書きによれば、本書は再編集であるものの、未訳作品も多く、その中には「ピープル」シリーズ一編も含まれるとのこと。まさにファン待望。そして、未読の私もしっかり満足したと言い添えておかねばね。古き良きといいたくなる穏やかな筆致。多彩なストーリーテリング。期待どおりの温かさと、思いもかけぬ苦さに、心を揺らせてほしい。
 温かい作品を挙げる人は多いと思うので、私は苦い『おいで、ワゴン!』を。特殊な力を持っていても、違う星に生まれても、子どもはみな同じ。差異は大人が生むのだと考えていたであろう著者のデビュー作だ。少年の持つ不思議な力と、その消滅が、おじの目線から描かれている。少年の力を、子どもらしさと読みかえるのは簡単なこと。大人と子どもの間に立つおじがうそぶく、「おれは子どもが好きじゃない」という台詞が切ない。こぼれおちる愛情と畏れは、大人である私たちが子どもに対して感じる普遍的な気もちなのかも。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★★

 超能力、異星人、サイコキネシス……。SFの翻訳モノ。良くある題材。しかしSFの壮大さはなりをひそめ、悪く言えば小さくまとまっている。だが日常では決してありえない話なのに、徹底的に日常と密接に描くことによってその不思議さや恐怖は増大し、今までに読んだこともないハートウォーミングな話が生まれている。それがはっきり言ってめちゃめちゃおもろいのだ!
 侵略者である異星人とすぐに打ち解けてピクニックをする母親や、異性人である教え子に連れられて乗った空飛ぶ円盤にピーナッツバターを持参する先生。そのツッこみどころに溢れたとぼけた風味は作者が女性だからか、教師をしていたと言う経歴からか。異人に対するまなざしが非常に温かくて、これまでにないSFの風情を醸し出しているのである。
 また、ベッドの下にある異空間や、信じる力でいじめっ子を石に変えてしまう少女など、不可思議な現象とあまりにも普通すぎる日常とのマッチングが、えも言えぬ楽しさや、それと同時に怖ろしさも生み出していて、一話ごとにちがったテイストを楽しめるのがサイコー! オススメです。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★★

 一編一編、どきどきしながらページをめくった。だってこの短編集はフェミニンな視点が優しくて読み心地がとてもいいのだけど、安心して読むわけにはいかない。ハートウォーミングな物語の直後に、残酷なまでの哀しい物語もあったりして、まったく油断できない。でもどの短編にも共通してるのは、心揺すぶられるラストまでの、ページをめくる幸せ。
 ここに収められた短編はそのほとんどがSFだが、著者が教師だったからか、子供に関する作品が多いのが特徴。その中でも子供ならではの<信じる力>による不思議な現象を描いた「しーっ!」「信じる子」「おいで、ワゴン!」がとても好き。ノンSFだけど「先生、知ってる?」も悲しいラストが印象的だ。表題作も切ない余韻がたまらないし、男社会をストレートに皮肉った「小委員会」も予定調和ながらいい物語だと思う。ま、どれもこれも良かったって話ですよ。

  細野 淳
  評価:★★★

 本書の短編には、数多くの子供が登場する。大人たちから見れば子供って、時としてどこかで自分たちの理解を超えた、異邦人のような存在に映るときがある。事実、「忘れられないこと」「いちばん近い学校」「小委員会」などの短編に出てくる子供は、地球人ではない存在として描かれている。
 もちろん、出てくる子供が宇宙人ではなくても、子供の持つ大人とは少し違った価値観・世界観は、他の短編でも存分に生かされている。「しー!」に出てくるのは、両親の仲が上手くいっていない家庭の子供。その子供が、夫婦間のいざこざを逐次先生に報告してゆく。その報告の仕方が、無邪気で純粋なのだが、どこかで薄気味悪く感じてしまうものなのだ。この子供が、自分たちの理解できる範疇を超える存在であるような感覚が生まれてくる。
そして、そのような子供の世界、大人になるにつれて忘れていってしまう悲しみ・切なさを描いたのが、「ページをめくれば」。主人公は大人になっても、小学校時代の神秘的な記憶を胸に抱き続けているのに、周りはどんどんそれを忘れてしまっている。自分だけ取り残されてゆく孤独感と、その体験をいつまでも抱き続けていたい純粋さ。子供であり、かつ大人でありたい。そんな葛藤、体験したことある人は結構いるのではないのだろうか?