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勝手に目利き
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そろそろくる
そろそろくる
中島たい子(著)
【集英社】
定価1260円(税込)
ISBN-4087747999
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清水 裕美子
  評価:★★★★

 ケツメイシの『ドライブ』という曲に「機嫌のよい君と」というフレーズがあり、やっぱり彼女の機嫌のよさはデート成功の最大の鍵なんだと共感。中島たい子の新刊はその機嫌が最大に悪いところからスタート。イラストレーターの秀子がゆで卵の殻をうまくむけずに流しに叩きつける。そしてクッキー3袋一気食いと創作に行き詰まるツライ始まり。
 秀子の友人により、その症状はPMS(月経前症候群)ではないかという情報が入る。精神的症状と身体的症状。しかしこの物語は問題の原因を月経やホルモンのせいだけにするのではなく、その体のリズムや波と上手に付き合っていこうと賢い視点で見据えているのだ。そう、男性だって、ふと自宅から逆方向へ車を走らせたくなるような波が来ることもある。
 秀子がイラストレーターであることで創作意欲が沸く、反対に構想が全然ダメに思える、その振幅が興味深い。
併読に:『書きたがる脳』アリス・W・フラハティ著は作家が出産によって書けなくなる脳の話。

  島田 美里
  評価:★★★★

 前作『漢方小説』は、それこそ漢方薬の効き目みたいに、「わたし、ゆるやか〜に良くなってます!」という話だった。この作品もまた、心とからだの変調に悩む30代女性が主人公。
 甘いお菓子を一気食いし、突然号泣するイラストレーターの秀子は、PMS(月経前症候群)に悩む友人の話を聞いて、自分ももしやと考える。医者にも行かずに断定するのもどうかしているが、つきあい始めた年下の彼氏の「オレもPMSかも」というセリフには、ひっくり返りそうになった。あなたもわたしもPMS!って感じで、すべてPMSで片づけてしまっていいのか?と思わないでもなかった。だけど、症状に具体的な名称を与えることは、今までの自分を振り返るきっかけになるのかもしれない。好不調の波を自覚することで、周期的にネガティブになる気持ちが少しずつ矯正されていく様子にちょっと癒された。
 前作に比べて、恋愛や仕事が、さらに踏み込んで描かれているなあと思う。読後の余韻も、前作はゆるやかだったけれど、今回はしっかりと心に効きます。

  松本 かおり
  評価:★★★★★

 約140ページほどの短編だが、予想に反して強烈な読み応え。30歳過ぎの主人公「ヒデちゃん」の心境が、痛すぎるほど、息苦しくなるほど身につまされる。特に彼女が常に抱えている孤独感と無力感。「私は必要とされていないんだ、誰からも」「私は、なんでここにいるのだろう?」。ズコーンと落ち込んでいるとき、まったく同じことを考えるよ、私も。
 印象的な表現も多い。「大人になるほど色々なことができるようになるけれど、それを上手にできる人になれるかは、また別だ」。こんな一文にはジ〜ン……と慰められるし、「いつもと違う時は、誰にでもある。海だって、凪だったり、シケだったり。いつもの海、なんてものはない。どんな時も海は海」だなんて、考えてみればまさにそう。どんより曇っていた視界が一挙に晴れるような励まし感がある。場面転換のタイミングも巧く、展開てきぱき。ヒデちゃんの無器用な手探り状態の恋も、男女の相性の妙を思わせていい感じだ。

  佐久間 素子
  評価:★★★★

 「私に子宮が付いているというより、子宮に私が付いている、と言った方がよい」。そうだそうだまったくだとため息が出る。結局のところ、ひとつきのうち四分の一程度は、体なり心なりが女性ホルモンの影響下にあるわけだ。うすうす気づいていたけれど、PMSという症状を知ったときは呆れたもの。それがホルモンの仕業だというのならば、感情や性格って一体なんなの、と。
 PMS=月経前症候群。生理前の、眠かったりお腹がすいたり怒りっぽかったり寂しかったりする症状をいう。最近は雑誌でもよくみかけるけれど、さすがに小説では初めて目にした。体がテーマの小説はエキセントリックなものが多い気がするし、本書のような等身大感覚はけっこう新鮮だ。穴場的存在かも。調子が悪いのも日常であるのならば、折り合いをつけて生きていくしかないのだと、すとんと腑に落ちる。ゆらゆら揺れる体がちょっと愛しく思えてきたり。実用的な効能がちゃんとある一冊だ。そして、後学のために、とりあえず男子も読んどけ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★

 わかる……。わかるよ……。ええ、わかりますとも!
 何がって、生理始まる前の辛さ。生理前のあの、頭が痛くて熱っぽくて、だるくてだるくて眠くて。不機嫌で、なぜか悲しくて。あまりおおっぴらに言えることではないけれど、ある種の女子は毎月、「なんでこんなもんを抱えて生きていかなきゃいけないんだおおー!」とのたうちまわっているのれす。女子同士でこの会話をすると異様に盛り上がる、それが生理前のこの現象。
 それが、PMS(月経前症候群)なるものが原因だったとは! 知らなんだ。このイライラに名前が付けられていたということだけでこの主人公のように安心する。そして主人公と一緒にPMSと折り合いをつけていくちょっと不思議な彼が素敵すぎる。
 妊娠小説というのを斎藤美奈子女史が上梓されていましたが、これはいわば初めての生理小説(たぶん)。よくぞ描いてくれました! PMSとは何かを知る、最適の書。生理にまつわる不快感をお持ちの女性、そして彼女がなぜ情緒不安定なのかを知りたい男性、必読。

  新冨 麻衣子
  評価:★★

 三十歳を過ぎたイラストレーターの主人公は、あまりに不安定な自分の精神状態がPMS(生理の前に身体や精神が不安定になる症状)であると知るのだが……。
 細かな描写がリアルで、文章も上手い。小学校の時のエピソードもいいし。
 でもね、だから何だ? という読後感。だって話はひたすら主人公がPMSに向かいあうことに終始してるんだもの。この小説は何を伝えたいのかがわからなかった。まさか「いつもと違う時は、誰にでもある」という一文じゃないだろうね。それは……知ってる。
 さらさらと読めるんだけど、う〜ん、身体に関する悩みはパーソナルすぎて小説のテーマにするにはちょっとむずかしいんじゃないだろうか。自分も経験したことじゃないと、共感は出来ないからねぇ。

  細野 淳
  評価:★★★

 いきなり、ゆで玉子を叩きつけたり、クッキーを次から次へと食べ出したりと、何だか主人公は随分と荒れているような感じを受ける。おまけに、翌日になると前日に自分がどれだけ暴れたのか、よく理解できないでいるのだ。このような心境って、一体どのようなものなのだろう。
 主人公のこのような発作は、どうやらPMSというものらしい。生理の前に、女性が精神的に不安定な状態になってしまうことを言うのだという。自分は男なので、もちろん生理に伴う精神的な変化と言うのは直接的なものとしては良く分からない。でも、やっぱり不安定になってしまう人はそうなんだろうなー、という感じで、なんだか納得してしまいそうな、でもどこかで今一分からないような……そんな気持ちで、読み進めていった物語。