年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
ミス・ジャッジ
ミス・ジャッジ
堂場駿一(著)
【実業之日本社】
定価1785円(税込)
ISBN-4408534889
商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  島田 美里
  評価:★★★

 野球のピッチャーが表紙で、タイトルはミス・ジャッジとくれば、野球好きは黙っちゃいない。テレビ中継を見ながら「今のはストライクやろ」と、ついツッコミを入れてしまったり、WBCの疑惑判定に噴火した人は、日ごろの疑問を一刀両断にしてくれると期待するだろう。でも、中身はちょっと違った。
 野球の醍醐味というよりは、男同士の確執の物語だった。ボストン・レッドソックスに移籍したばかりの投手・橘は、ヤンキースとの開幕戦で、誰が見てもストライクと思われる投球をボールと判定されるのだが、そのジャッジを下したのがメジャー初の日本人審判・竹本。高校時代からの先輩と後輩であるふたりの暗い過去は、何だか湿っぽい気分にさせる。
 ただ、メジャーのベテラン審判・ハートマンの存在は渋かった。日本人俳優でいうと、いかりや長介がやりそうな役柄だ。「おめえさんはよ」とでもいいながら若者に苦言を呈しそうな雰囲気がぷんぷん漂っている。日本人同士の確執は横に置いといて、試合の臨場感と、メジャーを知り尽くした男の語りを全開にしてくれたら、野球好きの血が騒いだはずなのに。

  松本 かおり
  評価:★★★★

 歯切れのいい文体は私好みだし、MLBの裏を覗き見るようでゾクゾクした。主人公「レッドソックス」ピッチャー橘と審判・竹本の、10年以上に及ぶ先輩・後輩の確執が生々しく胸に迫る。たった1球、突然の「ボール」宣告の根底にあるのは怨恨か、否か。「グラウンドに出てしまえばすべてを支配するのは俺なのだ。『退場』を言う権利を持っているというだけで、審判は野球における全能の神になれる」。くくぅ〜、この竹本の傲慢さ、憎たらしいっ。火花散る男のメンツ対決、橘を応援せずにいられようか!
 勢いにのって終盤近くまで一気に読んだが、なんと、ここでテンション急降下の思わぬ展開。橘が、なにやらふらふらとイイコちゃんになっていくのが、とにかく惜しいっ! 竹本のただならぬ過去が明らかになり、おおっ?!と盛り上がってきたところで、そりゃないよ。橘にはもっと徹底的に突き進んでもらい、スカッとした読後感に浸りたいところ。

  延命 ゆり子
  評価:★★★

 大リーグを舞台に日本人投手の橘と日本人審判の竹本の、二人の男をめぐる因縁と確執のストーリー。
 多くの人の夢と希望に溢れた大リーグ。歴史あるレッドソックス。明るくて誇らしげな大リーガーたち。そんな明るいイメージからは程遠いこの二人の陰湿さにはじめ戸惑う。弱気で悲観的なスパイラルにいつも陥ってしまうピッチャーの橘。……この人、悪夢がよぎりすぎです。そして大事な場面で必ずブチギレます。その後はいつまでもウジウジウジウジ……。こんな大リーガーは嫌だ!
 対するは、かつての天才ピッチャー竹本。故障した後審判に転向し、大リーグで審判するほどに上り詰めた頑固、冷徹、非情な男。なにせキャッチャーが捕球した後に少しストライクゾーンにミットを動かしたときには、必ずボールの判定をするというツワモノだ。「審判は神だ」と言い切って。そんな審判、クビじゃなかろうか。
 試合の描写はとにかく面白く、配給の組み立て方、緻密なフォーム、チームの雰囲気作り、臨場感があってワクワクする。なのに、この二人の陰湿な性質とリアリティのなさに悶々としてしまう。非常にストレスを感じた小説なのでした。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★

アメリカのレッドソックスに移籍したピッチャー・橘は、日本で行なわれたヤンキースとの開幕戦で、意外な人物と出会う。それは学生時代の先輩で、肩を壊した天才ピッチャー・竹本。行方知れずだった彼はアメリカで修行を積み、日本人初のメジャーリーグの審判となっていたのだ。十年前の確執を思い出し、不安を覚える橘だったが……。
 原因がわからぬままマウンドでの違和感を払拭できず、結果的にチームメイトとの空気も悪くしてしまう橘。なぜ自分が…という気持ちを捨てきれずに、強気なジャッジを繰り返し、批判を浴びる竹本。再会の<ミス・ジャッジ>が二人の男を苦しめる、その人間ドラマがたまらない。ちょっと重い内容ではあるのだけど、プレーオフに向けてチームがまとまっていくあたりは読んでいて楽しいし、試合中の描写も緊張感溢れてて引き込まれる。
 そして竹本をたんなる悪役に仕立てないあたりがいい。竹本の心に根ざす深い闇、そして橘のしたたかさがきっちり描かれてるからこそ、この物語は読み応えがある。

  細野 淳
  評価:★★★★★

 映画かテレビドラマを見ているような感じで読むことができた。是非とも映像化して欲しい作品だ。
 物語の舞台は大リーグ。レッドソックスの一員になった橘由樹は、日本で行われた大リーグの試合で、運命的な再開を果たす。その人物こそが、大リーグの審判を務める竹本速人。竹本と橘は、高校・大学の時に、先輩・後輩の間柄であったのだ。そして橘が大リーグで初めて登板した試合で、主審をしていた竹本は、橘の投げた微妙な球に、「ボール」の判定を下す。その判定を橘は長く引きずることになり、何だかパッとしない気持ちのまま、大リーグでのマウンドに立ち続けることになる。
 物語を読み進めていくにつれて徐々に明らかになってくる、橘と竹本の二人の間の過去の微妙な関係。また、再開するまでの間にそれぞれの歩んできた道のり。ピッチャーと主審という、試合中に常に向き合っている人間たち。奇妙な絆で結ばれているその二人の生き様を、とくと堪能して欲しい。