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魔岩伝説
魔岩伝説
【祥伝社文庫】 
荒山徹 (著)
定価780円(税込)
ISBN-4396332858
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  久々湊 恵美
  評価:★★★

 いやあ、あまりの荒唐無稽さに、驚いてしまいました。
ヘビ人間は泳いでくるわ、トラに変身しちゃうわで、これは伝奇ではあるけれど歴史小説でもあった、よね?とまじまじと最初のほうを読み返してみたり。
伝奇小説って、もっとおどろおどろな世界を想像していたのですが、本書はどっちかというと軽い感じ。
まっとうなヒーロー物のお話を読んでいるような気にさえなってきました。ヒロインだって出てくるし。
ただ、そういう印象があるからか、大人が読むものというより、もっと対象年齢が低くてもいいんじゃあないかって気がしたかも。
歴史背景もとてもしっかりとしていて、すごく練られたつくりだと思ったのでもうちょっと大人のつくりでもいいんじゃあないかって途中思ったりもしたのですが、このきちんとした下調べの上での軸と、思い切りハメをはずした展開がこの作者の面白さなのかもしれません。
そのくらい、どこまでも跳んでいく面白さ。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★

 先月の課題図書「ジャンヌ・ダルクまたはロメ」について、“佐藤賢一という作家は、多くの歴史小説家がやっているであろう史実に虚構を少々織り交ぜて書くという方法を一歩進めて、いくつかの史実から導き出された推論によって物語を構築するという自由かつ大胆な方法をとる書き手である。このような作家は他にもいるのだろうか?”と書いたのだが、いましたね、ここに。自らの不明を恥じるばかりである。
 しかしながらおふたりの作風はかなり違ってもいる。佐藤さんの作品は「文学」の香りがするのに対して、荒山さんのは間違いなく「エンタメ」寄りという感じ(別に「文学」の方が「エンタメ」より偉いと言っているわけではありませんが)。柳生一族が出てくるってだけでもう、娯楽大作というイメージだし。
 とにもかくにも、これだけ濃い内容をきちんと収拾されるお手際、見事でした。

  島村 真理
  評価:★★★★

 五十年ぶりに復活する朝鮮通信使の秘密をめぐり、日本と朝鮮をまたにかけた壮絶な活劇が始まるのです!と、大声で宣伝したくなるほどめまぐるしいアクション時代劇。なぜ朝鮮から女の忍者が現れたのか、なぜ朝鮮通信使に秘密があるのか、なぜなぜが噴出してナンダナンダコレハと油断ならない。難しい漢字が多くてくじけそうになるけれど(江戸の役職に人名に朝鮮名も絡んで!!!)それでも先を読みたくなる話でした。
 徳川家康と朝鮮との関わりが、単なる奇想天外な面白さだけでなく歴史的な設定もしっかりしていてぐいぐい引き込まれる。もちろん、ロマンスもあるし、遠山景元と柳生卍兵衛とのライバル関係も見逃せない。奇天烈な妖術合戦はこんなのもありなのかと驚きでしたが。最後の最後にあかされる後日譚も憎い。
 なんといっても卍兵衛のキャラクターが印象的です。景元ともう一度手合わせしたくて朝鮮まで追いかけていく(父親の命でもあるけれど)ところが、なんとなく「ルパン三世」の銭形警部を髣髴とさせるんですね。敵だけど憎めないのねとっつぁあん(笑)

  荒木 一人
  評価:★★★★★

 傑作!痛快!奇想天外! 日本と朝鮮に跨った時代伝奇。一見、歴史小説の様相だが、冒険譚である。難点は、人名・地名が若干読みにくい事。がぁ、それを補って余りあるテンポの良さが有る。一息で読め、掛け値無しで面白い。
 時代は、徳川幕府二百年の泰平の世。五十年前に亡くなっている対馬藩士・鈴木伝蔵を名乗る人物をきっかけに事件は起こる。そして、不思議な制度、朝鮮通信使を巡り、話は迷走を始める。主人公は、十九歳の遠山景元。刺客は、柳生新陰流の使い手、隻眼の柳生卍兵衛。舞台は海を越え、技は人智を越える。舞台も事態も、二転三転する。
 時代背景等の知識は、全く必要ない。必要な背景は、必要な分だけ本文で面白く記されており、時代小説を食わず嫌いの方々も、お勧めである。
「魔岩伝説」……題名が、あまりに陳腐で平凡なので全く期待せず読んだが、良い意味で裏切られた。表題さえ工夫すればもっと売れるのでは無いだろうか。

  水野 裕明
  評価:★★★

なんと北町奉行、遠山の金さんの背中の彫り物は韓国・済州島に伝わる耽羅忍法を受け継ぐ者に彫られたものだ、という荒唐無稽な話を始め、様々な奇想を歴史の史実と上手く組み合わせた、新しい伝奇小説。とてもありそうにないのに、読んでいて楽しい作品。山田風太郎の忍法帖シリーズと正統歴史小説が一緒に楽しめた。ただちょっと残念なことは、伝奇的な部分と歴史小説の部分がかなりはっきり分かれていて、その分、読んでいて興ざめさせられる所も少しあった。もっと奇想と歴史が渾然一体となっていると、いかにも本当らしくもっと楽しかったのだが、と思うのは読み手の贅沢であろうか。とまれ、今まであまり小説として取り上げられなかった韓国の歴史や、戦国時代の日韓関係等が分かりやすく読めて、一石三鳥の久々に楽しめた伝奇小説の新作であった。