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権現の踊り子
権現の踊り子
【講談社文庫】
町田康 (著)
定価580円(税込)
ISBN-4062753510
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  久々湊 恵美
  評価:★★★★

町田康の醍醐味は、頭の中で音が奏でられるような小気味のよい言葉の使い方だなあ、と今まで何冊か読んできて思っています。
個人的な話になってしまうけれど、私はこの著者の本を読むときにお酒を飲みながら読むのが好きなのです。
ちょっとほろ酔いな頭で読んでいると、言葉と音に揉まれるような気がして。
本作もその作風は相変わらず。十分に楽しみました。
『ふくみ笑い』が、なんといっても面白かった。ちょっと世界がずれていって、混乱していく様は、本当愉快なのです。
それでいて、その裏側に見え隠れしながら潜んでいるものを目の当たりにしたときドキッとさせられてしまうのです。
ただ以前よりも、とんでもないところに連れて行かれてしまうワクワク感が少なくなってしまったような。
文体が平たくなって読みやすさは増したのだけれど。
うーん、でも。もっとかけぬけて欲しかったなあ、というのも期待しすぎで贅沢な感想。

  松井 ゆかり
  評価:★★★

 ミュージシャン出身。イカしたルックス。あふれる才能。昔は町田町蔵という名前だった。ま、最後に挙げたのはあんまり関係ないが、この男ををかっこいいと言わずして誰をかっこいいというのかとでもいうべき作家町田康はしかし、私にとっては長いこと鬼門であった。なんというか文章のリズムに乗れないのだ。小説じゃない方が入りやすいのかもと読んでみたエッセイも、ほんとのことなんだか妄想なんだかわからない文章の連なりで煙に巻かれた。
 さて、この「権現の踊り子」は短編集ということで、いきなり長編を読破しようと鼻息を荒くするよりは町田康入門編によろしいかもしれない。が、やっぱり不条理さは変わらないのであった。うーん、なんかこんな世の中になったら嫌だな。まして、ラジオから「コックピットのふのり」(収録作品「ふくみ笑い」より)などという曲が流れてくる世界なんて。

  西谷 昌子
  評価:★★★★★

 町田康の小説を読むと、真夏日の炎天下、道に迷っているような気分になる。頭がぼんやりして思考が空回りし、周囲から聞こえてくる会話はリズムと不快なニュアンスが強調される。パニックになっている頭がふいに悲しい思い出を引っ張り出してくる……。町田康はそんな気持ちにさせてくれる。この短編集所収の「ふくみ笑い」はその最たるものだ。自分と世界とのわずかなズレ、軋みがしだいに大きくなっていく恐怖感。自分ひとりがズレていき、他の人間はなにごともなくリズムにのっているのに、理解できないでいらだつ気持ち。私は方向音痴でよく道に迷うのだが、そんな時、世界から取り残される不安感がひゅっと襲ってくる。そのくせ、何かにいらだっている。そんな気持ち悪さを表現してくれるのは町田康くらいだ。
 表題作は、敗北感あふれる祭りの様子になぜかせつなさを感じた。全体を通じて、透徹な青さが根底に流れているように思う。美しい物語にはなりえない世界と、自分の青さとの折り合いがつかない哀しさ。そんな感覚を味わわせてくれる。

  島村 真理
  評価:★★★

 町田康は初体験でした。キョウレツだ。
 ずいぶんとポップでロックではちゃめちゃな世界観をお持ちの方ですね。軽くてテンポのいい文体は好きです。
 六編の短篇が収められています。なかでも「ふくみ笑い」、「逆水戸」が面白かった。
 しかし、注意も必要です。疲れたときや不安なときはこの本をオススメしません。だって、読了後から、ついつい周りがふくみ笑いをしているんじゃないかと心配になりました。もしふくみ笑いを発見しても印籠だす勇気もないし。もともと持ってないし。だからもしふくみ笑いされても、”ヒコーキノッタラ オレ、シンジャウヨ。オレ、シンジャウヨ。”という節つきの呪文を唱えつつ忘れようと思ったから……。
 読んだら無意識に足をとられる小説。ときどきどっぷりと浸かりたい気もする。怖いけれども楽しいような。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★

 不思議に思うのは、その異様な読みやすさだ(まあ相性によってはそうでない、逆に読みにくくてしょうがない方もおられようが)。読みやすいとは、表現が平易であるとか、意識のどこにもひっかかるところがない、などということでは全くない。とにかく一つのセンテンスがいかに長かろうが、つるつるとうどんが滑り込むように活字が脳の中に入ってくるのである。つまり、文章のリズムと、こちらが読み進めていくリズムとが非常にたやすくシンクロするのだ。それは無論、読み手の私ではなく、文体のもつ力だ。所謂町田文体である。読んでるうちにドーパミンがとろとろと出てきて、ちょっとトランス状態になる。言うなれば生理的文体であるともいえる。まあ今更こんなこと書かなくたって、この作者の文体の魅力については、多くの方が先刻ご承知のことではあろうけれど。
 この作品集は著者初の短編集である。作者の他の多くの作品同様、本作品集も、哄笑、脱力、焦燥、唖然呆然、シュールな笑いに満ち満ちた町田ワールドを形成している。リズムに乗ってぐるぐると、迷宮一気巡りをお楽しみあれ。

  荒木 一人
  評価:★★

 第123回(平成12年上半期)芥川賞受賞作家。著者初の短編集。川端康成賞受賞作。純文学なのだろうが、何故かにやりとしてしまう。そんな作家。全部で240ページ程の薄い本に、短編が六作品なので、ちょっとした空き時間にさっくり読めてしまう。只、文体が一定していないので、嫌う人も居るかも知れない。後、関西弁が嫌いな方も苦手かも。
「権現の踊り子」は、管理人室に居座っている、おばはんに唆され権現に参りに行ってみたが。祭りと市は、来週からだった。そこで主催者の男に出店の味見に誘われて…
「逆水戸」は、水戸黄門をベースにしてるのだが、この黄門様御一行全くもって健全じゃなかったり、結末は… 水戸黄門ファンからは苦情が来ること請け合い。
 嫌いじゃ無いのだが、うーん、話の顛末が見えない。著者の言いたい事を全く汲み取れて無い気がする。ちょっと、シニカル。非常に、評価しにくい一冊。