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勝手に目利き
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文庫本班
ダーク(上下)
ダーク(上下)
【講談社文庫】 
桐野夏生 (著)
定価580円(上)/600円(下)
ISBN-4062753855
ISBN-4062753863
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  久々湊 恵美
  評価:★★★

もう、主人公ミロがとってもワガママです。
ワガママに自分の道を突き通すものだから、周りの人間は振り回されっぱなし。でもそこがなんだか潔くって好感を持った。
本当に逃げ切れるのか、最後までハラハラのし通し。こういうぶっ飛んだ女の人好きだなあ。
主人公だけではなく、それぞれの登場人物が抱えている闇、欲とエゴが噴出しまくっていて、そこが魅力的でした。
まさに、『ダーク』といった感じのストーリー。
このシリーズで他の作品を読んだ事がないため、多数登場し絡み合っていく人物達がミロとどういう関係であるのかは、具体的にはわかってはいません。
なにしろ本書での知識しかなかったのです。
ただ、いきなりこの作品を読んでもわけがわからなくなるってことはありませんでした。
ただ、前作を読んでからの方が、楽しめるかな?きっと楽しめるのでしょう。
今作品で、終了。というわけではないようなので、続きがいったいどんな展開になっていくのか、楽しみであります。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★

 桐野夏生は少女マンガだ、と言ったら熱心なファンの方々はお怒りになるだろうか。確かに桐野作品には、ヤクザだのクスリだの殺人だの、正統派少女マンガにはふさわしくないアイテムがてんこ盛りである。しかし、主人公(あるいは準主役とか重要な脇役とか)はいつでも運命の相手と愛し愛されることを願っているではないか。
 この小説の主人公村野ミロもそうだ。出所を待ち続けていた男が獄中自殺していたことを知って激情に駆られ、その事実を隠していた義父を見殺しにした。愛人契約を結んだ男と真実の恋に落ちた。そして、ミロをかばって撃たれたその男の心には、下半身の自由を失ったことによってより深くミロを愛し守らねばという思いが生まれたのだ…。
 どこまで堕ちても、永遠に変わらぬ愛を求めてしまう。絶望の底に沈みながらも希望を見出そうとするミロたちの姿に、(決して全面的に共感するものではないが)幸あれと願わずにいられなかった。

  西谷 昌子
  評価:★★★★★

 桐野夏生の描く女性に、私はどうしても憧れてしまう。地を這うような迫力としたたかさ、荒々しさ。これを「新しい女性」などとは呼びたくない。古い女性像、新しい女性像という問題ではないからだ。彼女たちは「像」などというものをはねつけるだろう。時には「○○な女性像」といったものを利用するだろう。そんな生々しさと生命力がこの物語全体を引っ張っている。
 桐野夏生の巧みなところは、政治的な事象――徐の体験した光州事件など――を俯瞰して書かず、あくまでも登場人物のなまの体験から描くところだ。誰と誰が争って、何百人に被害が出たかということよりも、追われて逃げ込んだ家の女の流し目のほうが、ずっと様子を物語るということがわかる。『ダーク』でも存分に発揮されたその生々しさが、ぐいぐい読ませる。

  島村 真理
  評価:★★★

 クールでかっこよかったミロの変貌ぶりに、周りから失望と怒りの声を聞いていた作品。これでもか!!!!というほどの堕落と嫌悪感はあふれています。まるで心臓をわしづかみにされたような恐怖を感じなくもない。
 でも、私としてはミロの心地いいほどの悪人ぶりが意外に気に入りました。そして、隣人のトモさんの変貌……。義父、村善の愛人の憎しみぶりも強烈。そのなかで、どんなに堕ちようとも運命に翻弄されようとも人を不幸にしようとも消えないミロの魅力というものをひしひしと感じました。どこまでも強い女だ。卑しさと裏切りにまみれた他の登場人物との対比も効いている。汚れても光るというのでしょうか。
 ミロシリーズは非常に気に入っていましたが、ここまで変わるんですね。人の汚い部分をいやでもみせつけられる、そこが桐野さんの作品の魅力だと思ってますが、でも暗い。気が滅入ります。男のハードボイルドよりも女のハードボイルドは生々しいし痛々しい。同性だからよけいにそう感じるのでしょうか?

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★★

 探偵・村野ミロシリーズの最新刊である。シリーズの諸作を未読の方は、できれば本作の前にそれらを読んでおかれることをお勧めする。
 それにしても本作でミロがヒールへと急激に変貌してゆくさまには言葉を失う。ヒロインがここまで毀れてしまう物語がかつてあっただろうか。シリーズの他の作品では非常に魅力的だったサブキャラの、あまりに無残な落魄ぶりにも驚かされる。一方、ミロの養父の愛人が重要な役割で登場するが、これがまた凄まじくグロテスクなキャラだ。してみると確かに、タイトルに違わない暗澹たる作品だ。だがそればかりではない。これはシリーズの中でも最高にエロティックでありロマンティックな、それこそ鳥肌の立つような究極の恋愛小説なのだ。
 もともとミロは愛を渇望しつつ生きる女だ。それなのにシリーズ諸作を通して、彼女を愛した男たちは、そのほとんどが破滅の淵へと追いやられてゆく。決してミロが魔性の女ということではない。結局、男たちはその精神の弱さゆえに自滅してゆくのだ。だが作者は本作で、ようやくミロとつりあう強さを持つと思われる男を登場させた。それでも作者の筆は仮借ない。その男を待つ運命は過酷だ。自滅する方がはるかに楽なのだ。

  荒木 一人
  評価:★★

 警告:この本を単独で読むのは、全くと言って良い程、意味が無い。探偵ミロ・シリーズ第一作「顔に降りかかる雨」の後日談として「ダーク」があるので注意して欲しい。
 剥き出しの感情をぶつけられる様な物語。救い様が無い登場人物達。見たくも無い人間のエゴをこれでもかと、見せつけられる。人は蠱るのか?それとも、生来が悪なのか……
 始まりは、嶮隘なる人生の渓谷へ誘う一枚の葉書。蠢動する主人公:村野ミロ。己の愛憎の念にのみ従い、只々、跳梁し、跋扈し、そして堕獄する。愛憎?嫉妬?嫌悪?ミロ自身でさえ理解出来ない感情で、次々と衝動を起こす。ミロの行動に巻き込まれる人々。偶然愛した男でさえ躄る運命が待ち受けている。希望というモノが無い状態でも、人は生きていけるのだろうか。
 私が失敗したのは順番「ダーク」→「顔に…」→「ダーク」と読んでしまった。先に嫌悪感を持ち次作を読む感想と、好感を持ち次作を読む感想は、きっと違うのだろう。
そう、取り返しのつかないことはある。些細な事でもね。(苦笑)

  水野 裕明
  評価:★

ただただ怒りと憎しみが生み出した凄まじい悪意を、圧倒的な迫力で描いた作品……その悪意があまりにも凄すぎて、本来であるならエンターテインメントと呼べるであろうが、個人的に楽しめず、アンチ・エンターテインメントと感じてしまった。主人公の女性ミロも、その彼女を追うやくざも、ミロの義理の父の愛人も、憎しみと怒りにさいなまれ、しかもそれが誰かあるいは社会や権力など具体的な何かに向けられたものではない所に、救いがなく読んでいて疲れる原因があるのだろうと思われた。解説にも「単行本発刊当時、ミロ・シリーズ愛読者たちはこの作品に当惑し、激怒した方もいたと仄聞している」とあった。当然だと思う。良い側にいたミロが豹変したからミロのファンが怒ったのもあるだろうが、それだけではなく、おそらく彼女の憎悪や怒りを理解できないことが、愛読者を当惑させたのだろうと思う。エンターテインメントとして圧倒的な「悪」を描くことは物語として成立しても、自身を燃やし尽くさずにはおれない憎悪や悪意には共感できないのではないだろうか。