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勝手に目利き
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チョコレートコスモス
「チョコレートコスモス」
【毎日新聞社】
恩田陸(著)
定価1680円(税込)
2006年3月
ISBN-462010700X
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清水 裕美子
  評価:★★★★

 芝居は「事件」、共有される「体験」。なんと芝居の魅力を言い当てているのでしょう。
 物語は『チョコレート・コスモス』という未だ脚本が書かれていない芝居について。これから上演されるこの芝居の主演女優のオーディションが開催される。火花を散らす名女優の中で光るのは、大学の演劇サークルで一度の舞台経験しかない若い女性・飛鳥。天才なのか偶然なのか? 見る者の判断を迷わす飛鳥の演技。
 命じられた課題は「2人しか役者の登場しない3人芝居」に「1人芝居を演じるライバル女優の"影"となること」。芸能一家に育った響子は、この1人芝居の相手役を務めながらいつしか芝居の向こうにある高みにたどり着く。どっかで見たことあるような話? そうです『ガラスの仮面』です。熱気もテンションも最高。試験前夜に読み耽りたくなる逃避先としても超一流。オーディションはいいから、その芝居を見せてくれ! そう叫びたい所まで同じです。演劇好きには堪らない、『ガラスの仮面』好きにはもっと堪らない一冊。
 読後感:早く下山に降りて来て続きを!(そう叫びたいところも似てる?)

  島田 美里
  評価:★★★★★

 ある舞台で主演の女優が、まるでそこが山であるかのように、客席の間の階段を一歩一歩踏みしめながら登っていく姿を見たことがある。その女優の目を客席から覗いたが、私たちが見ているものは全く別の世界を見ているのだと直感で思った。劇場の後部扉は、きっと山の頂上だったに違いない。
 そんな風に、何でもない空気に、一瞬にして色をつけることができる演劇の魅力を、小説家である著者が、演出家のような説得力で描いた作品だ。芸能一家に育った実力派女優や、初心者だが天才肌の女子大生など、演劇に携わる者たちの人生がパラレルに描かれるが、圧巻なのはクライマックス。ある劇場のこけら落とし公演のオーディションで、女優たちの人生が交差し、火花を散らすのだ。演出家の難題に彼女たちが挑戦する場面では、実際に舞台を見に行って体感しないとわからないような気迫が伝わってきた。
 限りなく異次元の世界だけれど、超常現象じゃないところがいい。現実の世界にとどまっている話だからこそ、読者もそこにいけるかもしれないという期待感で、物語を近くに感じられるのだと思う。

  松本 かおり
  評価:★★

 脚本家・神谷。超絶物真似上手の娘。若手女優の響子。伝説の映画プロデューサー・芹澤が仕掛けるオーディション。哀しいかな、のっけから結末がスケスケ。う〜ん……、興醒め。続くはお決まりの展開でまた残念。オーディションでのオンナの戦い、ライバルへの嫉妬、芝居に対する迷いや悩みなど、芸能モノにつきものの内容で、新鮮味はいまひとつ。何かといえば「オーラ」が出てくるのもくどい。 
 芝居見物では観客にも「舞台の上で起きている世界を信じ、舞台の上で役者が演じていることを信じる演技」が求められるとか。これ、本書を読む上でも必須とみた。芝居の描写がどんなに説明的で単調、退屈であろうと、登場人物が「凄い」「さすが」と絶賛していれば<そういう場面なんだっ!>と信じること。うるさい演技解説も<なるほどなあ〜>と黙って拝聴すること。そうでもしないとついていけない。やっとれんわ、ホンマ。

  佐久間 素子
  評価:★★★★★

 もう、これだけ楽しませてもらったら言うことはないよ。参りました。著者の作品は過程こそが楽しく、結末が呆気ない印象のものが多いと常々思っているのだが、本作に関しては、その不満はまるでなし。『ガラスの仮面』はまさにうってつけの素材だったわけだ。 心おきなく、あとこれだけのページ数で、どうやって収拾をつけるつもりなの!とやきもきしてください。
 入団テスト、公演、あるいはオーディションという形で与えられる課題を、天才少女が、実力派女優が、新人女優がどう演じるか。本書はこのくり返しでなりたつ。風になれ。三人の人物で成り立つ話を二人で演じろ。課題が難しければなおのこと、観客の興奮は高まる。想像をこえた回答だけが、舞台という小さい空間に、ないはずの世界を作り出すのだから。演技という回答は技術であり、感性であり、知性である。私たち一般人は、その力を借りて、やっと別世界の入り口をのぞくことができるのだ。演劇という表現を、小説という別の表現で、小説でしかできない表現で、作りあげてしまった著者の筆力に改めて感服。

  延命 ゆり子
  評価:★★★★★

 演劇の奥深さと果てしない面白さに飲み込まれる二人の少女。そのあらすじだけでかの名作を思い出さずにはいられない。それは……泣く子も黙る名作漫画『ガラスの仮面』。
 ごく平凡な容姿だけれど舞台の上では類まれなる才能を発揮する演技の天才飛鳥は北島マヤだし、役者一家に育ち容姿にも才能にも恵まれている響子は姫川亜弓だ。エピソードもオーディションの内容もエチュードもガラスの仮面と似通った設定にしたのはさすがの恩田陸、確信犯であろう。
 これは漫画界への殴り込みなのか。恩田陸が小説という手法を武器に漫画界に真っ向勝負で挑んでいるように見える。小説VS漫画。無謀にも思えるその取り組みは、二人の少女の戦いにも似て、手に汗握る。響子が深遠なる演劇のとばくちに立ち、思わず自分の想像で生み出したヒナギクに触れてしまう場面……。飛鳥に演技に対する押さえきれない渇望が生まれた瞬間……。二人の少女が演劇の魅力に絡め取られていくところでは読んでいるこちらまでゾクゾクしてしまう。……うん、負けてない。がぶり四つだ。恩田陸……怖ろしい子!! (←言いたかっただけです)。『ガラかめ』を読んでいる人なら必ずや楽しめることを保障します。

  新冨 麻衣子
  評価:★★★★

 恩田版『ガラかめ』が面白くないわけないでしょ! 夢中になって読んじゃいました。
 伝説のプロデューサーが10年ぶりに新作舞台を手がけるとの噂が業界を駆け巡る。主演女優にリストアップされた女優たちの中で飛び抜けた存在感を示すのは、サラブレッドの実力派女優・響子と、演劇をはじめたばかりの天才新人女優・飛鳥。繰り返されるオーディションの中で、二人はお互いを意識しそれぞれの才能を開花させていく。
 エチュードやオーディション含め数ある演技シーンの素晴らしさと言ったら! もともとこの著者は小説における「劇中劇」が得意な人だもの。とてつもなく緊迫感溢れる演技シーンの連続で、途中でページをめくる手を止めるのは不可能なほど。それにこの物語全体が醸し出すストイックさもいい。演劇の世界でさらなる高みを目指す人、その人物像に関しても演劇に関すること以外はほとんど語られない、その別世界ぶりが恩田ワールドたらしめてるわけでして。作品の世界に酔いつつも、手に汗握っちゃう。最高の物語でした。

  細野 淳
  評価:★★★

 演劇に対して特別な知識を持たない自分だが、内容についてゆけなかったりすることは無く、読み通すことができた。
 幼い頃から役者として数々の舞台に出演し、二十歳そこそこで自分の地位を確固としたものにしている女優、東響子。それに対して、大学生から演劇を始めたものの、天性の才能で見るものを虜にしてしまう佐々木飛鳥。この二人が主な登場人物。
 残念なことがあるとすれば、佐々木飛鳥という登場人物が、今一つ謎な存在のままで終わってしまったということ。空手での経験を通じて、人を魅了するような演技の才能を手に入れたというのだが、本当にそんなのだけで、すばらしい演劇ができるのか、などと皮肉めいたことも思ってしまう。
 後半のオーディションの場面は、女同士の戦い、という意味合いもあって、読んでいて面白い。演劇に命をかける女性たちの生きざまを、堪能して欲しい。