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├2001年7月
├2001年6月
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「ミーナの行進」
【中央公論新社】
小川洋子(著)
定価1680円(税込)
2006年4月
ISBN-4120037215
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
清水 裕美子
評価:★★★★
1972年、中学1年生の朋子は1年間芦屋の伯母の家で暮らすことになる。清涼飲料水フレッシーの販売で会社を大きくした伯父さんの父は芦屋に優美な洋館を建て、今はそこにローザおばあさんや伯父夫婦、小学生の従姉妹ミーナ達が暮らしている。
物語に一気に引き込まれるポイントがあるとすれば、それはミーナに案内されて庭のペットを眺めるところ。そう、庭にいるペットのポチ子はカバなのだ、コビトカバ! ここで一気に小川洋子ワールドへ。
72年のミュンヘンオリンピック。少女達はバレーボールに熱中する。そして、ミーナが贔屓のセッターの猫田選手に出した手紙の優しさに思わず涙ぐむ。ジャコビニ流星雨の観測やおばあさんが内緒でお化粧をしてくれる秘密など、優しくて少し悲しみに満ちた家族と朋子の小さな冒険が丁寧に描かれる。古い写真を見てつぶやくように「全員揃ってる。大丈夫。誰も欠けていない。」そんな安堵に満ちた物語。72年に子供だった大人には特別な物語なのだと思う。それ以外の世代にも。
読後感:じんわり幸せ
島田 美里
評価:★★★★★
仲むつまじい2人の少女が主役であるこの物語は、世界の名作に名を連ねても不思議じゃないと思う。少女の心が希望でふくらんでいく高揚感は、「赤毛のアン」や「アルプスの少女ハイジ」にも匹敵するくらいだ。
舞台は、70年代の兵庫県芦屋。中学1年生にあがる朋子が、家庭の事情で一時的に過ごした裕福な伯母の家での日々は、物質的なものと精神的なものと、両方の豊かさがある。喘息に苦しむ従妹のミーナと、そんな彼女をさりげなく支える朋子の、クララとハイジのような姿が、何だか懐かしくて温かい。ふたりの絆も、それぞれの淡い恋も、そして少女から見た大人のほろ苦い世界も、全部ひっくるめてこのお話は美しいのである。
ダンディーな伯父さんや、キュートなおばあさんなど、魅力的な人物もさることながら、飼っている動物もまた素敵。病弱なミーナを背に乗せて悠然と歩くコビトカバのポチ子なんて、身をよじりたくなるほどのかわいさだ。ふくらんだ袖のドレスに見とれる赤毛のアンみたいに「素敵だわ!」と、オーバーアクションで感動を伝えたくてたまりません。
松本 かおり
評価:★★★
1972年から73年にかけて、中学生時代を芦屋の母方伯母夫婦の家で過ごした「私」朋子。いや〜、この芦屋ライフ、すごいわ。敷地面積1500坪、建物はスパニッシュ様式の洋館で部屋数は17! シャンデリアが煌き、黒大理石の暖炉が据わり、客間には天蓋付ベッド。しかもペットは珍獣(?)「ポチ子」。もちろん住み込みのお手伝いさんはお約束。特別な食事のときには、六甲山ホテルのシェフが出張に来る。あああ……目眩と溜息が……。
これで住人一家も完璧ならただの嫌味、病弱の娘・ミーナの登場にニヤリ。思わず<お涙満載激烈韓ドラ的展開>を期待したが大ハズレ。朋子が語る懐かしの日々は終始一貫、上品で穏やか。豪邸で心優しき人々に囲まれた何不自由ない生活だったのだから、30年を経てなお「私の記憶の支柱」なのも当然だわな。珠玉の思い出、しごくまっとうな人生、末永き友情。メデタシメデタシ、ヨカッタネ、としかいいようのない乙女チック物語。
佐久間 素子
評価:★★★★★
この本には、ちいさくていとしいものが、ぎゅっとつまっている。なんでもない一瞬のうつくしさが、やわらかな言葉できりとられて、ひたひたと心にしみこんでいくようだ。大事に読んだのに、すぐ読み終わってしまって、でも、本を閉じたあとは、びっくりするほど満たされていた。
1972年、家庭の事情で、中学生の朋子は、一年間、親戚に預けられることになった。芦屋の洋館で朋子を待っていたのは、ハンサムな伯父、物静かな伯母、ドイツ人のおばあさん、お手伝いさんに庭師さん、聡明な美少女のミーナ、それから、コビトカバのポチ子だった。夢みたいな環境なわけだが、これはむろんシンデレラ物語ではない。優しい家族とすごす一年が、おだやかにつむがれていくだけだ。よろこびとかなしみ、しあわせとふしあわせ。絶妙な配分というと、計算じみた感じがするけれど、こんなにもかけがえがない日々は、光だけで作りあげることができないのかもしれない。
一見レトロでありながら、実はとってもモダンな挿し絵もすごく素敵。つつましいのに、宝箱みたいな一冊である。
延命 ゆり子
評価:★★★★★
愛しい……何もかもが。ミーナも、朋子も、ローザおばあさんも。伯父さんも伯母さんも、お手伝いの米田さんも。そして勿論コビトカバのポチ子も。大切な大切な宝物のような小説だ。
芦屋の洋館。フラッシーなる飲み物を製造している会社の社長である伯父さんを中心に、一風変わった、懐かしい家族の物語。どの人物もそれぞれ良いのだが、特に病弱な美少女のミーナのエピソードが本当に素敵だ。ポチ子の背中に乗って学校に通うミーナ。好きな人にうまく気持ちを伝えられないミーナ。早熟で本が好きで、マッチ箱の絵柄に合う物語を空箱に描き続けるミーナ。
思わず自分の子供の頃を思い出してしまう。ミーナの境遇とは全く違うけれど、子供の頃にしか味わえない、大人たちに守られて好きな人に囲まれた完璧な幸福の時間、誰しもが心の中に持っているだろう懐かしくて思い出を、この小説はありありと思い出させてくれる。その幸福感に、本当に泣きたくなる。
ずっとこの小説を読んでいたい……。そう思わせてくれる作品は貴重だ。今期のベストに早くも入れたい、特別な物語でした。
新冨 麻衣子
評価:★★★★★
主人公の朋子は、親の都合で一年間、叔母の家に居候することに。叔母一家の住む芦屋の邸宅は、朋子にとってはまったくの異世界だった。ドイツ人のおばあさん、きびきび働くお手伝いさん、ダンディな伯父さん、あらゆる書物から誤字を探すのが日課の伯母さん、そして病弱で美しい少女・ミーナ、そして……カバ? たくさんの幸せとその裏に見え隠れする切ないエピソードがたっぷり詰まった、家族の<欠けることのない>物語。
マッチ箱から紡ぎだすミーナの小さな物語、そのマッチ箱を通じた片思い、現れなかった流星群、ローザおばあさんのたくさんの時間が詰まった部屋、サルのサブロウの逸話……この小説を構築しているのは、すべてが珠玉のエピソード。読み終えて、胸がいっぱいになった。また時間のあるときにでもゆっくり読み返したい。
やっぱ小川洋子はすごいのだ。
細野 淳
評価:★★★★★
主人公である人物の朋子は中学時代の三年間を神戸にある叔父の家で過ごすことになる。そこは豪邸であり、彼女が岡山で過ごしてきた環境とは大きく違うところ。そして、その家で一番仲良くなったのは、いとこにあたるミーナという人物。主人公と同年代だが体が弱くて外に出ることがなかなかできず、学校へもわざわざカバに乗って登校するような人物だ。
そんなミーナと朋子との少女時代の思い出を書き綴ったのが、この物語。家にいる男性は叔父さんのみで、しかもなかなか帰ってこない。さらにミーナは病弱。ということで二人で遊ぶ場所も、家の中がメイン。ミーナがマッチ棒に書いてある絵をもとに不思議な物語を作り出したり、二人でこっくりさんに夢中になったり、テレビに出ているバレー選手に憧れたりと……。自分とは随分と違う子供時代のすごし方だが、なんでもない遊びがいつまでもずっと心に残り続けているということには、共感できる。
幼い頃の魔法のような日々の出来事。お金持ちの家に移り住むことになるなんて、普通の人には恐らく出来ないようなことなのだろうが、なぜか心に懐かしさを感じてしまう小説だ。