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フェルマーの最終定理
フェルマーの最終定理
サイモン・シン(著)
【新潮文庫】
定価820円(税込)
2006年6月
ISBN-4102159711


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  松井 ゆかり
  評価:★★★★★

 「博士の愛した数式」に涙し、「世にも美しい数学入門」に深い感銘をうけたが、それでもこの本にこれほど心を動かされるとは思っていなかった。数学者たちについて書く、すなわち人間を描くということに重きが置かれているとはいえ、私のような門外漢からみれば紛うかたなき数学書である。それなのに読み始めて数ページ、序文から涙していた。
 正直言って、数学的な部分の記述に関してはおそらくほとんど理解できていないと思う。しかし著者サイモン・シン氏がその部分をとてもわかりやすく噛み砕いて説明していることは感じられるのだ(それでもその内容自体は理解できないわけだが、それはまた別の話)。何よりも数学の美しさに魅入られ生涯をかけた幾人もの数学者たちの姿が胸を打つ。「フェルマーの最終定理」を証明したアンドリュー・ワイルズがこの難問を解決しようと心に決めたのは、なんと10歳のときだったという。いったいどれほどの大人が10歳の頃の夢を追いかけ続けているだろうか。どんなに苦労や挫折を味わっても、それは確かに幸せのひとつの形であるように思われる。

  島村 真理
  評価:★★★★

 フェルマーの最終定理、タイトルだけみたら確実に腰が引ける。けれども小川洋子さんの「博士の愛した数式」のあの博士の語る数字の世界の面白さを思い出すと、この言葉がかもしだす何かを簡単に見逃すことが出来ない。
 はじめ、単にこの定理を解いたという数学者、ワイルズについて書かれた作品なのかと思っていた。しかし、とどまらずに数学の誕生からさかのぼり現代まで、数学者が証明をするという行為にたいする情熱まで余すところなく書かれている。それも、数字・数学と聞くとアレルギーがでそうな苦手なものにも、何もわからない者にも噛み砕くようにていねいに。
 うれしいのは、フェルマーの最終定理だけでなく、数学という世界に真剣に対面させてくれたことだ。おかげでつまりつつも、数式の魅力、証明することの魅力を存分に知り、そのうえ生涯を賭けて求めつづける執念のような思いまで共有することができた。知をめぐり才能に触れる楽しさを教えてくれる一冊でした。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★

「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が少ないのでここに記すことはできない」フェルマーはこう記して、その定理の証明を残さなかった。何とも人を食った話だ。そっけないほどシンプルな定理でありながら、証明不可能といわれ、350年もの間、名だたる数学者たちの挑戦を退けてきた。
 この史上最大の難問を、1995年、アメリカの数学者アンドリュー・ワイルズがついに証明するに至るまでの道のりを描いたのが本書である。本作中のワイルズ自身の言葉を引用すると「とてもシンプルで、とてもエレガント」となるのだが、実際は200ページを越す化け物みたいな論文らしい。このワイルズの証明は、無から飛び出した啓示のようなものではなく、モジュラー形式だの、楕円方程式だの、谷山=志村予想だのという、連綿と洗練され続けてきた現代数学の、緻密な組み合わせと応用の末に得られたものだ。となると、素朴な疑問が生じる。350年前のフェルマー自身による証明というのは、ワイルズのそれと同じだったのか、いや、そもそもフェルマーは正しく証明できていたのか、と。ともあれ数学の神秘は計り知れない。本書は、ピュタゴラスからワイルズに至る、数学に憑りつかれた人間たちのドラマを、数々の印象的なエピソードを交えつつ生き生きと描いている。

  荒木 一人
  評価:★★★★

 BBC放送制作「ホライズン−フェルマーの最終定理」このTVドキュメンタリー関係者が記した、数学ノンフィクション作品。ピタゴラスからフェルマー、そしてワイルズまで数学の歴史を織り込み、定理の証明までを書いている。なかなか興味深く、面白い。数学的知識が無くても楽しめるが、有るとより楽しめる。
 十七世紀、天才アマチュア数学家、ピエール・ド・フェルマー。彼の気まぐれにより生まれた悪名高き「フェルマーの最終定理」。一世紀が過ぎても、四次(フェルマー)、三次(オイラー)と、二通りの場合しか証明されず、遅々として進まない。三世紀半に渡り、並み居る数学者を返り討ちにしてきた定理。終止符を打ったのは、数学者としては一風変わった、アンドリュー・ワイルズ。
「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」…楽観主義の私は…十七世紀のテクニックを用いて証明するフェルマーを見てみたい。