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勝手に目利き
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文庫本班
ブレイブ・ストーリー
ブレイブ・ストーリー (上・中・下)
宮部みゆき (著)
【角川文庫】
上巻定価700円(税込)
中巻定価700円(税込)
下巻定価740円(税込)
2006年5月
ISBN-4043611110
ISBN-4043611129
ISBN-4043611137
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  久々湊 恵美
  評価:★★★

この夏映画化されるとの事で気になっていた作品。
読み始めてみると、どうもゲームの名前がバンバン出てくるのとゲームチックな展開がどうしても好きにはなれなかったのです。
私自身、ゲームをそれもRPGを好んで遊ぶほうなので余計気になってしまったんだろうか。
これはゲームしない人にはわかりにくいんじゃないかと。気にしすぎかな?
前半部分の現実を描いた世界はかなり修羅場な展開ではあったけれど、そこをもっと読んでみたいと思ったのもあるかも。
だから余計に途中から幻界にステージがうつってからは、どうしてもその世界観になじめないままで終わってしまいました。
でも、その一貫したテーマ性はすごく良かったように思うのです。こみ上げるものだってなかったわけじゃあない。
物語に破綻がなく、うまいと思わせる力はやっぱりこの作者ならではで、安心して読めたのです。
でも、ある程度の大人が読めるファンタジーだったかどうかは疑問でもあるのです。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★★

 あんこと生クリーム、ヤッくんと岡江さん、アボカドとわさびじょうゆ…。ナイスな組み合わせと思うものを思いつくままに挙げてみた。そんな中でも最高のカップリングと言っていいもののひとつが宮部みゆきと主人公の少年だろう。おもしろくないはずがない。
 フツーの男の子だった亘が、バラバラになった家族の絆を取り戻そうと幻界と呼ばれる異世界に旅立つ。ファンタジーであり、成長小説であり、家族小説である。戦いによって負う傷よりも、言葉によって抉られる心の痛みが、つらそうでひるんでしまう場面が何度かあった。生きるということはきれいごとではすまされないのだという事実を突きつけられているようでもあった。亘も自分の心にある弱さや臆病さと向き合い、それらを受け入れることで成長していく。ゲームっぽいという批判もあろうが(作者もそのつもりで書かれているようだし)、やっぱり“宮部みゆきと主人公の少年”は素晴らしい。

  西谷 昌子
  評価:★★★★

 王道ファンタジーだ。何故このタイトルなのかがわからないが、誰にでもおすすめできる小説だと思う。現実の世界で困難に直面した少年が、それを解決するために異世界へ冒険の旅に出る、という王道パターンもいいし、さすが宮部みゆきと言うべきか、大人たちの感情の動きや異世界の政治・経済の仕組みがしっかり作りこまれていて、子供だましではない、大人も楽しめるファンタジーになっている。
 異世界の住人たちも皆個性的でチャーミングなので、主人公が彼らを好きになり一緒に旅をする展開がとても楽しいし、子供心に返って楽しめた。実際に子供が読んだらどう思うのかを聞いてみたい。

  島村 真理
  評価:★★★

 小学五年生の亘が立ち向かわなくてはならないのはファンタスティックで過酷な旅だった。彼は、両親の離婚の危機という現実を変えるために、“幻界(ヴィジョン)”とよばれる世界の扉をくぐることになる。
 普段、ゲームは何一つやらないけれども、RPGの世界がまるまま小説になったんだなという想像は軽くできた。けれども、宮部みゆきにかかれば、単なる冒険ファンタジーで留まるわけがない。過酷な状況が子どもを大人にしていく(時には大人をも成長させる)過程をリアルに実感できる。
“幻界”という不思議な世界、珠を集めるための試練、やさしく頼もしい仲間たち、冒険の旅はそれだけで楽しいけれど、注目すべきはワタルとは別に、運命を変えるため”幻界”を旅するミツル。二人は表と裏のように正反対だ。目的のためには他を犠牲にしてもかまわないという冷たさが際立つミツルだけれど、10歳の少年がそれほどの強い決心を持たなければならない現実が切なすぎた。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★★★

 この作者の作品には裏切られたことがない私だが、この作品はどことなくジュブナイルというイメージがあり読んでいなかった。だが、読み始めたらあっという間に引き込まれてもう止まらない。時間を忘れて読んだ。
 上巻では、主人公ワタルの家庭崩壊や、ミツル、大松香織の身の上にふりかかる悲劇など、現実世界の残酷さがリアルに描かれ、胸をえぐられる。そこから中巻、下巻では幻界へと物語の舞台が移っていく。幻界の描写は圧倒的で、ワタルが遭遇する様々なキャラ、風物など、容易に映像となって脳裏に立ち上がる。イメージの奔流は尽きることがない。それらは唖然とするほど美しかったり、思わず涙するほど切なかったり、逆に、身震いさせられるほどグロテスクだったり。村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を髣髴とさせるところもある。愛と憎しみ、エゴと自己犠牲、人間の弱さと強さ、醜さと美しさ。壮大な舞台で織り成されていく冒険物語は、揺るぎのないヒューマニズムの世界観に貫かれている。
 11歳になる私の長男に貸してやったら夢中になり、数日で一気読みしてしまった。主人公のワタルと同じ年齢でこの物語に出会えた息子がちょっとうらやましい。

  荒木 一人
  評価:★★★★★

 子供から大人まで楽しめるファンタジー。主人公の亘(わたる)は、現実と幻界(ヴィジョン)の2つの世界で生きる事を学び、成長していく。上・中・下巻のかなり厚めの3冊だが、それでも読み足りないほど、物語に引き込まれていく。
 小学五年生の亘が、偶然?必然?女神の気紛れ? で見つけた、異世界への入り口。どうしようも無い現実世界の運命を変えるため、亘は、「ワタル」になり幻界での冒険へ旅立つ。生きるとは? 運命とは?
 布石として重要な役割を果たしている現実世界の描写。上巻の300ページも使って描かれているのだが…諸説色々あると思うが、敢えて言わせてもらう、不要。ハイファンタジー1本に絞って、徹底的に娯楽作品にしても良かったのでは無いだろうか。
人生とは難しいようで、簡単である。そう「勇気」さえあれば、どんな困難な事でも、どれほど悲しい事でも、乗り越えられる。他人を認める勇気、自分と向き合う勇気、現実を直視する勇気。勇気凛々! 「ヴィスナ・エスタ・ホリシア!」

  水野 裕明
  評価:★★★★★

 ミステリー作品(とても面白かった)でデビューして、時代小説やタイムスリップを活かしたSF風作品と、守備範囲を広げていった宮部みゆきが今度はRPG風のファンタジー???そのまま上質な本格ミステリーを数多く発表し続けてくれたらいいのにと思っていたので、疑問符付きで読み出したのだが、いやいや、物語性たっぷりの上質な冒険小説・少年の成長物語になっていた。初期の「我らが隣人の犯罪」や「魔術はささやく」などで女性作家なのに、少年の描き方がすごく上手いなぁと思っていたのだが、この作品ではもっと少年が生き生きと描かれていて、確かにスニーカー文庫でジュニア向けに発表するのはもったいない、一般にも十分アピールできる感動の作品!!上巻の現実世界から中・下巻での幻界での変化の巧みさ、ファンタジーをファンタジーたらしめている魔法や勇者などの要素はしっかりと押さえながらも、現実世界との接点も忘れず描かれていて、ジュニア・ヤングだけでなく大人も、いや大人にこそ読んでいろいろ考え欲しい1冊だと感じた。