年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
非・バランス
非・バランス
魚住直子 (著)
【講談社文庫】
定価470円(税込)
2006年5月
ISBN-406275391X

商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  久々湊 恵美
  評価:★★★★

わー!この気持ちわかるー!なんて思いながら読んでしまった。
私もその昔いじめられっこ時代があったので、同じようなこと思っていたなあなんて。
クールに生きていく、友達はつくらない。わかる。私もそういうこと考えた。
なによりも自分を守ろうとして傷つく前に防御壁張っちゃうんだよねえ。
その気持ちが本当痛いほど突き刺さって、あの頃の私とおもわず重ね合わせてしまって応援したくなった。
だからちょっとずつそのかたくなな気持ちがほぐれていくのが嬉しかった。
最後には「うんうん。よかった。よかったねー。」と泣けてきてしまった。
これはきっと大人になってもこういう部分ってあって。いやもしかすると大人になった分、傷つくことを恐れてもっと自分を守ろうとしてしまおうとする事が多くなっているのかもしれない。
もっと肩の力を抜いて素直に生きたっていいんだよね。って力をもらいました。

  松井 ゆかり
  評価:★★★★

 自分が親というものになってから読む児童文学は、時にけっこう胸を刺す。「大人はわかってくれない」「親なんて頼りにならない」「親に話しても無駄」という諦めを読み取ってしまうからだ。
 この小説の主人公も小学校でいじめを受け、中学校ではクールに友だちを作らず生きていこうと決めた。傷ついた彼女の心に親は気づかないままだ。そんな主人公が「願いをかなえてくれるミドリノオバサン」と見間違えたことで知り合うことになったサラさんや実はひとりぼっちだった同じクラスのみずえと出会って強くなっていく。
 いじめを受けている子のほとんどは、サラさんやみずえのような存在と出会うことができないからつらいのだ。でもサラさんを見てわかるように大人にも苦しいことはある。つらいとどうしても打ち明けられないならせめて、苦しいのは自分だけじゃないということが少しでも支えになればいいがと思う。

  西谷 昌子
  評価:★★★★

 現役の中学生女子に勧めたい小説だ。
 いじめられた子が「もう友達をつくらない」「もう他人と関わりたくない」などと極端な考え方をしてしまうのは、実はとてもよくある話で、私も中学生の時に、同級生の口からそんな言葉が出るのを何回か耳にしたことがある。中学生の世界は学校しかなく、そこに居場所がなくなってしまうことの苦しさは、他の苦しさとは比べようがない。忘れていた「あの頃の息苦しさ」がよみがえってくる。今の中学生たちがどんな気持ちで生活しているのか、以前とは違っているかもしれないが、私が中学生の時に出会っていたら間違いなく涙していただろう小説だ。

  島村 真理
  評価:★★★

 いじめの経験からクールに生きること(友だちを作らずにひとりで生きていくこと)を決めた“私”と、大人の女性サラとの不思議な出会いと交流の物語。子どもの世界は残酷でつらい。でも大人の世界ももっともっと大変。苦しんだり傷ついたりがたくさんある。そういう二人が出会ったら?年代を超えた友情関係が面白い。
 傷ついたり悲しいことがあると、ねたんだりひがんだりしてしまうけれど、他人に優しくしたくなってくる。そういう痛々しさのある優しさを感じました。
 もう二度と傷つかないためにとる態度にはいろいろある。近寄らない、仕返しする、受け入れる、ごまかす。でも、一番気持ちいいのは過去にうち勝って乗り越えること。サラの支えがあって”私”が過去と対峙するシーンは、キョウレツさにちょっと引きつつもうっすら感動してしまった。かさぶたを剥ぎ取るように、少々の痛みをともなう爽快さが心地よかった。勇気と自信を手に入れるには落っこちたり転がったりする経験は大事。むしろ上手くいかない事が上手にやることより何倍も大事だと思い出させてくれるお話でした。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★

 小学校でいじめを経験した少女が、中学校では友だちをつくらずに、一人でクールにやっていく、という決心をする。共働きの両親は、彼女の上っ面しか見ず、彼女の孤独などまったく理解しない。少女は学校でも家庭でも、誰とも交わらずに孤独に生きている。時々万引きをしたり、自分をいじめた相手に無言電話をかけたりもする。そんな彼女が、ある夜、アパレル業界で働いている年上の女性・サラさんと知り合い、徐々に心を解きほぐされていく。一方、サラさん自身もまた、仕事での自分の夢と現実との距離が埋まらないことに悩んでいる。
 淡々とした思春期小説だ。読みやすく、感情移入もしやすい。ミドリノオバサンの道具立ても巧みだ。エンディングも爽やか。ただ、少女が、万引きした商品を返したりすることをちょっとでも考える気配はないし、無言電話を、嫌がらせに対する仕返しだと正当化したまま、自分の受けたトラウマを克服するだけで終わってしまうところはちょっと引っかかる。

  荒木 一人
  評価:★★★★

 危うい心理状態。大人でも子供でも、些細な事がきっかけで、こころのバランスを崩す。傷ついている二つのハートが出会った。同情なのか、友情なのか。氷解するこころ。さらりと読めるのに、こころにしみじみ残る作品。
「タスケテ」思いがけず出た言葉。ずっと隠していた、気付かない振りをしていた。噂のミドリノオバサンと勘違いした、私。些細な事が原因で、苛められた小学時代。引っ越し先の中学校で強くなるために、心に決めたこと。一つ、クールに生きていく。二つ、友達は作らない。
 挫折が有るから強くなれると言うけれど、挫折など一生無ければ、その方が良いに決まっている。必要に駆られ、身に付ける強さは本当に必要なのだろうか? 自信が無いから群れる子供達。標的は弱者に決まっている。醜く歪んだこころ。追いつめられた袋小路から抜け出すきっかけも、また些細な事なのだろう。

  水野 裕明
  評価:★★★

 中学生の私と二十代後半の女性の物語。それぞれに学校でのいじめや職場での問題を抱えた、傷つきやすいハートを持った2人の出会いと別れを描いた作品だが、短いのに重い、重いのに読むことを止められない、息苦しい思いが伝わってくる作品である。講談社児童文学新人賞を受賞作ということだが、テーマも内容も児童文学にしてはちょっと重すぎないだろうかと感じてしまった。物語としての結構もしっかりとされていて、何と言っての主人公の少女に確かなリアリティーがあって、読み出してすぐに彼女のイメージがパッと浮かんできて、物語の中でしっかりと存在していた。作中で示されたいじめの解決が本当に正解かどうかは別として、読んだ子どもたちにはある種の勇気を与えるだろうなと思える、価値ある1冊であった。