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ジゴロ
ジゴロ
中山可穂 (著)
【集英社文庫】
定価460円(税込)
2006年5月
ISBN-408746041X
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  久々湊 恵美
  評価:★★★★

レズビアンの恋を歌うストリート・ミュージシャン、カイ。
彼、というか切ない恋を道端で歌う彼女に惹かれてしまう女達の短編集。
内容はもちろん女同士なので、同性愛者物なんだろうけれど、あんまりそういう感じしなかったんです。
自分にその経験がないからなのかもしれないので勝手な解釈なんですが、男性女性問わないんじゃないだろうか、こういう気持ちってと思ったのです。
好きだった話は『ラタトゥイユ』のすき焼きを食べるところ。
すき焼きって一人じゃ食べない。というか食べたいものじゃないもの。
なんだかそこがカイのすごくすごくさびしい気持ちが立ち上がってくるようで、切なくなってしまった。
でも最後にみんなカイと出会ったことで、行き詰まったところから抜け出していっているのがこの短編集を素敵なものにしているように思えました。
暗い恋ではなく明るい恋の物語。

  松井 ゆかり
  評価:★★★

 中山可穂さんの小説を読むのはこれが初めて。彼女について「自身がレズビアンであることをカミングアウトした作家」という以外の知識はほとんど持っておらず、時折書店で見かける本の装丁などから、とてつもなくスタイリッシュな作品を書く人だろうと思っていた。
 そして今回「ジゴロ」を読んだわけだが…こんなベタな感じなの!?まあ、あとがきで中山さんご本人が自分の作品の中ではちょっと系統が違うという趣旨のことを語っておられるし、別にそれが悪いと言っているわけでもないが、不意打ちだったので驚かされた。ラテン歌手(という設定がそもそもすごいが)の芸名が「恋路すすむ」って…。
 連作の中心人物であるカイをはじめ登場人物たちの心情が残念ながらあまり理解できなかったが(女性同士の恋愛物語だからということではなく)、最後の短編に出てくる順子さんはなかなか清々しくてよかった。

  西谷 昌子
  評価:★★★★

 女性同士の恋と官能の物語。主人公はそれこそ「ジゴロ」のように様々な女性と関係を持つが、彼女の行動は一見男性のようでありながら、それでいてひどく女性的だ。特に、恋を知り始めたばかりの高校生の少女との関係。主人公は年上のお姉さんらしく恋を教えてあげながらも、少女が求めるセックスを与える。全篇が女同士でしかありえない愛のかたちを描いていて、男女の恋にはない独特の味わいを持っている。
 主人公は特定の恋人を持ちながらも、他の女と寝ずにはいられない。そこに漂うセンチメンタルな雰囲気がとてもいい。恋愛のかたちが捩れていても、そこに悪意も独占欲もなく、どうしようもない寂寥感がある。この感覚はこの小説でしか味わえないのではないだろうか。

  島村 真理
  評価:★★

 中山可穂といえばレズビアンの恋愛。美しくも破滅的で、体力と気分に余裕がないと読むのはつらい。
 けれども、この話は、ジゴロであるカイをめぐる女性との官能的な恋の短篇たちで、思ったよりも軽く読みこなせました。もちろん、人妻たちとの逢瀬は生々しくて少々引きます。私にはわからない世界。でも、どことなく純粋でせつない恋のにおいもしてくるようです。
 たぶんそれは、この連作の主人公であるカイが、性別を越えたステキな恋人であるからだと思う。特定の恋人を持ちつつ違う女性とセックスするという、公平な恋愛関係にあるまじきルール違反なのに。でも、カイからは裏切り行為にある、汚さやずるさを感じさせない。愛し合う時間、二人っきりの時のカイの優しさときたら……。まさにジゴロなのです。憎みたくても憎めない。
 気がついたら私もカイの魅力にはまっているようです。だって恋をしたらいつも求めるのです。優しさとやすらぎと変わらない情熱を。カイはそれを惜しみなく解放して満足させてくれそうなのですから。

  浅谷 佳秀
  評価:★★★

 ゲイやレズビアンの人たちは、ヘテロの人たちに比べ、恋愛に対してより真摯に、そしてアグレッシブに向き合っているような気がする。パートナーを獲得するために、多くの障壁を乗り越えなくてはならないからだろうか。この小説の中心的な登場人物である、ストリート・ミュージシャンのカイも、仕事に打ち込む同性のパートナーを愛しつつ、夜毎、新しい恋を追いかける。
 この作品ではカイと、彼女をめぐって、女性たちがくりひろげるドラマが描かれている。「ダブツ」という1篇を除いては、登場する女性はほぼ真性のレズビアンだけだ。愛し合う彼女たちに、マイノリティの哀感みたいなものはない。彼女たちはヘテロの恋人同士と同じように、浮気も駆け引きも嫉妬もする。恋愛という人間同士のもっとも根源的な営みのありようという点では、レズビアンとヘテロとの間にそれほどの差はないのかもしれない。とはいってもこの作品、間違いなくヘテロよりもゲイやレズビアンの読者の方が感情移入しやすいだろう。

  荒木 一人
  評価:★★

 表題を含む五編の連作短編集。主人公はレズビアンのストリートミュージシャン。のっけから濡れ場でドキドキする。通勤時には不向きな一冊かも(笑)。女性の花園へようこそ。
 主人公カイは、一風変わったストリート・ミュージシャン。新宿二丁目界隈では、それなりに有名人。夫婦と呼べない夫の居る、人妻。中学二年生の息子が居る、悦子。少しだけ家庭に問題のある高校生、靖子。ラテンのリズムで生き、愛用のギターを託してくれた、小百合。恋人でキャリアウーマンのメグ。情熱的な欲望は、日だまりの様に穏やかな暖かさへと移行していく。
 著者のあとがきには、「肩の力をぬいて楽しみながら書いたもの」とあるが…読み手としては、微量の嫌悪感を持ってしまった。もっとも、私は多少の偏見と、かなり保守的な考えを持っている人間である事に注意して欲しい。
 追伸、天丼どころか、食傷気味です。

  水野 裕明
  評価:★★

 同性愛者(レズビアン)の主人公カイとその恋人メグ、そして恋人か夫がいる女性との恋模様を描いた連作短編集。こういう作品を読むと、一体どういう人たちが読むのだろうか?とか、ここまでリアルに書けるからひょっとするとこの作者は同性愛?とか、よからぬ妄想をたくましくして読むことがけっこうおろそかになったりするのだが……。でも、描かれているのは、男女の恋愛や不倫、初恋〜初体験となんら変わらない様相。ただ違うのは2人が女性であるということだけ。ボーイズ小説の女性版ともいえるし、ハーレクインロマンスなどともあまり変わりはないわけで、ちょっと目先・毛色の違う恋愛小説を読んでみたい、という人にはお奨めかもしれない。