WEB本の雑誌今月の新刊採点>勝手に目利き




2007年8月

このページは新刊採点員たちが、課題図書とは別に勝手に読んだ本の書評をご紹介します。


松岡 恒太郎

松岡 恒太郎の 【勝手に目利き】

パラレル 『パラレル』
長嶋有/文春文庫
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 三月の課題図書で読んだ『ジャージの二人』もそうだったが、この作品でも長嶋有さんは主人公の妻に浮気をさせる。
パラレル、並行であること、またそのさま。修復の機会はあったものの、お互いへの思いが噛み合わず掛け違えたボタンは直されないままに少しずつ遠ざかってゆく男と女。そんな曖昧な関係が上手に描かれている物語なのだが、決して幸福ではないはずのそんな二人に不思議と軽い嫉妬を覚えてしまったのはなぜだろう?
 溝が埋まらないままに、スープの冷めない距離のご近所別居を楽しみ始める妻、そんな彼女を愛しく思う主人公、しかしどこまでも交わることはない二つの直線。大人の恋愛とは、なんと歯がゆいものだろう。
 物語にはもう一人、主人公の友人でプレーボーイの津田が大きな役割を果たし、別のパラレルを描いているのだが、僕には『妻の浮気』というキーワードで手一杯で、そちらにまで気を回すゆとりがなかった。




三浦 英崇

三浦 英崇の 【勝手に目利き】

宇宙はくりまんじゅうで滅びるか? 『宇宙はくりまんじゅうで滅びるか?』
山本 弘 (著)/ 河出書房新社
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 「と学会」会長にしてSF作家である著者の、初のエッセイ集。
 あとがきから所収されたケースが多いため、大半の著書を読んでる俺にとっては、一度は目を通した文章な訳ですが、ほんとに、どの文章を読み返しても、考え方に全然ぶれが無いのが素敵です。合理的であること、正確であることに、これほど徹底しようとする人は、なかなかいないと思うのです。「真善美」を貫こうとする姿勢には、頭が下がります。
 とは言え、肩いからせて主張している訳ではなく、エンターテインメント作家らしく、何とかして笑かしてやろう、という仕掛けを散りばめているあたりがとってもいいです。そもそも表題自体が、かの『ドラえもん』の代表的なエピソード、「バイバイン」の回の考察ですし。
 あと、奥様と娘さんを、照れもてらいもなく、堂々と「愛している」と言い切る一連の文章には、人を好きになることって素晴らしいことなんだなあ、と素直に感じました。



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