どこにあるか分からない市の名前~『日本の珍地名』

日本の珍地名 (文春新書)
『日本の珍地名 (文春新書)』
竹内 正浩
文藝春秋
830円(税込)
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 「あすなろ」「あっぷる」「さくら」「みどり」「ゆたか」「みのり」「はながさ」「たつの」「みやこ」「いすみ」--。

 これらの単語にはある共通点があるのですが、それが何だか分かるでしょうか。JRの特急? 小学校のクラス名簿? 駅前のスナック? 

 実はこれ、全て「平成の大合併」の際、新しい市名の候補として挙げられた名前。しかもこれらの単語は便宜上平仮名にしたわけではなく、全て平仮名として候補に上がっていたもの。

 「平成の大合併」とは、2000年(平成12年)前後から始まった市町村の合併推進の動きのこと。地方分権の推進や自治体の財政基盤の強化、行政サービスの向上などを目的として行われた市町村合併は国民の賛否の声が渦巻く中、順調に進み1999年末には3232あった市町村は2006年4月末までに1820にまで減少しました。

 こうなると混乱するのが新たな市町村名。吸収合併の形であれば、問答無用で吸収された市町村の地名は消えてしまいますが、同レベルの規模の市町村が合併する場合、「A市を残せばB市が怒る。B市を残せばA市が怒る。それならいっそ新しい市名を」ということになります。

 そうした経緯で生まれたのが、青森県板柳町と鶴田町合併の際に候補に上がった「あっぷる市」。りんごの名産地の板柳町が「あっぷる市」を主張すれば、鶴田町は「鶴柳市」を提唱し、結果的に両者とも互いの主張を譲らず、両町の合併は破談に追い込まれてしまいました。冒頭の他の候補市名も、元をたどれば「あっぷる」と似たような、苦肉の策から生まれた名前だったのです。

 こうした平仮名地名の致命的な欠点は、その市がどこにあるのかがさっぱり分からないこと。「さくら」「みどり」「たつの」「いすみ」はめでたく採用されましたが、何かと物議をかもしたこれらの市名、いったいどこにあるか、あなたは答えられますか?

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