年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班

ハグルマ
ハグルマ
【角川ホラー文庫】
北野勇作
定価 620円(税込)
2003/3
ISBN-404369301X

 
  池田 智恵
  評価:C
   〈ネジがね──。
誰かが言った。
どこかで。
ずいいいいむ〉
 主人公の勤務する製作会社で、自殺した男。彼の残したゲームのテストプレイを続ける主人公が、徐々に現実をゲームの世界に侵食されてゆく。時折聞こえる「ハグルマ」という言葉。果たして、その正体は……?ううむ。「ホラーって過程は面白いけど、得体の知れない者の正体が分かってしまうととたんに怖くなくなる」ということを改めて確認しました。この本も、閉塞感の漂う空気が恐怖とないまぜになりながら謎を盛り上る。その過程は面白かったんです。けど、答えが出てしまった瞬間に、あっけなく怖さが薄れてしまいました。ホラーって難しいですね。

 
  延命 ゆり子
  評価:C
   ゲーム会社に勤める主人公。自殺した同僚に渡されていたゲームを進めるうちにどの記憶が現実なのかわからなくなる。現実と狂気の境目が曖昧になっていく様がトリハダもの?という話です。この話がしっくりこない理由を考えてみました。(1)改行が多すぎる。コバルトみたいだ。下のほう空きすぎ。(2)字数に制限を加えて実験的な要素を取り入れている意味がわからぬ(改行するごとに文字数を一字ずつ減らしていったり増やしたリして、山みたいな形をデザインしている箇所がある)。(3)この男、妄想すぎ。かなり早い段階で狂気入ります。もう少し、現実的な要素を盛り込んだほうがリアルな恐さにつながったように思うのだが。(4)ゲームの内容がそんなに恐い話ではない。(5)ハグルマの正体に関する一連の話に興味が持てない。以上!独断でした。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   まさに、計算し尽くされたホラー小説だ。言い換えれば、「精密機械」のような。「ハグルマ」は、この作品のキーワードであり、タイトルでもあるが、精密機械のようなこの作品もたくさんの歯車で形成されている。歯車は同じ形をしているので何度も繰り返し登場しているような錯覚に陥るが、実はみな違っていて、どれも欠かすことのできない「ハグルマ」なのだ。
 実に根気よく編むように練られた展開と規則性を持つ文体に、脳みそはぎちぎちぎちと揺らされ、鳥肌で大根が下ろせそうだ。

 
  鈴木 崇子
  評価:D
   自殺した同僚の残した未完成のゲームと現実が重なりあう不気味で不思議な物語。文体も独特で、特に頻繁に登場するコピー機の音「ずいいいいいむ」が不吉な感じで気味が悪いぞ。
 自分の選択した世界=現実、と存在する可能性のある無数の世界=パラレルワールド、をかみ合わせるものとしての「ハグルマ」。女性の身体に潜んでいるという、失われた楽園と滅びた者の怨念としての「ハグルマ」。なんだか無理矢理こじつけたという感じがしなくもない。生物の進化と団地の起源論に至っては少し笑ってしまったのだが。この荒唐無稽さと後味の悪さがホラーってもんなのか? 角川ホラー文庫だから、きっとホラーなんだろう。そんな風に理屈で考えちゃいけないのか? なんにしても、私にとってはあまり馴染めず、楽しめない世界でした。

 
  中原 紀生
  評価:D
   現実(夢や幻覚)が虚構(ゲーム)に取り込まれ、再び現実(肉体感覚)に送り返される。この果てしない繰り返しのうちに無数の可能世界(ストーリー)が分岐し、イジェクトもリセットもできない入れ子式の無間地獄が延々と続いていく。「ハグルマ」と名づけられた開発中のゲーム(「プレイヤーを催眠状態にまで導き、その当人のなかにある夢や幻覚を掘り出してみせるゲーム」)にはまった男の悪夢の世界を描いた作品。歯車とは「ある規則で動いている世界に、別の軸の世界からの力を伝える仕組み」のことで、人間の意識の比喩である。世界の「すべてに意味があり、それらは互いに作用しながら連動し、ひとつの仕組みを作っている」のではなくて、「ほんとうはすべてがばらばらで、人間の意識がそれらを無理やり噛みあわせ繋げている」。この中学生でも考えつきそうな、だからこそ「肉体感覚」に根ざした真正の哲学の問題がそこから立ちあがるはずのアイデアに、作者が心底リアリティを感じていれば、もっと迫真の恐怖を描くことができたろう。カバー裏に「『ドクラ・マグラ』的狂気の宴」と書いてあったが、誇大広告だ。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   薄い…。文庫の紙質の悪さもあり、いきなり読む気をそがれます。角川ホラー文庫にはがんばって欲しいのに、粗製濫造を疑われかねない本の作りをしてはいけないと思います、ホントに。改行の頻繁な小説には信用がおけない(ページ数を稼ぐばかりで内容量が少ない)、という偏見を持っているので、白っぽいページが続くとそれだけでげんなりします。ネジやハグルマといった魅力的な章立てに期待を込めつつ読み進んだのですが、…やっぱり薄い。ゲームの虚構世界と現実が見分けがつかなくなる設定には、恐怖を感じさせる因子がたくさん含まれているのですが、「薄さ」が「虚構」を感じさせ、終始一貫して「現実」を感じさせない、すなわち「ちっとも怖くない」。文字数を調節して、改行位置を階段状に見せたりする遊びは大好きですが、そういった技巧を連続して重厚さを醸し出すまでには至っていないと思います。Web横書きで読むとちょうど良いトリップ感かも。