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IX(ノウェム)
IX(ノウェム)
【電撃文庫】
古橋秀之
定価 557円(税込)
2003/2
ISBN-4840222762

 
  池田 智恵
  評価:D
   「『サムライ・レンズマン』は面白かったんだけど、この人。金庸に影響受けて武侠小説っぽいものを書こうとして、失敗してるって感じ。金庸の小説って、シンプルだけど、デタラメをデタラメと感じさせないパワーがあるんだよ。その辺負けてる。中国の小説って本当に頭のいい女の人が出てくるからetc」以上、武侠小説とライト・ノベルを愛する、わが弟の弁でした。
 私の感想は……固有名詞が多くて途中で読むのがめんどくさくなってしまいました。登場人物の名前がなかなか覚えられなくて苦労しました。だから話もよく覚えてないです。中身は確か、格闘シーン多めの中華風冒険小説だったと思います。すいません、これ以上話すことがないです………。そんな感じで。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   第一に、キャラが立っている。次々と登場するキャラクターは、その魅力も武力もどんどん強くなっていく。「妖しくてカッコいいなあ」と感心していると次に現れる人物は、もっと妖しくもっとカッコいいのだから堪らない。キャラクターの一挙手一投足に心を奪われ、ハラハラドキドキしながら作品にのめり込んでいってしまった。
 第二に、格闘シーンがいい。とりわけ、罪炎と崔八手が戦うシーンの描写は絶妙だ。迫力やスピードを文字で表すのは困難だが、見事やってのけた。
 火攻を常套とする火龍幇≠フ幇主、罪炎は「一日十殺」という誓いをたてた。わたしも「一作十誉」といきたいところだが、あいにく文字数に限りがある。このへんで勘弁願いたい。

 
  鈴木 崇子
  評価:D
   この小説は続編があるのだろうか? ないと困る。3部作と知らずに「ロード・オブ・ザ・リング」第1作を観てしまった後のような(間抜けで恥ずかしいが自分のことだ)、この尻切れトンボな感じはどうしてくれよう。
 まあでも、それはさておき、中国武術の達人たちの登場する、歯切れよい展開のエンターテイメント小説だ。読んだことがないのでどういうものか知らないが、武侠小説からヒントを得て書かれた物語らしい。ジャンルは異なるが「封神演義」を思い出した。けれどそれとは違い、複雑なストーリーかつ膨大な登場人物に翻弄されることなく、すんなりラク〜に読めて楽しい。しかし、評価については続編次第。面白くなりそうな予感もするが、これだけではまだわかりません。
 「ロード〜」第2作も観に行く予定だが、前作はすっかり忘れてしまった。そうならぬよう、早いうちに続編の発表を待つ。(ビデオで復習すれば&本を読み返せば、いいことですが・・・)

 
  高橋 美里
  評価:A
   その小説の世界に引きずり込まれて読むというのはとても幸せな読書なのだと私は思うのですが、この作品は、オモイッキリ世界に浸れた小説でした。あるところに、五行の力を使うという趙五行率いる村があった。そこで力に秀でた達人達に囲まれて育った燕児。ある日、修行の帰り道に猿と一緒に山で暮らす一人の少年と出会う。この出会いから全てが始まっていきます。この続きは果たしてどうなるのでしょうか?とても楽しみな作品。

 
  中原 紀生
  評価:B
   「ゲーム小説」というジャンルがあるんですね。私には未知の世界ですが、こんどはじめて読んで、このいかにも作り物の世界がけっこう面白かった。ちょっと唐突ですが、かの「教養小説」が、一つの人格が徐々にビルドされていくプロセスを追体験して、主人公への感情移入を楽しむロマンだとすれば、この作品など(「工学小説」と名づけておきましょうか)は、あらかじめ輪郭づけられた複数のキャラが、取り替え可能なシチュエーションのなかで絡み合い織りなしていくストーリーそのものを純粋に消費しながら、作者との共同作業でもって架空の背後世界を想像していく、かなり抽象度の高いプロセスを楽しむノベルなんだと思いました。「背後世界」とは無数の物語を生み出すデータベースのことで、ロマンにとっての実社会や神話的世界がもつ濃密なリアリティとは違って、いまたまたま上演されている筋書きがそこ(データベース)から切り出された一つのストーリーでしかないことを観客(読者)に指し示す、歌舞伎の書き割りのような希薄なリアリティを纏っています。こういった作品を読者に受け入れられるように書くには、かなりの才能が必要でしょう。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   ゲームはやらないけれど、この手の「少年少女向け・荒唐無稽ファンタジー・エンターテインメント小説」は嫌いではないです。そもそも小説である時点で一連の記述が正しいかどうかなんていちいち確認しませんから、なんだかよく判らない超能力で空を飛んだり炎を噴き出してもちっとも違和感を感じません。中国武侠モノと言われれば「なんでもOK!」という雰囲気がぴったり。奇想天外であればあるほど楽しくなっちゃうのですが…、本書は? 「ルパン3世」に当てはめられそうなステロタイプの登場人物たちに、お決まりの因縁やユニセックスの主人公に隠された過去。いったん広がるかと見せかけて、ちまちまと局所的にくり広げられる地味な戦闘。うーん、マンガもアニメもとんと見なくなっちゃったから感覚が古いのかもしれないんだけれど、いまだにこんなワンパターンのストーリーで読者を満足させられますか。新機軸なんて求められていない市場なのかなぁ…。