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エドワード・バンカー自伝
エドワード・バンカー自伝
【ソニー・マガジンズ】
エドワード・バンカー
定価 2,940円(税込)
2003/2
ISBN-4789719987

 
  大場 利子
  評価:A
   その時、いったい、バンカーは何才?何才でやってのけたのか?
 「別の家のアイスクリーム運搬用トラックを乗っ取り、近所の飼い犬を招いてアイスクリームパーティを開いた」のは4才。「初めて脱走を企てた」のは5才。「五年間に三つのミリタリー・スクールと六ケ所の養護施設を渡り歩いた」時には10才。ここまでで、悪さし尽くし感大いにあるが、3cm強の頁厚の2mmほどでしかない。ここからだ。少年院、刑務所、仮釈放、刑務所刑務所刑務所。何才までいるつもりだと、いい加減心配になる。始終、バンカーの年令を気にしていたのだった。何才の時以来、刑務所に入ってないか?さて。
 ●この本のつまずき→記憶力。すごい。誰がどんな織りの服を着ていたかまで覚えている。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
   ジェットコースターのような人生ってこういうことを言うんだろうな。刑務所→脱走(ときにまじめに出所)→娑婆ではヤバい仕事やって高級車乗りまわす→捕まって刑務所→脱走・・・(少年時代は刑務所を施設に置き換えましょう)この繰り返し。だけどそれが500ページ2段組で永遠に続くと考えて下さい、読むのは大変です。24時間くらい連続でハリウッドアクション映画見せられたような気分。
 この人が映画『レザボア・ドッグス』の最初のシーンで異常に目つきが鋭い人だった、と知り、ふと思ったこと。レンタルビデオ屋にも本を置いたらどうでしょう。関連書籍みたいなかんじで。映画館ではあるでしょう?スペースはとっちゃうけど、借りたビデオのに関連書籍あったらつい買っちゃうと思うけどな。多分、本買う人よりビデオ借りる人の方が比率的に多い気がするし。そんなコアな店あったら嬉しいなっていうだけですが。

 
  鈴木 恵美子
  評価:D
   「盗人にも三分の理」というが、500頁にもわたるこの手のアメリカ的限りなき自己肯定精神にのけぞった。作中再三繰り返されるのは、「確かに悪いことはした。が、社会の名の下で私に対して悪事がなされたことも事実であり」やられたら、やり返す、もっと賢くやられる前にやり返すのは当然だという主張だ。むむ、これってイラクに侵略爆撃し「フセインが亡命しないのが悪い。大量破壊兵器を隠しているのが悪い」というブッシュにも通じるぞ。日本人なら「御免なさい」と言うべきシュチエーションでも「It is not my fault 」とのたまうアメリカ人に前から違和感あったが、悪を犯しても、微塵の倫理的逡巡もなく悪を犯させた社会が悪いと怒鳴り返す本書に至って極まれりの感。刑務所の中でも人種対立や些細な面子のために殺るか殺られるかの流血暴動がある。「西部開拓時代と同じでいかに素早く武器をぬけるかが勝敗を決める」精神が生きている国なのだ。平和ボケ日本が失った闘争心、怖いもの知らずの打たれ強さには恐れいるが作家的成功に自得してるところに「自伝」の難しさ空しさを感じた。

 
  松本 かおり
  評価:A
   カバーに、刑務所で撮影されたと思しき著者の写真が掲載されている。そこに見える変化だけでも読む気をそそるに十分だ。表側では眼光鋭くカメラを睨みつけていた若者が、裏側ではやや疲れの滲んだ、笑みとも思える柔和な表情を浮かべた中年男になっている。
 9歳当時で18歳相当の精神年齢だったという著者は、少年時代から犯罪を繰り返し、人生の前半は少年院歴・刑務所歴が絶えることがない。仮釈放中でもやりたい放題。それだけに、「社会の名を借りて、あるいは誰かの名を借りて、私に対して悪事がなされたこともまた事実だ」と自分を正当化する部分はあまりに勝手な言い分に思え、私は共感できない。
 しかし、長年の刑務所生活の根底を支えた、書くことに対する著者の粘り強さにはただただ圧倒される。「俺だって書けばいいじゃないか」と閃いて以後、実に17年の歳月と長編6冊分の没原稿にもあきらめない。そしてついに「泥のなかから蓮の花を咲かせてみせ」た執念は、尊敬に値する。