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星々の舟
星々の舟
【文藝春秋】
村山由佳
定価 1,680円(税込)
2003/3
ISBN-4163216502
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  大場 利子
  評価:B
   六篇からなる長篇。目次に連なる六篇の題。意味、目的、表すことをたとい共感できなくとも、字そのものというかその字の姿に、ほっとさせられる。
 「家族とは、そして、人生とはなにか。」と帯にあるが、そこまで考えなくてもいい。なにかが分らなくてもいい。それでいいと言ってくれる。「――幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。」この一文に出会えただけで十分。読んで良かった。
 ●この本のつまずき→装丁が素晴らしい。ジャケ買いしたとしても、最後まで読ませてしまう力ある装丁。もちろん装画ありきだが。物語と装画がここまではまるとは。

 
  新冨 麻衣子
  評価:AAA
   村山由佳。いかにもコバルト出身っぽい表紙やら題名やらで、これまで敬遠してきた作家である。しかし!!そんな自分は間違っていたと、深く反省してしまうほどにインパクトのある作品だった。読んだ後もしばらく胸の痛みが続く。
最悪の勘違いから愛してはいけない人を愛してしまった兄と妹、それを知った家族たちの現在と過去が、それぞれの視点から描かれる。お互いへの激しい恋に思いを残しながらも違う人生を生きる兄と妹、他人に属す男ばかりを愛してしまう末妹、完璧ともいえる家庭に背を向け野菜づくりに安らぎを見いだす兄、そして戦争時代の心の痛みと二人の妻への思いを抱え、子や孫を見守る父。それぞれの世代の、抱える罪悪感がこの小説の最大のスパイスだ。今後の作品もかなり期待大。ちなみに本誌で北上氏が帯のコピーをほめていたが、わたしは読んだ後ではむしろ背の部分の「家族だからさびしい。他人だからせつない。」のほうにぐぐっときてしまいました。どちらにせよ、この帯コピーをつくったひとはすばらしいってことですね。

 
  鈴木 恵美子
  評価:C
   まだ30代の作者なのに、なあんか古い感じ。何故だろ?男女関係で男が女を「お前」なんて呼ぶのも、えーっ???恋も一途にひたむきに運命的過ぎて前近代的、今時ありぃ? って感じ。題もメロドラマチックで時代がかってない?
 戦前生まれで職人気質の頑固偏屈ドメステックバイオレンスおやじに、子連れで後妻に入った元家政婦の母が、けなげで出来過ぎてるってなとこも典型的だし。
そう、「けなげ」ってのも古い美徳だよね。でもこの小説のキーワードはこれかも。家族の一人一人がけなげに美しく描かれ、平凡で卑小な日常の中の愚行までが醜くならず、すったもんだも、何故かみんな「星々」になっちゃう。そしてバラバラに暮らしていても、絆のある家族なんて、救いがありすぎて…。わがまま自己中の寄せ集めで一緒に暮らしていても何の絆もなく崩壊してる家族小説主流の今時、この古さが却って新鮮ってのはあるかも知れない。実を言うと、古いのは嫌いじゃありません。ぺらんぺらんな新しがりの危なっかしさよりは古典的端正の安定に親しみを感じます。でも、この作品のそこまで古くない深くない中途半端さちょっと苦手。

 
  松本 かおり
  評価:AA
   著者が登場人物たちを見る目、語る言葉はときに冷酷なほど淡々としている。後悔、悲嘆、罪悪感や自己嫌悪など、できるならば隠しておきたいと願うような感情をも、静かに緻密に描き出す。その逃げや甘えのない筆致には、自分自身の古傷までえぐられるようで、思わず何度か息苦しくなった。しかし、不思議と不愉快にはならない。著者は誰をも裁かないのだ。禁断の恋をしようと、不倫の穴に落ちようと、戦争のトラウマがあろうと。
「――幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない」「叶う恋ばかりが恋ではないように、みごと花と散ることもかなわず、ただ老いさらばえて枯れてゆくだけの人生にも、意味はあるのかもしれない」。 
 重之のこの台詞には、しみじみとひとしきり涙した。満身創痍で、ただ生きた人生でもいいじゃないか。それでも意味がある、と私は信じる。来し方行く末を想いながら深い共感と安堵に包まれる、「真摯」という言葉がふさわしい作品。

 
  山崎 雅人
  評価:B
   母の死をきっかけに、十数年前に家をでた兄が帰郷した。忘れたことのない、恋人として過ごした日々。禁断の愛のすえ離ればなれになった兄妹が、再開する。よみがえる兄妹の罪深き愛の記憶。そして、家族もまた様々な愛を経験していた。他人の男ばかり好きになる次女、不倫に走る長男、戦時の苦い経験から逃れられない父と、それぞれに悩みを抱え、罪を意識しながら生きてきたのだ。
 罪の意識に苛まれながらも、静かに強く生きていく。といった類の話は、嫌いではない。本書のように、切なさの中にわきあがる力を感じる話は、特に好きである。しかし、どうしても気になることがある。展開や構成に新鮮さがないことは、さほど問題ではない。家族がひとり残らず罪を犯しているところに不自然さを感じ、興醒めしてしまうのだ。
 それでも、深く心にしみいる物語であることには変わりはない。家族の格闘の記録を細やかに描いた秀作であることにも意義はない。