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三谷幸喜のありふれた生活 2
怒涛の厄年 三谷幸喜のありふれた生活 2
【朝日新聞社】
三谷幸喜
定価 1,155円(税込)
2003/4
ISBN-402257836X
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  大場 利子
  評価:A
   布団に入って、眠気が襲ってくるまでのつかの間にこの本を開けるか、もしくは、朝、トイレに座っているほんの少しの間に開けるか、このどちらかをおすすめしたい。間違いなく、気分のいい眠りになるし、気分のいい朝の始まりになる。もしくは虫の居所の悪い時に読んでみるのもいいかもしれない。居所を忘れるから。
 新聞連載を毎週読みながら、もうそろそろ連載を終らせるべきだと何の根拠もなく思っていたが、第三弾の単行本がやはり読みたいので、それは訂正します。単行本にまとまるまでは、とりあえず、連載を続けて下さい。
 ●この本のつまずき→和田誠の挿画。動く三谷幸喜を見ても、この挿画が重なるほど。

 
  小田嶋 永
  評価:A
   最近、ちょっと悲しかったことの一つが、『HR』が終わってしまったことだ。コメディでありながら、とてもスリリングな30分。演じているほうはたまらないだろう、とまでは思ったが、脚本家の心境までは想像が及ばない。そのあたり、このちょっと狷介なところのある脚本家の苦悩と、創作上のスタンス、笑いの原動力の一端がうかがえるコラムである。「僕らは与えられた情況の中で全力を尽くす。でもそれは決してベストではない。ま、だからこそ、次も頑張れるんだけど。」同世代で後厄のぼくが、『HR』でどれだけ元気づけられたことか。それがコメディの魅力であり、三谷幸喜の底力なのであった。

 
  新冨 麻衣子
  評価:B
   実は私、朝日夕刊の掲載時から愛読している。なんか、まさに彼の作品のようなドタバタとした日常のエッセイが、夕刊というゆるめな感じにぴったり合うんですね。しかしまあ一冊にまとまってみると、タイトルどおりの「怒濤の厄年」。引用すると「母親は病気になるし、『You Are The Top』は本番直前に役者が交代するし、伊藤俊人は死んじゃうし、揚げ句に今度は『オケピ!』まで僕から取り上げようというのか。」こんな「厄」の連続ながらも、決して暗くならないのは彼のキャラクターか筆力か。
職業柄、いろいろな役者さんたちがこのエッセイに登場するのだが、戸田恵子やら香取慎吾やら、そんなエンターティナーたちのあふれるパワーが、三谷幸喜というフィルターを通して、こちらにも伝わってくる。もちろんそんな<派手>な一面だけでなく<地味>な彼の一面も、ちょっとマヌケなどたばたぶりに好感もてます。

 
  鈴木 恵美子
  評価:B
   朝日新聞の連載、今も読んでます。まさに「名は体を表す」で「幸」と「喜」の「ありふれた」ではなく「あふれた」生活とお見受けします。「自分の芝居に自分で笑」ったり、「掛け持ちでカーテンコール」という仕事面での充実。家庭面でも、妻にしか聞かせたことのない家庭用の声をもつ男、その妻と飼い猫を上にいただき、その下に我が身と拾い猫と犬を置く、何とも平和な序列。可愛いイラストのせいか、喜劇作者精神あふれた文体のせいか、読むたび、ふふふっという感じでした。「厄年」というには、脂ののりきった仕事ぶり、本番直前で主役交代を余儀なくされた舞台も上手く開演に漕ぎ着け、母の病気も大事に至らず、友の死は昔の絆を確認するよすがとなり、「ぶつかった壁は喜劇で破れ」とあくまで元気。やはり笑いを作り出すエネルギーはグレイト!そういえば、私が数え19歳の厄の歳、今は亡きバアチャンが、「おみゃあさんもそうそう笑ってばっかはおられん歳になりゃーたわゃーも」とのたまったが、やはり厄年は笑いで乗り切る方がよいような…。

 
  松本 かおり
  評価:C
   売れっ子脚本家が41歳の「本厄」を迎え、いろいろな「思い通りにならないこと」を乗り越えながら、日々脚本を仕上げ、舞台で挨拶し、稽古に出る。「厄年」を連発しつつもどことなく明るい雰囲気が漂い、あとがきの「止まない雨はないように、明けない厄はないのです」という言葉が暖かい。
 三谷幸喜氏、私は名前しか知らなかった。なにせ私がテレビを見るのはNHKのニュースと天気予報、ドキュメンタリー程度。観劇にも無縁。氏が手がけたドラマや芝居、登場する俳優たちも大半を知らず、いまひとつピンとこない点が多いのは、もうどうしようもないので諦めた。
 しかし、無知な分だけ知る楽しみがあるというもの。主演俳優の代役探しの難しさや脚本書きが進まない産みの苦しみ、舞台監督の存在感など、プロの仕事場拝見はとても新鮮だ。俳優同士の友情から舞台の企画が始まることがあるなんて初めて知った。演劇界は、もっとビジネスライクな世界かと私は思っていたのである。

 
  山内 克也
  評価:B
   地方から見る三谷幸喜は、『振り返れば奴がいる』『王様のレストラン』など「人気TVドラマを手がける脚本家」とのイメージしかわかなかった。この本では、やり直しがきかない舞台ならではの苦労ぶりやドタバタを赤裸々に書き、興味津々の連続。読み終えて、三谷は「舞台」の人だと、あらためて感じた。
 印象に残ったのは、パルコ劇場で公演された『バッド・ニュース☆グッド・タイミング』の一件。前列観客の男が居眠りし、主演の伊東四郎が激怒、三谷も鼻持ちならない。そこで、観客に気づかれないように、出演者の一人にアドリブを交えその輩を起こせと指示する。
 脚本にかけては絶対的な面白さに自信を持ち、かつ舞台成功に向けた三谷の繊細さに、売れっ子脚本家の身の削るような思いが行間からにじみ出る。上京の際は、ぜひ三谷脚本の緊迫感あふれる「舞台」を楽しんでみたくなった!

 
  山崎 雅人
  評価:B
   エッセイを読む楽しみのひとつに、自分の知らない世界を覗き見できるところがある。コメディの人気脚本家で、妻は女優の小林聡美とくれば、ありふれた日常でも興味津々、期待しないわけにはいかない。
 著者の厄年に起こった出来事を、日頃の些細な失敗から、舞台の危機、友人の死までふんだんに綴った本書は、期待を裏切らない。ユーモアあり。涙の中にもユーモアあり。混乱の中にもユーモアあり。時にはシリアスに、時にはしんみりと。しかし、どんなシチュエーションでもコミカルさは忘れない。笑いと愛情にあふれたハートフルエッセイである。
 小心者で引っ込み思案。なのに目立ちたがり。まじめなつもりなのに、ちょっとずれている。どことなくおどおどした独特に語りに、そんな人柄がにじみでている。遠慮がちに毒づいている様子も微笑ましい。憎めない人というのは、こういう人なのだろう。控えめパワー全開の中年の妙を、存分に堪能したい。