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サイレント・ゲーム
サイレント・ゲーム
【新潮社】
リチャード・ノース・パタースン
定価 2,940円(税込)
2003/4
ISBN-4105316044
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  大場 利子
  評価:A
   「面白かった。」友達にただそれだけを言って、この本を手渡したい。2段組・510頁・厚さ4cmのこの本を手にして、げぇと言うかもしれないが。
 「自分が殺していないと知っている唯一の人間」であることが、どう作用していくのか。法廷の中、人生の中で、それは大きく割合を占める。読み手は誰を信じるか。それは法廷の中の陪審員さながらである。「わたしが殺人罪から救った依頼人はひとりとしてその後殺していない。少なくともわたしには、多少の慰めになる。」と、主人公の弁護士は言う。陪審員になったつもりの私も少なくともそうでありたいが、果たしてそれでいいのだろうかと戸惑いながら読み進んだ。
 ●この本のつまずき→「瑕疵」読めなかった。

 
  新冨 麻衣子
  評価:AAA
   待ってました。リチャード・ノース・パタースンの最新作!!期待を裏切らず、今回も最高です。弁護士トニーのもとに高校時代の親友サムの弁護も依頼がくる。今や二人の母校の教頭となったトニーの嫌疑はなんと、教え子マーシーとの性的関係と殺害容疑。しかしトニーには、この依頼を受けるにしぶる大きな理由があった。彼は高校時代、恋人アリスンの殺害事件において、まさにサムと同じような嫌疑をかけられていたのだ。迷いながらもトニーは、過去の友人知人を巻き込み状況的に不利な裁判を戦う決心をする。しかし今回の事件が未だ解決されていないアリスンの事件と酷似していること、また事件の真相は謎であることが、裁判でもまた精神的にもトニーを追いつめる。法廷での緊張感、豊かな人物描写、奥深いストーリーに、最後まで眼を離せないことうけあい。また若き日のトニーを描いた『サイレント・スクリーン』(扶桑社ミステリー)もおすすめです。

 
  鈴木 恵美子
  評価:A
   原題は「Silent Witness 」黙っている目撃者。無実の被疑者の苦悩をよそに最後の最後まで黙んまりなりを潜めていた奴がヤバイってわけね。
 親の目を盗んで家から抜け出してくる恋人を待つ恋の甘美が、悪夢へと急転直下。強姦殺人容疑をかけられた17歳、クールな秀才、スポーツヒーローだった彼がいくら「自分は殺していない。彼女を愛していた」と訴えても、閉鎖的な街の人々は彼を疑い疎外する。無実の罪で告発される恐怖と苦しみに耐え、不起訴を勝ち取ってくれた弁護士と、ライバルの恋人スーの信頼によって「人生を取り戻し」街を出て、弁護士として成功した彼が弁護することになった相手は…。
 依頼人を無罪にする辣腕が、必ずしも罪に公平でなく、正義と矛盾する結果に苦悩しながらも、有能な弁護士であり続けようと全力を尽くすのだが…。「勝てば正義」で終わらない現実と真向かうところが読ませる。対校試合プレイ中「人殺し」コールで野次られても、殺された彼女の両親の憎悪から退学請願会にかけられても、動揺と戦い自分を失わない少年時代から出来過ぎてる。この主人公。

 
  松本 かおり
  評価:A
   17歳のとき、恋人のアリスン殺しの濡れ衣に苦しんだトニー・ロード。弁護士となった28年後の今、当時の親友サムが教え子マーシー殺しの容疑者となり、妻のスーがトニーに弁護を依頼してくる。
 サムは本当に殺っていないのか? 事件の真相を推理しながら読み進む、法廷モノの醍醐味が堪能できる長編だ。単にサムが無実か否かだけの話なら珍しくもないが、トニーの心の傷と依頼人の妻への想い、男同士の執念深いライバル意識など、過去と現在の間で揺れる複雑な精神状態をからめたところが一味違う。しかも、最終章まで気が抜けない濃厚な構成。「まさか……!」の事実でトドメを刺され、心底ゾッとさせられること請け合いだ。自分と他者の間には常に厳然とした境界線があることを、恐ろしいほどに思い知らされる。
 トニーとスーが、愛情と友情の微妙なバランスを保って守り続ける信頼関係も見逃せない。28年の歳月と未練を越えて、人間としてお互いの大切さを認め合う、そんな大人ならではのいい関係が、読後感の良さにつながっている。

 
  山内 克也
  評価:A
   最近読んだリーガルサスペンスの中では白眉の一冊。検事との駆け引き、証人との心理戦など、著者が弁護士出身でもあるせいか、法廷内の描写は臨場感にあふれている。でも、ま、2段組500ページも及ぶ、長いストーリーに飽きることなく読み干してしまうのは、プロットの緻密さでしょ。
 辣腕弁護士の主人公は、殺人罪で被告となった高校の同級生の助けを受け故郷へ帰る。故郷は、かつて主人公が恋人殺しとして容疑を受けた苦い思い出の地。さらに被告の妻も同級生で、若い日に“関係”したことに葛藤を覚え、裁判の闘いに微妙な影を落とす。複雑な人間関係を設定しながら最後までぶれることなく書き通している。また、宗教に絡む「性」の問題や、「人種」問題といった、アメリカに内包する社会病理も正面きって取り上げ、作品全体に重みを持たせている。パタースンの裁判小説は、物質的にも精神的にも重量感を覚えるなあ。