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木曜日の朝、いつものカフェで
木曜日の朝、いつものカフェで
【扶桑社セレクト】
デビー・マッコーマー
定価 1,100円(税込)
2003/4
ISBN-4594039405

 
  池田 智恵
  評価:C
   年齢も立場もそれぞれ違うけれど、それぞれに懸命に生きている女性たちが、木曜日の朝いつものカフェで話し合う。彼女たちは、それぞれの困難に向かい合いながら、ゆるやかに深いつながりを持ち、互いに支え合い励ましあう関係をつくってゆく……。
 いい話ですよ。ディテールも細かいし、人間の見方に細かい配慮がなされているし。すごく大切なことが書きたかったんだと思います。でも、でもですね。こんなにすべらかなハッピーエンドでは、心の支えや後押しになりません。いや、いろんな価値観の人間が破綻なくかき分けられているから、新聞の投書欄を読んだときのような知識としての広がりは得られますけど。
 でも、本当に辛い時ってハッピーエンドは慰めにならないんですよ。登場人物たちのような困難に今まさに向き合っている人たちにとっては、この本は随分のんきな印象を与えるのではないかと思いました。(個人的に、今回全体に点を辛くつけてます)

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   夫に逃げられて離婚した女、家族とうまくやってはいるものの40歳にして望まぬ妊娠をしてしまう女、役者志望だけれど完璧な姉と比較されいつも母親に駄目出しされる女、年下のスケコマシに言い寄られ迷う57歳さみしい未亡人。ちょっと弱っている四人の女性たちが厚い友情を育みながら少しずつ自分を取り戻し、元気になってゆくストーリーです。長いこと女をやってると、人生に疲れてしまうことはない?そんな私たちを励ましてくれる小説ダヨ!これを読んでクスクス笑ってちょっぴり泣いてその後は少し元気なあなたになれるハズ。バイバイ、昨日までのさびしがりやなワ・タ・シ・・・。 という作者からのメッセージを無意識で受け取りました。まあ確かに我々女というものは自分の悩みや不安をブチまけあい、共感し合うことで安心するというところがあります。この小説はまるで友人の悩みを聞いているかのようにすんなりと心に沁み入りました。ラストがややハッピーエンドすぎる気がちと致しますが、ま、難しいこと考えたくないときもあらあ。楽しく読める小説でありました。

 
  児玉 憲宗
  評価:B
   年齢の違う女性達が、友情を育て、人生の苦労を分かち合い、お互いを励まし支えあい、一人だけでは知り得えなかった「自分なりの幸せ」を見出してゆく。それがつらい真実や、運命であったとしても。
「ブリジット・ジョーンズの日記」+「セックスアンドザシティー」の「キルトに綴る愛」+「マグノリアの花たち」版といったところだろうか。
 同世代としか話が合わず、年代が違うと先輩後輩の縦関係が入り込んでしまいがちな日本人女性では、こういった割りきった友情関係も、なかなか築きにくく、読んでいるとうらやましい気もする。それぞれの主人公が決していい子でなく、エピソードもリアルで、共感しながら読めるのではないだろうか。「うへ、こんな関係面倒くさそー」と感じてしまう人と男性には、ちょっと馴染まないかも。

 
  高橋 美里
  評価:A+
   まず、タイトルに惹かれてしまいました。本が届いた時に読んでいた本を一旦途中で読むのをやめて読み始めてしまうくらい一目ぼれでした。
 主人公は4人の立場も年齢もちがう女性。4人は日記の書き方講座で出会い、講座が終わった後も木曜日の朝、きまって朝食を共にするという“ブレックファストクラブ”をひらいている。4人にはそれぞれ抱えている悩みがあり、それは日記という形で綴られていきます。文章にしながら自分を見つめて行くというのでしょうか。それがとても読みやすく、気持ちがすごく伝わってくる。(訳の問題もあるのだと思いますけど)日常って、何もないようで本当はいろんなことが起きている。毎日日記を綴るというのはそういう些細なことから見つめていくっていうことなんですよね。だからかもしれないけど読みながら主人公たちにとても近い気持ちになれます。
 何事にも下を向かず立ち向かい続ける友達を支えていく姿には読んでいる自分も励まされます。読み終えた後この作品に出会えたことに感謝してしまいました。

 
  中原 紀生
  評価:C
   読み進めていくうち、あまりに達者で上手すぎるデビー・マッコーマーの小説技法がだんだんと鼻につきはじめて、なぜだか突然腹がたってきました。年齢も境遇もまったく違う四人の女性をめぐる四つのストーリー──ビジネス・ウーマンの劇的で陰翳に富んだ経験談(別れた夫の死を看取るクレア)、人生後半の伴侶をめぐる初老の臆病な恋物語(年下の小児科医と結ばれるリズ)、人生の岐路を迎えた女優志願の若い女性の家族との和解(婚約者と天職を得たカレン)、そして幸福な家族を見舞ったちょっとした事件(高齢出産で家族との絆をより強めたジュリア)──が巧みに組み合わされ、あまりに流暢に語られるので、ほとんど抵抗なしに物語の世界へ入っていける。入っていけるのはいいのだけれど、そこから出てきたとき、軽い欠伸の一つとともに、なんの抵抗も屈託もなく我に帰ることができるに違いない、そんな完璧にスケジュールが組まれた小旅行のような読書体験が嘘っぽくて嫌になり、それはきっと私が四人のヒロインたちに感情移入できなかったからだと思う。それでも、読み終えたとき、よくブレンドされた逸品の珈琲を堪能した後の心地よい陶酔の香りが漂っていたのは、さすがです。

 
  渡邊 智志
  評価:C
   げんなり…。材料はそろいすぎるくらいそろっているんです。人物も充分すぎるほどそろっていて、まるでわざと作られたお話みたい。イヤわざと作られたお話なんですが。それぞれのエピソードもきちんと分水嶺が引かれていますし、まるで世の中の悩みや問題はカテゴリー別に分類が出来るかのようで、これまた上手く交通整理が出来ている。…うむむ、さんざん嫌味を言っていますが、この小説の“わざとらしさ”に倣って、どうにも“わざとらしい”感想しか抱けません。日記文体のあざとさにも文句をつけ始めると終わらなくなってしまいますが、もういちいちあげつらうこともないでしょう。…ところが、もしこの話が脚本化されて映画やTVドラマで映像化されたとしたら、これはこれでとても泣けるイイ話に仕上がるに違いありません。これくらいわざとらしくてあざといストーリーなら、音楽やイメージ映像の挿入などの演出によって、ボロボロ泣けるに違いないのです!