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勝手に目利き
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デルフェニア戦記
デルフィニア戦記
【中公文庫】
茅田砂胡
定価 (各)680円(税込)
2003/1〜4
(1)ISBN-4122041473
(2)ISBN-4122041627
(3)ISBN-4122041732
(4)ISBN-4122041910
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  池田 智恵
  評価:B
   「ウィザードリィ」が洞窟探検のシステムをファンタジーから抜き出してから、RPGという経路を通ってからファンタジーに接する世代が増えました。そういう世代の拡大とともに、ゲームの枠組みから物語を生み出そうとする人たちも増え、現在は巨大な産業を形成しているようです。この作品もそういった構造の中から生まれたんだろうな、と推察しました。
 だからでしょうか。本場モノのファンタジーの持つ神話的な物語構造なんかは存在せず、ひたすらシンプルな冒険活劇。実際主人公達の存在する世界に現実味やふくらみがない、という批判もしばしば受けているようですが、逆に言うと登場人物の魅力と物語のスピード感でこれだけきっちり読ませてしまう手腕はシンプルイズベストという言葉を贈って差し上げてもよろしいんじゃないかと思いました。
 でも、物語上とはいえ復讐は肯定して欲しくなかったです。別にこだわる箇所じゃないんですが、一応。

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   どうせ『十二国記』の二番煎じでしょ・・・と斜に構えて読み始めた。子供だましの代物に違いあるまいと高を括っていたら、あらら何だか止まらない。この気持ち何かに似ている、と思ったら、ドラクエでした。すごくやりたい!というわけでもないのだが、「ちょっとレベル上げとくかなー」と毎日ダラダラとやり続けてしまう。そんな感じで4冊一気に読んでしまった。ストーリーとしては、謀反によって城を追われた国王が不思議な少女(少年?)と出会い、仲間を増やしながら政権を奪還するというもの。ところどころに同性愛っぽい恥ずかしい会話があって気をそがれるが(ちなみに私はホモ小説が嫌いです。世の女の子は何故に男同士の恋愛にあんなにも惹かれるのか)、完璧勧善懲悪で、明るい展開、いずれはハッピーエンドが待っているというのがわかるあたりも良いです。十二国記は暗いからなあ、それも魅力なのですが。それにしても、このシリーズまだまだ続きそうなのですが、それは自分で買わにゃならんの?くう。嬉しい悲鳴。これもまたドラクエっぽい所以か。やってもやっても終わらねえ!

 
  高橋 美里
  評価:A+
   まさに、“待望の”文庫化、とも言うべきシリーズが登場。このシリーズは中公のC☆ファンタジーノベルスから出版されていたものですが、普通の講談社ノベルスとかの文庫落ちとはなんかちょっと感じが違うような気も。
 さて、この“デルフィニア戦記”デルフィニアという国を舞台にしたシリーズです。今回の課題図書になった1巻〜4巻は、国を追われた王─ウォル─とデルフィニアに迷いこんで来た一人の戦士─リィ─との出会いからはじまります。
 物語の中心人物たちの出会いは大体インパクトのある描かれたかをしていて、この作品でも、ウォルとリィは、敵に襲撃され、囲まれたところをリィが助太刀に入る、という、なんともカッコイイ出会いをします(ベタですかね?)
 ―とにかく、戦いのシーンがカッコイイ!剣さばき・敵の動きなど、読んでいると頭に綺麗な絵を描く事ができるんです。一瞬も目が離せません─国を追われた国王軍と、対するは、王を追い出したペルーゼン公爵。公爵のけしかけていく敵と戦ううちに、絆を深めた2人は、ウォルが王座を取り返すまで、リィは“真実の王に王冠を”かぶせてやるまで、行動を共にすることに。
 登場人物はどこまでも走りつづけていきます。それが読んでいて気持ち良い。読み応え十分のファンタジーです。

 
  中原 紀生
  評価:A
   正直に言うと、それほど期待していなかった。すぐに飽きてしまうんじゃないかと思っていた。なにしろ「ティーンズノベル」、オヤジが読むものではないと思いこんでいた。(これはまったく脈絡のない話題だけれど、その昔、私がまだ十代の頃、ジュニア小説というジャンルが活況を呈していて、私もずいぶん愛読したものだが、もし今この年になって読み返すと、たぶんもうダメだと思う。)でも、ところがなかなかどうして、いったん読み始めるとこれがすこぶる面白くて、とうとう一気読みで最後まで完走してしまった。戦略小説、政治小説としても絶品、かどうかはその道のプロの判定に委ねるとして、人物の造形といい筋の運びといい、第一級の語り手の手腕に気持ちよくのせられて、まだ読んだことはないけれど、かつてサラリーマンのバイブルと言われた(かどうか記憶がはっきりしないが)かの山岡壮八の『徳川家康』もかくやと思わせる感興を味わった。とりわけ第3巻、ウォルとリィが非業の死を遂げた父の復讐を誓う場面、「この剣と戦士としての魂に掛けて」という台詞を読んで、不覚にも涙がこぼれそうになった。お勧めできます。

 
  渡邊 智志
  評価:B
   まず、これはこういうものだ、と世界観とストーリーテリングのルールを受け入れる寛容さが必要でしょう? ここで現実の世界史や実録戦記モノを引き合いに出して、リアリティがどーのこーのと語り始めるのは、ジャンル違いの不毛な議論でしょ? …と、ここまではけっこう冷静に受け入れて馴染めたのですが、どうしても一点譲れないところがあるんです。それは「地図」。なにが好きって地図ほど好きなものはない(これは大げさだけれど、でも地図が挟み込んであるとそれだけで読みたくなる)のです。地図モノにはルールがあって、余白や使われていない地名や要素がなければならない、と思っています。目的地に向かうならまっすぐ進むでしょう? 作者が創作した世界の地図の拠点拠点を、ジグザグに結びながら全部を訪問しちゃダメ! せっかく作った世界をまんべんなく使いたい気持ちは判るけど、地図を見てニヤニヤと想像するんだから、少し残しておいてよー!