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勝手に目利き
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退職刑事
退職刑事
【創元推理文庫】
都筑道夫
定価 609〜630円(税込)
2002/9〜2003/3
(1)ISBN-4488434029
(2)ISBN-4488434037
(3)ISBN-4488434045
(4)ISBN-4488434053
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  池田 智恵
  評価:B-
   安楽椅子探偵という言葉を初めて耳にしました。だから、現役刑事の息子から聞いた会話のみから、事件を推察して解決する退職刑事というおそらく普遍的なのであろう構造の物語も初めて読みました。ほぼ会話のみの短編を読ませてしまう作者の能力は間違いなく高水準なのでしょう。それくらいは私にも分かったのですが、なんだか小説というよりパズルの本を読んでいるような気分になってしまい、あまり好きになれませんでした。ただ、これは小説に求めているものの違いだと思うので、お好きな方にとっては楽しめる本なのだと思います。通勤電車の中で読むには最適かもしれません。どれも15〜20分で読み終えることができるから。しかし、雰囲気がのどかです。これが発表された頃は猟奇殺人なんて言葉が一般的ではなかったんでしょうか。

 
  児玉 憲宗
  評価:A
   現職刑事の息子が自宅に訪れた退職刑事の父親に厄介な事件の概要を話す。息子は、昔の仕事を忘れられない父親に対する親孝行のつもりで話しているというが、実は父親の見事な推理にいつも助けられている。
 老練な元刑事は、息子との会話の中だけで、一歩も外へ出ず、たったひと晩で、ほとんどの事件を解決していまうのだ。
 短編な上に、固定されたこの単純な設定が、ミステリ素人のわたしにも充分に楽しめる要因となっている。

 
  鈴木 崇子
  評価:A
   お決まりのフレーズ「かつては硬骨の刑事、今や恍惚の刑事」が、何だか笑える。というかにやにやしてしまう。この呼出しなしに「退職刑事」に土俵にあがられては物足りない。
 「退職さん」の父と「現職さん」の息子。現場に行かずして、息子の話をもとに事件を解決してしまう父。安楽椅子探偵物という推理小説のひとつのジャンルらしいが、推理力ゼロの私からすると「退職さん」の洞察力はお見事という他ない。
 初出は70年代とのこと。物語の随所に一昔(二昔)前の日本らしさが感じられて、少々古めかしく、懐かしい。息子は父に敬語を使い、息子の妻は控え目で献身的、義父にセーターを編んだりする。父は父で息子の嫁に気を遣い自分でお茶を注いだり…。どうでもいいことだが、妙に新鮮。
 それはともかく、期待を裏切らない推理劇の数々は手だれの職人技のよう。どの話も面白かった。

 
  高橋 美里
  評価:A
   実はこのシリーズ、今は東京創元から出ていますが、都筑道夫が好きなので徳間文庫版を揃えてしまっていました……。そうしたら間を置かず創元から文庫化………。
安楽椅子探偵モノのミステリです。安楽椅子というのは強烈な個性を放つ探偵が多かったりしますが(猫丸先輩とか、北村薫のお嬢様探偵とか、挙句の果てには安楽椅子が探偵なんていう作品もありましたね……。)
このシリーズに出てくるのは、現職の刑事(息子)と退職した刑事である父。現職である息子がポツリポツリと話しはじめる事件の話を聞きながら、自らの推理を練り上げる退職さん。1つ1つの事件が本当に些細なことから崩れ落ちてゆく様は圧巻。未だ都筑道夫を読まれたことのない方、まずはこの作品からお薦めします。

 
  中原 紀生
  評価:B
   私の場合、和製・安楽椅子探偵と聞いて、まっ先に頭に浮かぶのが坂口安吾『明治開化 安吾捕物帖』の結城新十郎で、次いで、福永武彦が加田玲太郎の筆名で発表した「完全犯罪」その他の短編に出てくる伊丹英典。その加田玲太郎作品を、江戸川乱歩は「論理遊戯の文学」と評したという。都筑道夫が手塩にかけて育て上げた安楽椅子探偵・退職刑事が、息子の現職刑事から口づてに聞く犯罪現場の状況や関係者の人物像をたよりに繰り出す切れ味鮮やかな、しかし時として強引であまりに小説的な推理は、あくまで「論理的」な事件解決の道筋を示すものであって、結城新十郎や伊丹英典の華麗さはないものの、まさしく「論理遊戯の文学」の王道を行くものだと思う。ただ、この短編群を一度に読んでは、かえって興を殺ぐ。やはり月に一度の雑誌連載、あるいは週に一度のテレビ番組で、次号、次回を待ち遠しい思いで読む・観るに限る。それから、女気がないのもやや物足りない。「スリーA」こと、現職刑事の奥さんの美恵さんが会話に加わるとか、時には美恵さんが義父を相手に一本とるとか、ひねりが欲しいところ。(これは、読者の身勝手な無いものねだりですね。)

 
  渡邊 智志
  評価:A
   “密室”と“安楽椅子”という、時には真っ向から対立しかねないジャンルがどちらも大好きなのですが、どちらかというと(整合性や論理性の点で)“密室”の方が点数が厳しくなります。逆に言うと“安楽椅子”は、それだけであっさり満足してしまうくらい甘く評価しちゃいます。犯人当てが出来ないしやろうとも思っていないタイプの読者なので、探偵役が最終的に提示する回答に無条件でビックリしてしまうのです。うるさ型の評論家の視点からすると、詰めの甘さや粗が目立つのでしょうが、コチトラ多少の齟齬や矛盾があってもまったく気付かねぇンですから、わぁい安楽椅子の短編がイッパイ、しかも4冊も、ってだけでニマニマと楽しめるってもんです。ゆっくり楽しみたいので一気読了がもったいないと思いつつ、課題だから仕方がない。一話だけ(「大魔術の死体」)主人公より早く謎が解けたのですが、これは自分では快挙でした! やっぱり嬉しいものですね。