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リガの犬たち
リガの犬たち
【創元推理文庫】
ヘニング・マンケル
定価 1,071円(税込)
2003/4
ISBN-4488209033

 
  池田 智恵
  評価:B+
   ポーランドの中年警察官が、ひょんなことからソ連崩壊後のラトヴィアで反政府組織に協力することになる話です。この警官がいい人なんですよ。社会に蹂躙されるラトヴィアの人々を見ては心を痛め、ついつい協力してしまうことによってどんどんひどい目にあってしまう。善人であるがゆえによけいなことに巻き込まれてしまう、という主人公のもの悲しさに、何となくほっとした気分になりました。
いや、もうミステリー作家って、物語とはいえ人を殺すことに何の抵抗も覚えないのかな、というのが最近の疑問だったもので。この小説の登場人物は、人が殺されたり、傷ついたりすることに傷ついているという点で非常に健全で安心して読めました。しかし舞台が悲惨なだけあって、臨場感と緊張感が話を盛り上げてます。今のラトヴィアはこんなんではないらしいですけどね。

 
  児玉 憲宗
  評価:C
   スウェーデンの田舎町。海岸に、死体が乗せられたゴムボートが流れ着く。高級スーツを着た、若い男二人。身元が分からず捜査は難航、その後事件は「予想外な」展開をみせてゆく。
この「予想外」が、「見事な裏切り」というより、超B級香港武闘映画のように、シリアスな内容にもかかわらず、「そんなのあり?」とか「おいおい」といった、ツッコミどころ満載のストーリーになっている。
日本でも人気の高い、「列車関係で活躍する刑事さん」とか「全国各地行く先々で、必ず殺人に遭遇する確率の異常に高い人」シリーズのようで、ファンからするとこうでなくっちゃ、といった展開なのかもしれない。
入念な取材をもとにした「ベルリンの壁」崩壊後の東欧の様子や、人物描写も丁寧に書き込まれているので、その辺は読みやすくおもしろい。

 
  中原 紀生
  評価:B
   後を引く印象的な雰囲気と、ちょっと捨てがたい味わいを湛えたスウェーデン警察小説の佳品。惜しいと思うのは、主人公クルト・ヴァランダー警部と、鳥類学者かマジシャンになりたかったリトアニアのカルリス・リエパ中佐(ミステリアスな憂愁をたたえていて魅力的)が、つかの間の出会いにもかかわらず深く心を通わせあうに至った経緯がやや説明不足であることと、未亡人バイバ・リエパ(弱さと毅然を兼ね備えていて切なく魅力的)とクルト・ヴァランダーのラブ・アフェアをめぐる顛末がちょっと淡泊すぎて食い足りないきらいがあること。そもそも、主人公がリトアニアの政情に巻きこまれ深入りしていく経緯が、心理的にもストーリー的にもかなり唐突で説得力に欠ける点が致命的。(だから、意外な真犯人が判明するクライマックスの盛り上がりに不満が残る。)このあたりのことをじっくりと書き込んでいれば、紛れもない傑作ミステリーの水準に達したと思うだけに、惜しい。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   例えるなら、新潟の警察官が北朝鮮に渡って大銃撃戦をくりひろげて、なおかつ無事生還する、ってお話なのですから、とにかくびっくり。これがシリーズ物で他に9本もあるということで2度びっくり。北朝鮮に9回も拉致されてるよっ、…てのは例えとして不謹慎ですし、なにより大きく間違ってますね、スミマセン。馴染みのない国の馴染みのない田舎の馴染みのない国際関係の狭間地帯の設定とはいえ、一介の刑事がこんなに波乱万丈の事件に巻きこまれてもいいものでしょうか。スケールの大きさにびっくりしながら、こんな事を9回も続けられるのでしょうか、と要らぬ心配をしたりして。一生に一度あるかないかの大事件でしょう。いや、ひとりで背負うには大きすぎますよ。動機が“愛”って言われても、とても納得しかねる巻きこまれかたですが、問題無し! 未読だったのであわてて1作目を買ってきました。今後翻訳される続編もかならず読みます。いやぁ楽しみ!