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ボーン・コレクター
ボーン・コレクター
【文春文庫】
ジェフリー・ディーヴァー
定価 (各)700円(税込)
2003/5
(上)ISBN-4167661349
(下)ISBN-4167661357
(上)
(下)

 
  延命 ゆり子
  評価:A
   ミステリ、もしくはホラーというカテゴリーで読み進めていたら、違った。これって恋愛モノですよね。あー驚いた。上巻では科学捜査がメインで、連続殺人犯が残す手掛かりの謎を推理する。犯人が指定する時間ギリギリになるまで解読できないので、ドキドキです。たまにホームズばりのアナクロな推理も出てきたりして(足跡の謎、とか)それもおもしろい。上巻でも主人公であるライム(事故により頭と左手の薬指以外麻痺してしまった、元ニューヨーク市警の科学捜査官)と、サックス(たまたまライムに見込まれただけの警ら係の女性巡査。トラウマあり)の、反発しながらも惹かれあうあの様子がちらほらと見受けられるのだが、なんか中途半端で無意味だなァと思ってました。だって意地悪で冷酷な男の心を、行動力のある女の子が溶かしてゆく・・・ってラブコメの王道なんだもの。ジャマくせえ。しかし下巻に入ると突如濃厚な人間ドラマになる。サックスとライムの哀しい過去、心も体も傷つけあってきた者同士にしか分かり合えない恋の形が徐々に姿をあらわす。それが、切なくて、節度があって、また良いんです。最後、ライムが犯人と格闘するところでは私思わずジーンとしちゃいました。ライムガンバ!負けないでライム!同じメンバーでシリーズ化されているようなので続きも是非読んでみたい。

 
  高橋 美里
  評価:B+
   我が母は3度のメシと同じ位映画が好きだ。しかし、“みた映画を端から忘れていく”というのが難点で。カタカナを憶えられないので何を見たか憶えてない、なんとも困った母なのですが、先日この作品を読んでいた私に「その本って寝たきりの人が犯罪の捜査をするやつでしょ?」と言ってきた。(なんとも奇蹟みたいなことがあるもので)私自身、この作品は映画を見たので今回読んでみようと思ったので、読む前から、ストーリーの前知識みたいなモノはあったのですが。読み終えてみて思ったのは映画見てなかったほうが楽しめたかな?ということ。文章で表せること、文章でないと表せない事、臨場感っていうのは絶対在るとおもう。上・下巻長かったけれどじっくり読める作品。

 
  中原 紀生
  評価:AA
   デンゼル・ワシントン主演の映画を観ているから、プロットや真犯人は(多少の脚色=変形加工はされているものの)おおよそ頭に入っている。それでも、いや、それだからこそかもしれないけれど(というのも、傑作ミステリーは二度楽しめるから──最初はウブな処女のごとく作者の術中にはまり、再読ではすべてを知り尽くした経験者としてその手練を味わう)、この「ジェットコースター・サスペンス」は本当に面白いですね。アームチェア・ディティクティヴならぬ寝たきり探偵のリンカーン・ライムと、美貌の巡査アメリア・サックスとの交情が丹念に書きこんであるのがなにより嬉しい。かの『青い虚空』にもすっかりハマってしまったけれど、この『ボーン・コレクター』はそれ以上の作品で、たぶんジェフリー・ディーヴァーの代表作になるに違いない。強いて難点、というか読者として不満に思う点をあげつらうならば、巧みに書き分けられる真犯人の分裂したキャラクターがなかなかぴったりと一つに結像しないこと。これがクライマックスで突然姿を現わすボーン・コレクターに迫真の不気味さ、怖さをもたらさない所以だと思うが、これはそう大した疵ではない。──読み終えて、レンタル・ビデオ屋へ走った。映画で楽しみ、原作で楽しみ、再度映画で楽しむ。この贅沢な味わい方は、アイラ・レヴィンの『死の接吻』以来のこと。ちょっと古いか。

 
  渡邊 智志
  評価:A
   どことなく鼻につく主人公の性格と、ご都合主義が過ぎるきらいはあるものの、おおむね楽しんで読み進めることが出来ました。描写も丁寧だし、謎解きもストーリーの起伏も及第点。良くも悪くも“良くできた”お話です。安楽椅子探偵の範疇に入る主人公の設定はいくぶん特殊ですが、ストーリーなどはちょっと趣向を変えればいくらでも別の話が作れそうな感じです。こういうのは流行りモノというより、ジャンルとして定着したのでしょうかね。タイトルからなんだか嫌な印象が思い出されるのですが、いったいなんなのでしょう…? と思っていたら、映画を観ていたんですね。とても好きになれないDワシントンが主演の、とても面白くない作品でした。文庫になるタイミングが遅かったのかわざと遅らせたのかは判りませんが、映画を観てつまらないと思っていた方、原作はきちんと描かれていますし面白いから大丈夫です。あれは小説を読まずに作ったんですよ、きっと。